
SCMとは何なのか、ビジネスの観点から概要を解説しています。また、導入のメリットとデメリット、システムを社内に導入する場合のステップも確認していきましょう。
目次
SCMとは?ビジネスパーソンのための基本概念と意味
SCMは、企業活動を行う上で欠かせない概念です。何を意味する言葉なのか、基本的な定義を確認しましょう。また、物流管理との違いや、重要とされる理由も解説します。
■SCM(サプライチェーンマネジメント)の定義と意味
SCMとは『Supply Chain Management(サプライチェーンマネジメント)』の略で、日本語では『供給連鎖管理』と呼ばれます。これは原材料の調達から製造・物流・販売までの、一連の流れ全体を最適化する経営手法です。
従来は、各工程の企業がそれぞれ個別に利益最大化・在庫最適化を図っていましたが、SCMでは組織の壁を超えてサプライチェーン全体を一元的に管理し、全体最適を目指します。
1980年代から存在していた概念ですが、近年のECサイト発展による消費者購買行動の変化や、災害・地域紛争によるリスク、コロナ禍の影響により再び注目されています。
■物流管理とSCMの違いとは
SCMと物流管理の違いは『最適化の範囲』にあります。物流とは、主に荷物の運送や保管作業のことです。例えば、トラック輸送や倉庫保管などの機能を指します。
物流管理が一部分のみの作業にとどまるのに対し、SCMは全体の最適化を目指します。原材料の調達から製造・物流・販売まで、全体の流れを最適化するため、自社だけでなく、原材料メーカーや小売店など複数の企業が関わる全体プロセスを対象とします。
物流だけを効率化しても、製造や販売との連携がなければ、結局在庫過多や品切れといった問題は解決しません。SCMでは、関連企業と連携し、サプライチェーン全体で情報を共有することで、コスト削減と顧客満足度向上を同時に実現するのです。
■なぜ今ビジネスでSCMが重要視されているのか
現代ビジネスでSCMが重要視される背景には、いくつかの要因があります。まず、グローバル化による問題です。企業活動が世界規模に拡大し、生産・物流・販売ネットワークが複雑化したことで、情報の一元管理と効率化が必須となりました。
次に、市場競争の激化が挙げられます。原材料調達においても競争が厳しくなり、複数のサプライヤーから安定供給を確保する必要性が高まっています。
ほかにも、インターネット普及によるビジネスモデルの変化もSCMが重要視されるきっかけです。通信販売やフードデリバリーの急成長により、『販売』と『配達』の一体管理が求められるようになりました。
SCMの全体像と基本プロセスを理解する
SCMは、複数のプロセスに分かれています。全体像を知るために、各プロセスの流れや特徴をチェックしましょう。調達・製造から顧客対応まで、一連の業務について解説します。
■材料の調達と製造
調達・製造フェーズは、SCMの最初の重要なステップです。調達では、原材料や部品を最適な条件で確保することが鍵となります。
事業を継続していく上で、安定して調達ができるか、コスト面での問題はないかを十分に確認しなければなりません。
また、製造の段階では、できるだけコストを抑えて品質の良い製品を作り上げることが重要です。市場・顧客のニーズや最適なプロセスを検討し、製造の最適化を図りましょう。
■在庫・物流管理
在庫・物流管理は、SCMの重要な要素です。在庫管理の基本的な流れは、需要予測から始まります。消費者ニーズや市場動向を分析できれば、必要な在庫が判断できるでしょう。
多すぎる在庫は、資金がうまく回らない原因となり、保管コストの増加にもつながります。少なすぎれば、販売機会の損失が起きてしまうかもしれません。
物流プロセスでは、入庫から保管・ピッキング・梱包・出荷まで、各工程の効率化が求められます。近年では倉庫管理システム(WMS)の導入により、リアルタイムで在庫状況を把握し、最適な出荷ルートを選定することが可能です。
■販売・アフターサービスまでの顧客対応
SCMの販売段階では、顧客へ製品を提供することが主な目的となり、受注管理や販売促進活動を通じて売り上げの最大化を図ります。
アフターサービスでは、製品の保守・修理を行い、長期的なサポートを行います。定期点検やトラブル発生時の迅速な対応は、顧客満足度向上の鍵です。
近年のデジタル技術の進化により、顧客対応も大きく変わりました。AIチャットボットによる24時間サポートや、SNSを活用した顧客フィードバックの収集が可能になっています。
顧客対応を効率化するには、CRM(顧客関係管理)システムの活用が効果的です。顧客情報を一元管理し、営業・マーケティング・サポート部門が連携することで、一貫した顧客体験を提供できます。
SCM導入で得られるビジネス上のメリット
SCMを導入すると、複数のメリットが得られます。企業がSCMを導入するのはなぜなのか、一般的なメリットを確認しましょう。
経営手法を意識してうまくシステムを使いこなせば、売り上げアップや顧客満足度の上昇など、さまざまな効果が得られるはずです。
■コスト削減が可能になる
SCM導入のメリットの一つは、在庫の最適化によるコスト削減効果です。適切な需要予測と在庫管理システムを導入することで、必要なときに必要な量だけを在庫として保持できるようになります。
在庫をうまく管理することにより、過剰在庫による保管コスト・廃棄ロスを大幅に削減できるのです。例えば、倉庫スペースの縮小や保管料の削減だけでなく、在庫の回転率を向上する効果も期待できます。
また、SCMは単に在庫だけでなく、輸送コストの最適化も実現します。最適な輸送ルートの選定や混載利用の促進により、燃料費削減やCO2排出量の抑制にもつながるでしょう。
調達面でも、サプライヤー比較や交渉力を上げることにより、原材料や部品の調達コスト削減が可能です。総合的なコスト削減効果は、企業の利益率向上に直結し、競争力強化にも大きく貢献します。SCMは、企業全体の経営効率を高める戦略的ツールなのです。
■リードタイム短縮によって顧客満足度が上がる
SCMとは、顧客満足度向上のための重要な戦略であり、リードタイム短縮はその大きな効果の一つです。リードタイムとは、受注から納品までの時間のことで、これを短縮することで素早いサービス提供が可能となります。
顧客は待ち時間の短い企業のサービスを高く評価するため、リードタイム短縮は直接的に顧客満足度向上につながります。リピーター増加や、競合他社との差別化も実現できるでしょう。
ただし、待ち時間を減らすために過度な効率化を行うと、品質低下・在庫不足などに陥る可能性もあります。リードタイム短縮を成功させるには、各工程の問題点を整理し、人員配置や生産計画の見直しなど、現実的な範囲で改善を進めることが重要です。
SCM導入で起こり得るデメリット
SCMを導入するとメリットが多いように感じられますが、状況によっては何らかのデメリットが起こり得る可能性もあります。よくあるケースと、なぜそのデメリットが発生するのか確認しましょう。
■コストが高くなる可能性がある
SCMを導入するには、システム導入の初期費用や維持費がかかります。また、SCMを運用するために、人手が必要になることも多いでしょう。
初期費用・維持費・人的コストなど、さまざまなコストが高くなると、企業の経営を圧迫しかねません。コストをかけすぎず、運用していけるかが重要です。
コストによるデメリットを避けるためには、導入前に試算を行い、コストよりも利益が上回るのか、利益が出るまでにかかるコストが許容できるのかを検討しなければなりません。
■SCMが企業に貢献できるかは明確ではない
SCMを導入したからといって、必ず売り上げの増加や顧客満足度の向上が可能となるわけではありません。
導入時点では、どのような効果があるかは未知数です。向き不向きや使い方によっては、効果が得られない可能性もあります。
また、導入後に評価を取り入れたとしても、SCMの導入だけで効果が現れたのか、他の要因があるのかを特定するのは困難です。
あくまでも、企業にとって良い影響を与える可能性があるという程度に考えておく方がよいでしょう。
実務で役立つSCM導入ステップと進め方
実際にSCMを導入するには、まず何をするべきなのでしょうか?導入までのステップから最終的な評価・改善まで、実際の流れとやるべきことを解説します。
■自社のSCM課題を見つける
効果的なSCM導入には、まず現状を正確に把握することが不可欠です。自社のサプライチェーンの課題を見つけてから、導入を検討しましょう。
在庫データの分析や需要予測の精度検証、発注業務の流れの確認などを通じて、具体的な問題点を洗い出していきます。
調達・製造・物流・販売の各プロセスを適切に評価し、改善すべきところを明確にしましょう。また、グローバル展開している企業では、各国・地域ごとの特性も含めた分析が必要です。
課題を見つけた後は、それらを優先順位付けし、短期的に取り組むべき課題と長期的な改善項目を区別することで、効果的なSCM改革の道筋が見えてきます。
■メンバー決定やサービス比較を行う
調達からアフターサービスまでの業務をマネジメントするには、担当する責任者やシステムの管理を行うメンバーを決めなければなりません。まずは、誰がSCMの導入を進めて方向性を決めていくのか、企業内で考えましょう。
メンバーが決まった後は、自社に適したシステムを導入するため、サービスの比較を行います。実際に導入した後活用できるのか、現場の声も重要になるでしょう。
使用感や機能だけでなく、導入コストや維持費についても検討する必要があります。コストがかかりすぎる場合、導入によるメリットが薄れる可能性もあります。
■評価を行い改善につなげる
SCMの導入効果を得るには、導入システムを活用した評価を行い、改善につなげることが大切です。
システム導入後しばらくしてから、在庫の様子や販売のプロセスを評価しましょう。効果が出ているのであれば、過剰在庫の削減や売り上げアップなど、何らかの結果が出ているはずです。
また、定期的なレビュー会議を設け、企業全体で課題を共有し、改善案を検討する体制も重要です。継続的な改善サイクルを回すことで、単なるシステム導入ではなく、企業文化として定着させることができるでしょう。
SCMとは事業活動を円滑に進める手法
SCMは、事業活動のうち調達からアフターサービスまで、一連の流れを最適化する経営手法を指します。
企業内のさまざまな活動に関連する経営手法のため、自社に合うシステムを導入することで、利益を生み出すきっかけにもなるでしょう。
導入には、メリット・デメリットの両方があります。どちらも把握した上で、導入の検討を行いましょう。
構成/編集部