
大手広告会社・電通が「男性従業員の育休取得率が103.1%」を達成したというニュースを発表した。
政府は、2025年までの目標として、男性(民間)の育児休業取得率50%を掲げており、義務では無いものの多くの企業が対応に迫られている。
そうした中、100%達成ではなく、それ以上の数字を出したというのは非常に興味深い話である。電通はどのような取り組みをしているのだろうか? 担当者に話を聞いた。
厳しい目を向けられる電通だからこそ社会の規範に
ーー電通は2024年度(1~12月)における男性従業員の育児休業取得率が「103%」を超えたとのことですが、どのような取り組みをされているのでしょうか
菅原:実は、この取り組みをしたおかげで大きく変化したといった裏ワザ的なテクニックはありません。
制度の周知や男性でも育児目的のお休みが取りやすい雰囲気づくりを地道に進めてきた結果が、今回の数字に繋がったのだと思います。
ここ数年で言うと、2022年度に88.6%、2023年度に94.3%、そして2024年度に103.1%と着実に向上してきました。過去のデータを振り返ってみると、取得率が一定のラインを超えた時、急激に取得率の数字が伸びたタイミングがありました。
ーー興味深いですね。いつ、何%くらいが分岐点になったのでしょうか
菅原:一回目が2018年から2019年で44%から69%に、その後、3年は7割前後を推移したのちに2021年から2022年に71%から88%へとそれぞれ大きく飛躍しています。
2018年のころ(取得率44%)でも、体感としては比較的多くの男性が育児目的のお休みをとってくれていると感じていました。しかし、数字で見ると半数にも満たないわけです。当時は、育児目的のお休みを取得したいと相談に来る従業員にはアプローチをしていたのですが、それだけでは大きな変化はありませんでした。取得をしたいという意思の有無に関わらず、対象者に向けて広く周知したことで、大きな変化が起こったと感じています。
いわゆる「プル型」から「プッシュ型」へ、情報発信方法を変化させたんです。
そしてこのアプローチを変えたことが実を結び、少しずつ制度の利用者が増え、数字にも現れたのだと推察しています。
ーーちなみに、なぜ100%を超えるのでしょうか
菅原:厚労省が推奨する計算式に則って計算を行うのですが、それだと100%を超えることになります。
具体的には、分母を「当該年度配偶者が出産した従業員数」とするのに対して、分子は「当該年度育休や育児目的休暇を取得した従業員数+その前年度出生があり育休や育児目的休暇を当該年度初めて取得した従業員数」を使用します。
つまり、2023年にお子さんが生まれて、2024年に初めて制度を利用している方も含んでいるため、100%を超えることがあるのです。
※1 男性従業員の育児休業取得率は、改正育児介護休業法を適用し以下の方法で算出。
[(当該年度育休や育児目的休暇を取得した従業員数+その前年度出生があり育休や育児目的休暇を当該年度初めて取得した従業員数)/当該年度配偶者が出産した従業員数 ]
※2 男性従業員の育児休業平均取得日数は、以下の方法で算出。
[ 当該年度育休を開始した従業員数の育休取得(取得予定を含む)日数合計/当該年度育休を開始した従業員数 ]
ーーとはいえ、実質、ほぼすべての該当従業員が育児目的のお休みを取得している(できている)わけですね。
菅原:はい。特別に希望をされないケースを除けば、ほぼ取得できています。ありきたりな言葉となりますが、やはりそれぞれの部署で業務量を調整するなどをして助け合うことで、「他の人に仕事を任せられないから取得できない」といったケースが無くなるのだと思います。
私たち電通は働き方という面では世間から厳しく見られていますので、働き方改革では業界をリードできるように進めてきたという想いがあります。私たちが実績を積み重ねることが、広告業界、ひいては日本社会に良い影響を与えることにつながると思いますので、男性従業員の育児休業取得率が向上してきたことは本当に嬉しい限りです。
お話を聞いたのはこの方
菅原 美千代さん
株式会社電通コーポレートワン
人事オフィス 労政マネジメント室 労政部:育休推進担当者
取材・文/峯亮佑 撮影/干川修