
デザインの話をすると”センス”の有無がしばしば議論されます。そもそもセンスとは何でしょう? ふわっとした言葉で1人歩きしている気もします。実際、デザインは「目線をどう誘導するか」「この色はどんな効果があるのか」など、言語化して因数分解が可能なテクニックなのです。
デザインは難しいものではありません。イラストや図形だけでなく、文字のレイアウトも立派なデザインです。
例えば、文字を「太字にする」「フォントを変える」といったアレンジも「意識を向けたい」という意図を持ったデザインで、すでに多くの方が取り入れているのではないでしょうか。
多くのビジネスパーソンが直面するであろう「プレゼン資料のデザイン」について、デザインのプロにそのコツを教えてもらいました。
言語化してみる
デザインで悩んだ時に、まずやってみてほしいことは「言語化」です。
「何か違うな…」と感じた時に、自分なりの言葉で良いので言語化してみることが大切です。
はじめから答えを出さなくても構いません。「この色が違うな」「カッコ悪いな」と少しずつ言語化していきましょう。
その過程を重ねていくことで、良いと思えるデザインにたどり着いた時に、”なぜ、これが良いのか”を説明できるようになります。デザインに絶対はありませんので、まずは自分なりの正解に辿り着くことが大切なのです。
真似をする
真似とパクリの境界線が不安になるかもしれませんが、大切なのは、”そのまま真似をする”のではなく、”良いなと思った要素”を真似することです。
上で紹介をした「言語化してみる」から地続きなのですが、良いなと思った要素を言語化してみましょう。そのデザインの背景にあるテクニックや意図を読み取ってみて、真似をするのであれば、それはパクリではないと思います。
さらに応用として「真似をしない」というテクニックにも発展可能です。
誰かの資料を見て”悪いと思った要素”についてを、その理由を考えてみましょう。例えば「色使いが多すぎる」「どこを読めが良いのかわからない」「文字が多くて疲れてしまう」など、読みたくない資料と出合うことも多いはずです。
一度、言語化をしておくことで真似をしないという選択肢ができるので、今後、自身のデザインにも応用ができるようになるはずです。
デザインの良し悪しは狙いが伝わるか否か
デザインそのものに良いも悪いもありません。
強いて言うならば、「狙いが伝わる」デザインが“良いデザイン”なのです。
私たちがよく作ってしまいがちなスライドが左側です。
一方で、「デザイン」を取り入れて、狙いを持って作ったスライドが右側となります。
この資料において最も重要(狙い)なのは「CCCC」です。
そのために、まず意識したのが文章量です。「CCCC」を強調するために冗長な表現を簡潔に言い換えています。
例:「転換していきます。」→「へ。」
意味は十分に伝わった上で「CCCC」を伝えたいという狙いがより強調されていますよね。
要素をシンプルにすることも大切です。
左側のスライドでは「CCCC」の次に重要な「BBBB」にもアンダーラインを引いて少し強調しています。しかし、これでは受け手は「BBBB」「CCCC」の2つに意識を持っていかれます。
右側のスライドでは「CCCC」のフォントだけを大きくすることで、受け手は「CCCC」にだけ意識を集中することができます。その結果、本当に伝えたい「CCCC」を印象的に伝えることができます。
下記、4枚のスライドはすべて同じ情報ですが、異なった提案に見えると思います。(全て、パワポにある機能で作ってみました!)
どれが良い/悪いではなく、同じ情報でもデザイン次第で狙いの伝わりやすさが変わることはご理解していただけるのではないでしょうか。
例えば、右下は「格式が高そう」ですよね。ラグジュアリーな商品やサービスを提案したい時には良いかもしれませんが、ポップでカジュアルな商品・サービスでは不向きです。
どうしたら狙いが十分に伝わるのか、一度、全く違ったサンプルを用意して比較・検討してみても面白いかもしれません。
明日からできるテクニック「箇条書き」
今回紹介したデザインの感覚は、資料作りだけでなく普段の業務でも養うことができます。
その一つが、普段のメールやチャットで「読みやすさ」を意識することです。
メールやチャットって、ついつい要件をベタ書きしてしまいがちです。
そこで、私が普段から意識しているのが要件を記号と改行を使って読みやすくすることです。
そうすることで要件の数が一目でわかるので、受け取り手も回答がしやすくなります。
相手にストレスをかけず伝えることの心配りができることが、デザインの本質だとも思っています。
今回、教えてくれたプロはこの方!
一森加奈子さん
株式会社電通 アートディレクター
1995年生まれ、2018年武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科卒業。NYADC、ACC、TOKYO TDC、他受賞。2024年ヤングスパイクス日本代表。電通Bチーム、Firstthing所属。扶桑社『美しすぎるパワポ』にも掲載。
「アートディレクター はデザインのプロと言いつつも資格がないお仕事です。では、どんな目線でデザインを扱って、アウトプットをしているのか?苦手意識を持っていた方もいらっしゃるかもしれませんが、デザインは論理で考えることができるテクニックです。みなさんのご参考になれば幸いです」
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取材・文/峯亮佑