
2024年に育児・介護休業法が改正され、2025年4月より段階的に施行となった。本記事では、改正の背景やこれまでの改正履歴とともに、今回の改正で変わるポイントをわかりやすく解説する。
目次
育児や介護をしながら働く人を支える法律である育児・介護休業法が2024年に改正され、2025年4月より段階的に施行された。前回の改正から約3年ぶりとなり、今回の改正では特に育児中の働き方や休暇に関する既存の制度が拡大する。
この記事では、育児・介護休業法の改正で変わるポイントをわかりやすく解説する。さらに、育児・介護休業法が改正される背景や、これまでの改正履歴もチェックしておこう。
改正育児・介護休業法が2025年4月・10月に段階的に施行
育児・介護休業法は、育児や介護をしながら仕事を続ける人を支援する法律だ。働く人が家庭の事情を理由に離職することなく、家庭と仕事の両立ができるよう配慮し、より良い雇用環境の整備を目的としている。正式名称は「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」という。
まずは、育児・介護休業法が改正された背景や、これまでの改正履歴を解説する。
■改正される背景
育児・介護休業法が改正される背景の一つとして、男性の育児休業の取得率が女性と比べて低いことが挙げられる。令和5年度の育児休業取得率は、女性84.1%に対して男性は30.1%と、その差は大きい。また、高齢化が進むことで、介護をしながら就業する人も増加しており、育児や介護を理由とする労働者の離職防止が求められていた。
今回の改正では、男女ともに希望に応じた仕事と育児・介護の両立を目指す。子の年齢に応じて柔軟な働き方を選択できる措置の拡充や、介護離職防止のための支援制度の強化などが行われる。
■これまでの改正履歴
育児・介護休業法は社会の変化や現場の声が反映され、現在までに数度の改正を経ており、そのたびに各企業の就業規則が見直されてきた。
2022年の改正では、特に男性の育児参加促進を意識した内容が追加された。出生時育児休業(産後パパ育休制度)が創設され、1歳までの育児休業とは別に育休が取得できるように改正。これにより、配偶者が出産のために入院している間の他の子の育児や、退院時のサポートがしやすくなった上、本来の育休も分割での取得が可能になった。
改正の概要は以下の通り。
- 出生時育児休業の創設
- 育児休業の分割取得
- 個別の制度周知・休業取得意向確認と雇用環境整備の措置の義務化
- 有期雇用者の育児・介護休業取得要件の緩和
- 育児休業取得状況の公表の義務化
出典:厚生労働省「育児・介護休業法 令和3年(2021年)改正内容の解説」
【2025年4月施行】育児に関する法改正のポイント
今回の育児・介護休業法の改正において、育児に関する法改正の施行は段階的に行われる。まずは育児に関する法改正について、2025年4月に施行された変更点を解説する。
■子の看護休暇の見直し
子の看護休暇に関する条件などの見直しが行われ、それによって制度の名称も改められた。
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改正前 |
改正後 |
名称 |
子の看護休暇 |
子の看護等休暇 |
対象となる子の範囲 |
小学校就学の始期に達するまで |
小学校3年生修了まで |
取得理由 |
病気・けが 予防接種・健康診断 |
感染症に伴う学級閉鎖 入園(入学)式、卒園式を追加 |
労使協定の締結により除外できる労働者 |
(1)引き続き雇用された期間が6か月未満 (2)週の所定労働日数が2日以下 |
(1)が撤廃されて(2)のみに |
■所定外労働の制限(残業免除)の対象拡大
残業免除を受けられる対象者が拡大する。改正前は「3歳未満の子を養育する労働者」だったが、改正により「小学校就学前の子を養育する労働者」までが対象となった。
■時短勤務の代替措置にテレワーク追加
3歳未満の子を養育する労働者に関して、時短勤務が困難な場合の代替措置の選択肢にテレワークが追加された。これにより、代替措置は以下の5つとなる。
- 育児休業に関する制度に準ずる措置
- フレックスタイム制
- 始業・終業時間の繰上げ・繰下げ
- 保育施設の設置・運営
- テレワーク
■育児のためのテレワーク導入
3歳未満の子を養育する労働者がテレワークを選択できるよう措置を講じることが、事業主に努力義務化された。テレワークを利用することで通勤時間が削減され、育児と仕事の両立が容易になることを目的としている。
■育児休業取得状況の公表義務適用拡大
改正前の育児・介護休業法では、従業員数が1,000人を超える企業に対して、男性の育児休業等の取得状況の公表が義務付けられていた。改正後は従業員数300人超の企業に公表が義務付けられる。改正によって、より多くの企業が男性の育休取得に関する状況を世間に明らかにすることとなる。
公表は、インターネットなど誰もが閲覧できる方法で行う。公表する内容は、公表前事業年度における男性の「育児休業等の取得割合」、または「育児休業等と育児目的休暇の取得割合」のいずれかの割合を指す。
【2025年4月施行】介護に関する法改正のポイント
介護に関する法改正は、すべて2025年4月より施行された。変更になった点を詳しく解説する。
■介護休暇を取得できる労働者の要件緩和
介護休暇の取得要件の緩和により、看護休暇を取得できる労働者の範囲が拡大される。改正前の育児・介護休業法では、労使協定の締結により以下の労働者は介護休暇の適用対象外だった。
(1)週の所定労働日数が2日以下
(2)継続雇用期間6か月未満
改正により(2)が撤廃され、「週の所定労働日数が2日以下の労働者」のみ介護休暇の適用対象外となる。
■介護離職防止のための雇用環境整備
事業主に対して、介護を理由とした離職を防止するための雇用環境の整備が義務付けられた。これは労働者が介護をする必要が生じた際に、介護休業や介護両立支援制度等の申し出を円滑にできるよう定められている。具体的には、以下の4つのうちいずれかの措置を講じること。
介護休業・介護両立支援制度等に関する研修の実施
介護休業・介護両立支援制度等に関する相談体制の整備
自社の労働者の介護休業取得・介護両立支援制度等の利用の事例の収集・提供
自社の労働者へ介護休業・介護両立支援制度等の利用促進に関する方針の周知
■介護離職防止のための個別の周知・意向確認等
事業主は、労働者が家族の介護が必要になったことを申し出た際に、労働者に対して以下の情報の周知と介護休業の取得・介護両立支援制度等の利用意向の確認をすることが義務付けられた。
また、実際に家族の介護が必要になると想定される時期よりも早い段階(40歳等)でも制度に関する理解と関心を深めるため、同様の内容の情報提供をする。
介護休業に関する制度、介護両立支援制度等
介護休業・介護両立支援制度等の申出先
介護休業給付金に関すること
個別周知や意向確認の手段は、面談、書面交付、FAX、電子メール等のいずれか。
■介護のためのテレワーク導入
「育児のためのテレワーク導入」と同様、家族を介護する労働者がテレワークを選択できるように措置を講ずることが、事業主に努力義務化された。
【2025年10月施行】育児に関する法改正のポイント
2025年10月からは、主に育児と仕事の両立をサポートする環境整備を充実させるための改正が施行される。導入される内容について詳しく解説する。
■柔軟な働き方を実現するための措置等
事業主は、3歳から小学校就学前の子を養育する労働者に対して、以下の措置の中から2つ以上の措置を講じ、労働者がそのうち1つを選択して利用できるようにすることを義務付けられる。
- 始業時刻等の変更
- テレワーク等(10日以上/月)
- 保育施設の設置運営等
- 養育両立支援休暇の付与(10日以上/年)
- 短時間勤務制度
また、労働者の子が3歳になるまでに、自社で選択できる2つ以上の措置と対象措置の申し出先、残業免除などの制度に関する情報を労働者に周知し、制度利用の意向を確認することも義務化される。周知は面談、書面交付、FAX、電子メール等のいずれかで個別に行う。
■仕事と育児の両立に関する個別の意向聴取・配慮
事業主は、労働者が本人または配偶者の妊娠・出産等を申し出たときと、労働者の子が3歳になるまでの適切な時期に、子や各家庭の事情に関してヒアリングを行い、自社の状況に応じた配慮をすることが義務付けられた。
ヒアリングする内容は以下の事項だ。
- 勤務時間帯(始業および終業の時刻)
- 勤務地(就業の場所)
- 両立支援制度等の利用期間
- 仕事と育児の両立に資する就業の条件(業務量や労働条件の見直し)
ヒアリングは面談だけでなく、書面交付やFAX、電子メール等も可となっている。
※情報は万全を期していますが、正確性を保証するものではありません。
文/編集部