
「寝ても覚めても、ボクサーパンツのことばかり考えています。好きすぎて、一面に敷き詰められたベッドにダイブしたいくらい」
にこやかに、しかし間違いなく“本気の目”でそう語るのは、グンゼ株式会社(以下、グンゼ)で商品企画を務める水野しおりさん。自他ともに認める“ボクサーパンツ愛好家”で、学生時代にその魅力にとりつかれ、気になる商品を穿き比べては“研究ノート”にまとめてきた。
愛が高じてグンゼに入社し、4年目にして主力ブランド「BODY WILD」初のリブランディングの機会に、夢のレディースインナーの企画を担当することに。自身が開発から携わった女性用のボクサーパンツを世に送り出し、反響を呼んでいる。
水野さんは、どうしてボクサーパンツにのめり込んでいったのか? 商品を作り上げるうえで、こだわり抜いたポイントは? 今後の野望は? 気になるギモンを、本人にぶつけてみた。
見た目と履き心地に惚れ込み、“『BODY WILD』成型ボクサーパンツ”の虜に
「レディースインナーには、レースやリボンが付いた装飾豊かな商品も多いですが、私は“女性らしさ”を前提としたものよりも、かっこよくて、穿き心地のいいショーツを求めていました。大学生になると、下着売り場やECショップを定期的に調べ、気になる商品を見つけては試すようになったんです。そのなかで、『BODY WILD』のレディース成型ボクサーパンツに出合い、ひと目見て“これだ!”と感激しました」(水野さん、以下同)
当時の『BODY WILD』はメンズ商品が中心ながらも、一部のオンラインサイトや直営店ではレディース向けのボクサーパンツを販売していた。テイストがガーリーでもレーシーでもなく、かといってスポーティーに寄りすぎていることもない。メンズブランドの老舗が生んだ絶妙な“ボーイッシュさ”に、水野さんは強く惹かれたという。
「デザインも好みなうえに、穿いてみたら、伸縮性から穿き込みの深さ、嫌な締めつけのないフィット感まで、まさに自分の理想そのものでした! そこから『BODY WILD』成型ボクサーパンツに夢中になり、私の“研究”が始まったんです。毎日グンゼのオンラインストアをチェックしては、新商品や復刻デザインが出るたびに購入し、作りや穿き心地の違いをノートにまとめました。その作業がとにかく楽しくて……大学時代に発売された商品は、ほぼ全部持っていますね」
お気に入りの商品ページは“スクショ”して残していたため、スマホには、廃番になったものを含めてボクサーパンツの画像がびっしり。「今でもときどき見返してはニヤけてしまいます。私の宝物です」と笑う。
やがて「自分も商品を生み出す側の人間になりたい」という思いが募り、就職活動でグンゼの選考を受けることに。理系の学部で繊維について学んでいたため、グンゼ以外は素材の開発・製造を行う会社にエントリーしたが、第一志望にかける気持ちは並大抵のものではなかった。
「当時は新型コロナウイルスが猛威をふるっていて、面接はすべてオンラインでした。画面越しで伝わるか不安でしたが、自分はこれと決めたらとにかく追求すること、好きなものは実際に入手してコレクションすること、そして何より、グンゼとその商品への想いは誰にも負けないことをアピールしたつもりです。この会社でこそやりたいことを叶えられると思っていたので、内定通知をいただいた瞬間は、涙が止まりませんでした」
憧れ続けた商品の企画・開発メンバーに “生みの苦しみ”を味わいながら理想を追求
2021年4月、晴れてグンゼの一員となった水野さん。最初の配属先はインナーウェアの開発部門で、主にメンズ、キッズ商品の設計業務に従事した。京都にある宮津工場で製造過程を学んだり、開発者から歴代の商品にまつわる秘話を聞けたりと、刺激的な日々だったという。
「開発メンバーはみんな仕事に誇りを持っていて、これまでに作った商品の写真を見せながら熱く語ってくれたのが印象的でした。その情熱に触れたことで、自分も“ボクサーパンツが好き”、“『BODY WILD』のレディース部門を担当したい”という気持ちを口にするようになったんです。そんななかで、入社4年目に大きなチャンスが巡ってきました」
なんと、念願叶って『BODY WILD』レディースインナーの企画・開発メンバーに抜擢されたのだ。『BODY WILD』はメンズのアンダーウェアブランドからトータルアパレルブランドへと進化すべく、26年の歴史のなかで初めて、コンセプトやロゴを刷新。同時に、それまで細々と展開していたレディース商品も大々的に売り出すことになり、「せっかくなら、好きだと言い続けている水野さんに」と白羽の矢が立った。
それからは約1年かけて、新たな成型ボクサーパンツの企画・開発や、商品のビジュアル化に取り組むことに。気合い十二分で臨んだが、完成までの道のりは平坦なものではなかった。
「まず、成型の良さを生かしつつ、女性の身体に沿った設計を実現するのが難しかったです。成型ボクサーパンツのポイントは、優れた伸縮性や、ほぼ縫い目のないつるっとした仕上がりになること、ゴムがない分、1点に締め付けが集中しないことです。レディース商品も、体の凹凸に合わせて立体的に編むことで局所的な締め付け感を軽減したく、試作品を作っては調整を繰り返す日々でした。独自の指標を用いて着圧を可視化し、“痛い”、“苦しい”が発生しない最高のフィット感を追求しました」
商品の作り込みだけでなく、ブランディングの面でも苦労したという。自身は長らく『BODY WILD』のファンだったものの、世間的には「認知がほぼゼロの状態からのスタートだった」と水野さん。レディースラインでは初となるビジュアル化に臨むにあたり、全体イメージやモデルもイチから考えていった。
「新コンセプトは、“身体(BODY)を自然(WILD)に回帰する”です。女性がありのままの自分で、ポジティブでいられるようなイメージを持ってもらい、それでいて『BODY WILD』が誇るカッコ良さを届けるにはどんなビジュアルがベストなのか、模索し続けました。モデルさんを選ぶ過程では、上司とぶつかったことも。撮影では、ポージングや表情の提案もさせてもらい、写真もすべてチェックしました。最終的にはチーム全員が納得するカットが仕上がり、自然と拍手が起こりました」
完成したポスターが展示会に並んだ日には、「等身大パネルだよ!? すごい!!」と興奮が止まらなかったそう。こうして、水野さんが愛とこだわりを詰め込んだ『BODY WILD』の新ウィメンズラインが世間に解き放たれた。