
@DIME宛に、僕への取材依頼が来たというメールをもらった。メディアは季刊のオーディオ誌『analog』。かれこれ10年以上前、“60~70年代ロックを聴くなら、デジタル(CD)ではなくアナログ(レコード)だ”と確信し、マト1のレコード(マト1についてはこちらを参照)を買い漁り始めた頃に何度か買ったことがある。オーディオ誌には珍しく大きな判型で、写真もページのレイアウトも綺麗な洗練された雑誌と記憶している。
さて取材の内容だが、マト1をテーマにした真保安一郎氏との対談と知り、腰を抜かさんばかりに驚いた。真保氏は僕の知る限り、日本におけるマト1探求の第一人者。マト1収集熱中時、『レコード・コレクターズ』誌での真保氏のマト1記事を読むだけのために同誌を何度も購入した。その記事の深いこと、深いこと。あまりにも深すぎて、僕程度ではついていけないレベルだった。
対談後に聞いたある質問
昨年、『レコード・コレクターズ』での連載をまとめた単行本『初盤道』の刊行を知るや即予約。一刻も早く読みたかったが、どういう事情か発売日が延びに延びて数ヶ月待って購入した。300ページを超える読み応えたっぷりの力作で、ページを開くのが楽しみだった。
しかし最初に紹介されるレコード、キャロル・キングの名作『つづれおり』を読み出すや、早々に挫折してしまう。本来こういう原稿では、何故に挫折したかを説明するべきだ。だがそれを書くとかなりの長文になり、その説明も一般の方にはなんのことかよく分からないこと間違いなし。よってあえてここでは書かないが、僕がキャロル・キングのファンではないから興味が薄く挫折したわけでは決してない。本書で全てのスタジオ録音アルバムが取り上げられている、とことん好きなレッド・ツェッペリンの記述でもかろうじてついていける程度。初盤道の世界で、真保氏を横綱とすれば僕は序の口レベル、対談など畏れ多い話だ。
ところが電話で担当編集氏から、真保氏は“優しい方で僕の@DIMEでのマト1記事も読んでいて、出版界の先輩(7歳上)たる僕に会いたがっている”と聞く。またどこか静かな所でじっくり対談するのではなく、お店で酒を飲みながらリラックスして語り合うスタイルを考えているという。ならば精神的に臆することはないだろうし、序の口が横綱に稽古をつけてもらえる機会など滅多にない(豊昇龍関、ですよね?)と思い、お受けすることにした。その後のメールで対談のメイン・テーマは、“レッド・ツェッペリン『聖なる館』、イエス『危機』、それぞれのUKマト1とUSマト1、どちらの音がいいか”だとわかり、双方とも聴き込んでいるマト1、これなら話しやすいといよいよ気楽になる。
そして3月上旬、神田の焼き鳥店で対談と相なった。その模様は4月3日発売の『analog』をご覧いただくとして、対談後にある質問を真保氏にした。ここからが本稿の本題だ。対談にあたり、ある程度『初盤道』を読み直した。そのうちのP161から始まる章「白雁の数奇な運命」についての質問だ。白雁とはイギリスのプログレッシヴ・バンド、キャメルのアルバム『スノーグース』を指す。
キャメルは1979年1月に初来日、当時の就職学生のお約束で前年10月にクイーンのロジャー・テイラー風の長髪をバッサリ切って七三分けになり、ロック・スピリットが脆弱になっていた斎藤青年(僕です)がそのヘア・スタイルで見に行った初めてのコンサートで、近年のEXシアターやクラブチッタでの来日公演にも足を運んだほど好きなバンドだ。
さて僕の所有するUKマト1(正確には1W/1W)、音的には満足していた。ところが『初盤道』によると、同じ1W/1Wでも第一形態、第二形態、第三形態があり、数字が増えるにつれて音質の鮮度が落ちていく、“ああ、恐ろしい”と書かれている。ご当人に尋ねると、当然のことながらその通りとのこと。なぜ形態が複数あるのかの説明は複雑(よって割愛)だが、その見分け方はシンプルだ。レコードラベルのセンター穴左に印刷されている出版社表記が、第一形態はRAK PUB/C.CONTROL、第二形態はRAK PUB/P.BARDENS、第三形態はC.CONTROL/P.BARDENSとなる。
第一形態は見つかるか?
では、僕の盤はどれか? 残念ながらの第三形態で、音的に劣るという盤だった。となれば俄然、第一形態が欲しくなる。しばらく眠っていたマト1スピリットに火が付いた。『スノーグース』は並いるプログレ名盤に比べると価格相場は低く、10年以上前に4000円ほどで買ったが今でもその程度。また流通量も決して少なくないはず。掘り出し開始だ。
まずはお手軽にヤフオク。かつてはともかく、今は洋楽のマト1はあまり出品されていない印象があるが、案の定ない。ならば海外サイトだ。マト1熱中時に相当利用した中古レコード売買サイト、Discogsは出品ごとの画像がない。カテゴリー分けでマト1(この場合は1W/1W)かどうかまでは一応わかるものの、ラベルの確認まではできない。出品者に画像をリクエストすれば送ってくれることがあるが、いちいち面倒だ。
というわけで、個々の画像がアップされているオークションサイト、eBayで探す。検索窓に“snowgoose camel uk”と打ち込むと再発盤新品等を含めて76件が出てきて、約7割がリリース年の1975年発売盤と思われる。1件、1件、それらのラベル画像を選択・拡大してチェックする。面倒と言えば面倒だが、便利と言えば便利だ。その結果、およそ半数は第三形態、そして半数は出版社表記がセンター穴左ではなく曲ごとに印刷されたマト2W/3Wで、真保氏が呼ぶところの第四形態。第二形態は1件もなく、第一形態は3件あった。第一形態、第二形態ともにレアものなのか? これは探すのは大変なのかもしれない。
第一形態3件ののうち2件は同じ出品者の価格違いで、どちらも発売年が1976でRP(たぶんrepress=再発盤)という説明がある。再発盤のラベルが第一形態と同じとは? とDiscogsで調べると、確かに1976年リリースの再発盤のラベル画像は第一形態だ。何故かは見当もつかないが、本稿の趣旨とは無関係なのでこれ以上は触れない。
こうして1枚だけ第一形態が見つかった。価格は約3000円と異存なしだが、イギリスからの送料が約5000円かかる。高すぎると思うも、仕方がない。了解・納得、これにて落札・購入となるところだが、そうは問屋がおろさないのが“初盤道”の恐ろしさ(?)である。このレコードのラベル画像、A面は第一形態そのものだが、B面は第○形態どころか、Harry Chapinなるアメリカのシンガーソングライターの『SHORT STORIES』というアルバムなのだ。これはどう考えても間違いだろう。ヤフオクなどと同様eBayにも出品者に質問する機能があり、問い合わせる(もちろん英語)。
ところが待てども待てども返事がない。とはいえ待ったのは2日、なぜなら経験上返事は24時間以内には来るからだ。遅いと思いつつ改めて当該サイトを見ると、なんとB面の画像が削除されている。つまり僕の質問は読んだが、返事はしないということだ。出品者としていかがなものか? しかし第一形態は滅多に出ないレアものと思われる。長い目ならともかく、直近に掘り出せる可能性は少ない。出品者へのユーザー評価はpositive100%。“画像を削除することで返事としたのだろう”と好意的に解釈し落札、購入手続きへ進む。
するといつも利用するpaypalが、“問題が生じているようです”という状況で決済できない。仕方なく滅多に使わずポイントも貯めていないVISAカードを利用したが、まあそれはよしとしよう。これで約3週間後の到着を待つだけだ。
その待つ間に、意外なことが起きた。これだから初盤道は面白い。eBay購入の2日後、春風亭一之輔の独演会があり渋谷に出向いた。中学2年生でハード・ロックに目覚め、ロック少年からロックおじさんになるまで、落語などロックの対極にある無縁のエンタメと思っていた。しかし65歳を過ぎて前期高齢者ともなると、もはやロックおじいさん、「笑点」が毎週の楽しみとなり一之輔ファンとなる。一之輔に行くのは、今回で7度目だ。
会場で配られたチラシを見ると、“プロデュース 広瀬和生”とある。あれ、どこかで見た名前? そう、ヘビメタ誌『BURRN!』の元編集長と同姓同名だ。ヘビメタで落語、そんなバカな? と帰宅後にネットで調べて、その広瀬氏は著書も多数ある部類の落語好きと知る。ならば、僕が落語に惹かれだしたのはロック魂のなすことか……。
話を戻す。開場まで時間があるので、ダメ元で渋谷の中古レコード店を回った。1店目は、『スノーグース』の在庫なし。2店目は後年の再発盤が1枚。3店目のHMVではまず2W/3Wを見つけ、次に1W/1Wを目にする。どうせ第三形態と思いながらカウンターに検盤を申し出て、ビニール袋からレコードを取り出す。すると、eBayにはなかった第二形態。念の為、裏返してB面を見ても第二形態。価格は3850円で、即買いした。ちなみのその後、ディスクユニオンのオンライン経由で『スノーグース』の在庫がある店舗にも問い合わせたが、第一形態ともどもなかったので、レアものであることは間違いないようだ。