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話題の床材「ころやわ」って何?転倒骨折を防ぐ新技術が救う介護の未来

2025.04.10

「ころやわ」と聞いて、どんな商材を思い浮かべるだろうか。

不思議なネーミングが興味をそそる商材の正体は、転倒による骨折リスクを軽減する「床材」のこと。車イスでもスムーズに走れるほどしっかりとした床なのに、転んだ時は柔らかく床面が凹み、衝撃をキャッチしてくれる。

話は逸れるが、現在50代の筆者。同じ年齢くらいの友人と会うと、最近は親の怪我の話で盛り上がることが多くなった。足もとがふらついたり、ちょっとした段差につまずいたりする親を目にするたびに心配だが、「怪我をするから動くな」とも言えないし、遠方に住む親のそばに付き添って手助けすることもできない。

また、晴耕雨読の典型だった祖父が梯子から落ちて、それが原因で寝たきりになったこともあった。祖父が落ちたのは50cmに満たない高さだったと聞き、「そんな低いところから落ちただけで?」と、本当に驚いた。

そんな時、「ころやわ」の存在を知った。「普段は硬い床材だが、転んだ時だけ凹んで衝撃を吸収する」というのは、どういった仕組みなのだろうか。この床材があれば、身近な人を守れるのではないか。

そこで、「ころやわ」の開発者で、株式会社 Magic ShieldsのFounder & CEO 下村明司氏に詳しく話を聞いた。

「ころやわ」って何?

「『ころやわ』は、普段はフローリングのように硬いのですが、転ぶと柔らかく沈み込む床材です」と下村氏。

その仕組みは、床材の断面を見れば一目瞭然だ。

通常時の「ころやわ」。硬くて歩きやすいし、車イスもスムーズに動かせる。

転倒時の「ころやわ」。床が沈み込んで、優しく衝撃を受け止める

「紙コップを裏返して並べ、その上に板をのせて、ゆっくり力をかける。すると、かなりの力にも耐えますが、急に力を加えると同じ力でもつぶれてしまいますよね。『ころやわ』は、この小学校の理科の時間にやった実験と似た仕組みでできています」

上記の仕組みは、「メカニカルメタマテリアル」と呼ばれる考え方に基づいているそうだが、これ以上の詳しい説明は文系卒の筆者には難しいので、ご勘弁いただきたい。

下村氏によると、「すでに全国600施設以上の病院や高齢者施設に導入済みです」とのこと。すでに、多くの施設で使われている注目の床材だ。

一体なぜ?バイクの研究者が床材を開発

今までとはちょっと違った視点から床材にアプローチした下村氏だが、その経歴は面白い。

「大学ではロボットの研究をしていました。その後、バイクが好きだったこともあり、ヤマハ発動機で14年間、オフロードバイクレースのファクトリーチームなどに携わっていました。自身もライダーでしたが、バイクは事故が多く、それによって友人を亡くすという辛い経験もしました。『人を守る』ということをテーマに開発を始めたのは、それからです。

例えば、洪水のニュースを見て『雨から人を守れないかな』と、雨を全部吹き飛ばすバイクを作ったこともありました。後ろの人がびしょびしょになるという迷惑仕様で実用化にはいたらなかったのですが(笑)。また、テロのニュースを見た際には、携帯できる盾を開発したこともありました」

下村氏は、「新しい商品を形にしていく中で、ビジネスにしないと本当に人を守ることはできない」と思い立ち、MBAを取得するべくビジネススクールに通い始めたという。

そうした中、当時骨折した患者のリハビリを行なっていた、 Magic Shields社の現副社長兼COOの杉浦太紀氏と話す機会があった。転倒骨折して寝たきりになる老人が多いことや回復しても自宅で転倒し、また骨折して戻ってきてしまう人が多いことを聞き、転倒骨折を防ぐ新商品を開発するべくMagic Shieldsを起業した。

試作、テストの連続だった商品開発

「転倒骨折を防ぐ」というテーマを掲げたものの、当初は、どんな転び方で骨が折れるのか、どれくらいの硬さや柔らかさが必要なのかといった明確なデータはなく、すべてが手探りの中での検証だったという。

しかも、病院や介護施設で実際に使ってもらわなければデータは得られないが、そこで失敗すれば、利用者がケガをしてしまうおそれがある。だからこそ、開発はとても慎重に進める必要があった。

「既存のケミカル素材でできた床材を調査し、そこから得られる情報を参考にしながら、試作品を何度も作り、テストを繰り返しました」と、下村氏は地道な積み重ねの日々を振り返る。

「ころやわ」が施工された例。これならしっかり立ち上がれるし、転んでも骨折しない

試行錯誤を続けた結果、ユーザーからは『ころやわ』に対するこんなうれしい声をもらったという。

「試作品のヒアリングで介護施設に行った時、『ころやわのおかげで、水分がたくさん取れるようになった』と涙を浮かべて喜んでくれた女性がいました。詳しく聞くと、彼女は夜中にトイレへ行くたびに介助を頼まなければならず、申し訳なさから水分を控えていたのだそう。けれど、『ころやわ』があることで、夜中でもひとりでトイレに行けるようになったといいます」

介護は、する側にとっても負担が大きいが、される側もまた、遠慮や気遣いから多くのことを我慢してしまっている。それが、さらに体調を悪化させてしまうことも少なくない。

やっとの思いで開発した「ころやわ」は、介護者だけでなく、被介護者に対しても「自由」を届けるものとなった。

新時代の床材「ころやわ」が目指す未来

センサー機能も備えた「ころやわ」マットタイプ

「現在は床材だけでなく、必要な部分だけをカバーしてセンサー機能を備えたマットがあります。センサー機能を内蔵した『ころやわマットセンサー』は、ナースコールとの連携により荷重がかかることで離床を報知することが特徴で、より介護の負担が軽減される設計となっています」

タイルカーペット型のジョイントマット

「また、自宅でも気軽に使えるよう、タイルカーペット型のジョイントマットも発売しています。価格は50cm²で3300円。ベッドの付近だけに導入するなら、目安にはなりますが6万円ほどで導入できます。転倒骨折をしてしまうと、入院費などかかる費用は40~50万円程度。そういった意味でも、骨折を未然に防ぐという考え方は重要だと思います」

多くの高齢者を救っている「ころやわ」だが、今後目指すゴールとはどこなのか。

「最終的には、世界中の建物そのものが人を守れるようになればと考えています。イメージしているのは、いわば『忍者屋敷』。建物のあちこちに、転んでも安全な仕組みが組み込まれていて、『転ばない』ではなく、『転んでも大丈夫』な建物です。医療や介護の施設だけでなく、住宅や公共施設にも取り入れてもらって、誰もが安心して老いを迎えられる未来が来てほしいと思っています」

今回、転倒骨折予防のための床材として「ころやわ」を取材したが、最後に下村氏が語った「転ばない社会ではなく、転んでも大丈夫な社会」ということばが、深く心に残った。

転ぶこともあるけれど、そこからまた立ち上がれる。「ころやわ」が目指す未来は、きっとそんな優しさを持っていると感じた。

取材・文/内山郁恵

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