
男性が身だしなみとして化粧品を使用することが当たり前になっている今。株式会社インテージの調査によると2024年の男性化粧品全体の市場規模は497億円(前年比114.8%)に増加しており、ここ数年右肩上がりで成長が続いている。
ただ、中身を詳しく見てみると市場を占めるのはほとんどが「スキンケア」で、「メイクアップ」は各メーカーが試行錯誤しているカテゴリーとなっている。
そんな中、花王の男性向け化粧品ブランド「UNLICS(アンリクス)」が仕掛けたのは、「婚活男性向けのメイクアップセミナー」。自治体と協力して婚活中の男性の希望者に、清潔感のあるメイク方法を直接伝授している。なぜ婚活男性向けなのか――花王の狙いを、UNLICS担当者にインタビューした。
地方自治体と協力。出会いの場で「自信が持てるようになった」参加者も
花王株式会社 化粧品事業部門 UNLICSグループ 小池真幸さん、李賢世さん。
「HUNGRY FOR BEAUTY.」をスローガンに掲げ、2022年12月にローンチした「UNLICS」。花王ではメンズビオレなどブランドの中で男性向けの化粧品は展開しているが、いちブランドとして、コンセプトから商品設計に至るまで、一貫して男性をターゲットに開発されたものは、UNLICSが唯一。男性化粧品市場の成長率の高さに注目し、しかも、花王として初めてD2Cブランドを立ち上げた点においては、ある意味、社内ベンチャーのような立ち位置のブランドとなっている。
男性ならではの肌悩みや肌特徴に合わせた化粧品を展開してきたが、ECのみの展開ということもあり、ローンチ後は想定していた成長軌道に乗り切れない結果に。ブランドの立ち上げから携わるUNLICSブランドマネージャーの三井純さんは、「ローンチ前に予想していたペルソナと、実際の購入者とのギャップがありました。チューニングをしながら走り続けた2年間でしたね」と振り返る。
2025年3月に栃木で開催された、婚活男性向けのメイクアップセミナー。写真提供:花王
そして2024年夏頃からN1分析を行い、発売当初想定していたペルソナである「周囲の目を気にせず、きれいな自分を目指したいと考える自己表現型の男性」から、実際の愛用者である「周囲の目を意識し、さりげない清潔感、好印象を大切にする男性」にターゲットを方向転換。シニアマーケターの小池真幸さんの発想でたどり着いたのが、「婚活男性に向けた身だしなみ美容メイクアップセミナー」だ。
小池さん「男性が美容に取り組もうとする際にさまざまな葛藤があるかと思いますが、自分を含め、男性の願望に思いを巡らせた時に、婚活など異性と交流するタイミングが、その葛藤を凌駕するほどに『好印象に見られたい』という承認欲求へと高めるのではないか、こう考えました。そして少子化対策で婚活支援を行なっている自治体に連絡し、メイクアップセミナーの開催に至りました」
午前中は30代・40代、午後は20代・30代向けにセミナーを実施。写真提供:花王
さまざまな自治体へと連絡し、第一回として2024年11月に香川県の「かがわ縁結び支援センター(EN-MUSUかがわ)」と協力してメイクアップセミナーを実施。さらに2025年3月に栃木県の「とちぎ結婚支援センター」と協力し、第二回が開催された。セミナーのコンテンツ作りを担当したのは、李賢世さん。第二回は第一回の反省を活かし、より一人ひとりの悩みに寄り添うセミナーにしたと話す。
李さん「両セミナーとも弊社のメイクアップアーティストが講師となり、初心者でも取り入れやすいメイクの方法を伝えました。香川では講師対婚活中の独身男性17名という大人数に向けたセミナー形式だったのですが、個人の持つ悩みのケアまでは難しく、栃木では午前中に10名、午後に10名と分けて小規模で開催し、より個人にフォーカスした内容に変更しました」
参加した男性はメイクアップセミナーを受けた後、女性との交流会に参加。参加者は「身だしなみを整えることで、気持ちが前向きになった」「自信がついた気がする」という声が多く、20代、30代、40代と世代問わず前向きな感想を話してくれたと言う。
李さん「実際に参加者を見ると、すごく表情が明るくなっていて、とても良いなと感じました。交流会では女性も男性がメイクアップセミナーを受けていることを知っているので、メイクが会話のきっかけにもなっていましたね。40代の男性から『普段見慣れている自分の顔が、メイクによってだんだん変わってくるのが面白かった』『それまでメイクは女性がするものと思っていたが、身だしなみの一つとして男性も気軽に取り入れられるということがわかった』といった感想もいただいています」
一人ひとりの悩みに寄り沿いレクチャー。写真提供:花王
栃木のセミナー終了後は、40代の男性を含む複数の参加者がUNLICSのスキンケアやベースメイクを公式オンラインショップから翌日までに購入。男性が化粧品を使うことに対するハードルを即座に越えるのは簡単なことではないが、購入キャンペーンに加えて、少人数制で一人ひとりの悩みに寄り沿い解決策を提示したことが、功を奏したと言う。
李さん「私自身、普段メイクをしていますが、1分1秒が大切な朝の出勤前など、タイミングによっては、やや億劫に感じることもあります。でも、メイクをして悩みをカバーすることのメリットの方が大きいので、習慣化しています。これからメイクに挑戦してみようという方にそのメリットを伝えきる、『やってみないとわからない』部分があるので、みなさんと直接お会いして、スキンケアやメイクの効果を一人ひとりに伝えることが大切だと考えています。
今後も美容に取り組むことのメリットを具体的に体感いただけるよう四半期に1回はこういったセミナーを開催し、男性が習慣的に美容に取り組むための機会づくりを地道に行っていけたらと思います」
簡単!清潔感のある印象に導くメイク術
「アクアハグウォーター」3,080円(税込)、「セラムme 04(ニキビ予防) 〈医薬部外品〉」3,850円(税込)、「セラムme 05(ブライトニング) 〈医薬部外品〉」3,850円(税込)
ここからは、実際に婚活男性向けのメイクアップセミナーで伝えられた、簡単メイク術を紹介する。まずは身だしなみの基本となる「スキンケア」。化粧水・美容液で肌を整え、土台を作っていく。UNLICSの化粧水は1種類で、美容液は5種類。美容液「セラムme」は「ニキビ予防」や「シミ予防」など、自分の気になる肌悩みに合わせて選べるのが特徴だ。
「インプレスカラーウェア バーサトルベージュ」3,080円(税込)
そして塗るだけで、清潔感のあるなめらかな肌に整えてくれるメイクアップベース「インプレスカラーウェア バーサトルベージュ」を全顔に。一度に使う量としては写真の通り米粒程度で、手の甲に取ってから指で塗っていく。
顔の中心から、外へ塗り広げる。
塗る時のポイントは、顔の中心から外へ広げること。全顔にくまなく塗ってしまうと、塗っている感が出てしまうため、「中心は多め」「外側は少なめ」に塗ると、自然な仕上がりになる。ほかにもテクニックを紹介するが、まずはこれを一つ取り入れるだけでも「変化を感じられる」と李さんは話す。
「インプレスカラーウェア フォギーオレンジ」3,080円(税込)
さらに「青ひげが気になる」という人は、メイクアップベース「インプレスカラーウェア フォギーオレンジ」を重ねるのもおすすめ。青の補色であるオレンジは、青ひげをきれいにカバーしてくれる。塗る量はごく少量で、指の指紋が透ける程度が目安。まずひげの流れに逆らうように塗ってから、ひげの流れに沿ってなじませるのがポイントだ。
「カラーレスコントゥアパウダー」3,960円(税込)
そして最後に「カラーレスコントゥアパウダー」のマットパウダーをパフに適量とり、鼻と額のTゾーンを中心にテカリを抑える。李さんによると、「メイクアップベースだけでも良いのですが、メイクをキープするためにマットパウダーは重要なので、初心者にこそおすすめしたいアイテム」とのこと。李さんはポケットに常に入れて、日中のテカリが気になった時にパウダーで押さえているそうで、これから皮脂が多くなる夏場にも便利なアイテムだ。
スキンケアやメイクの方法を伝えることで、男性が自信を持てるように後押しする花王の「UNLICS」。まだ男性向けメイクアップアイテムは認知度を高める導入期だからこそ、花王のように地道にメリットや魅力を伝える啓蒙活動を行うことで、成長に繋がると感じた。
男性美容市場は、まだまだ黎明期の市場ではあるが、「洗顔料なんてなんでもいい」と考えられてきた時代から変化した今があるように、数年後には、確実に変わっているはず、そう感じさせてくれたインタビューだった。
・UNLICS
https://unlics.jp/
取材・文/小浜みゆ
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