興行収入は31億円を突破!「機動戦士Gundam GQuuuuuuX -Beginning-」ヒットの裏にある東宝とバンダイの資本提携
2025.03.28
ガンダムシリーズの劇場先行版「機動戦士Gundam GQuuuuuuX(ジークアクス) -Beginning-」の興行収入が31億円を突破しました。
劇場版のガンダムは松竹の十八番でしたが、今回は東宝が配給しています。東宝はアニメーションが業績をけん引しており、ガンダムを手がけてヒットさせたことはアニメにかける情熱の高さを物語るものだと言えるでしょう。
資本提携した東宝とバンダイの思惑
ガンダムは、ドラゴンボールやONE PIECEのように人びとの間で広く知られるIPでありながら、劇場作品の影響力は長らく限定的でした。2019年公開の『劇場版 Gのレコンギスタ I 行け!コア・ファイター』が14億円、2022年『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』は10億円、2022年『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』が22億円でした。
潮目が変わったのが2024年公開の『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』。興行収入が50億円を突破します。この作品は2002年にテレビ放送されたシリーズの続編で、長い時間を経てもファンが根強く残っていることを強く示すものでした。ガンダムというIPの強さを誇示した作品とも言えます。
この映画の公開は2024年1月。配給は松竹でした。この年、ガンダムが大ヒットする裏で、ビジネスの地殻変動が起こっていました。2024年8月にバンダイナムコホールディングスと東宝が資本業務提携を発表。両社が25億円分の株式を取得して関係を強化、オリジナルIPの企画開発や映像作品を共同で発展させることを決めたのです。
バンダイナムコは2025年1月にガンプラの新工場を竣工。2026年度に稼働させ、2023年度比で35%の増産を図る計画を進めていました。
TOHOシネマズは2024年2月時点で全国705スクリーンを持つ、業界2位の大手。ガンダムの影響力を高めるうえで、うってつけの相手でしょう。
東宝は『鬼滅の刃 無限列車編』や『君たちはどう生きるか』、『名探偵コナン 100万ドルの五稜星』、『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』など、興行収入が100億円を突破するメガヒット作品がアニメーションで固められていました。ヒットの潜在性が高いIPが必要で『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』の好調ぶりを見ても将来性があると判断したのでしょう。
スラムダンクに見る中国市場の魅力
日本では定番とも言える巨大ロボットアニメですが、東宝は『シン・エヴァンゲリオン劇場版』や『劇場版 新幹線変形ロボ シンカリオン 未来からきた神速のALFA-X』など、その数は決して多くありません。その背景に市場が限定的であると判断していたことがありそうです。
事実、ガンダムはアメリカでの市場開拓に成功していません。この理由には諸説ありますが、ロボットの中に操縦者が乗り込むという設定や世界観に共感を覚えることがないなどと言われています。本当にそうだとすれば、いくら認知度を高めようとプロモーションに力を入れたところで、アメリカ市場の攻略はできないでしょう。受け入れられる土壌そのものがないためです。これは他のロボットアニメも同様です。
日本で数十億円規模のヒットを飛ばしたとしても、東宝にとってはスタンダードの範囲内であり、海外市場を開拓してその先を狙わなければ意味がありません。
そうした中、突如として巨大市場を開拓したアニメ映画が現れました。映画『THE FIRST SLAM DUNK』です。この作品は中国全土で上映され、興行収入は中国だけで131億円を突破しました。聖地巡礼に日本を訪れる中国人観光客もいるほどです。
ガンダムは、すでに中国で支持されています。2018年にガンプラを主体としたフラッグシップショップ「ガンダムベースシャンハイ」がオープンしました。三井ショッピングパーク ららぽーと上海金橋の開業時には実物大ガンダムの立像が建造されたほどです。
ガンダムは中国市場を更に開拓する可能性もあり、東宝がバンダイに近づいたタイミングは絶妙だったと言えるでしょう。
中期経営計画に沿った見事な展開
東宝の戦略も見事でした。
『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』の監督は『新世紀エヴァンゲリオン』で副監督を務めた鶴巻和哉氏。脚本は同作の監督として有名な庵野秀明氏が手がけています。東宝は監督に庵野氏を起用した『シン・ゴジラ』をヒットさせています。ゴジラシリーズとしては異例の興行収入80億円を突破する記念碑的な作品となりました。
初代ゴジラを再構築し、現代的なリアリティを加味した本作は新鮮さを帯びていました。特撮やアニメを知り尽くした庵野ワールドが広がっていたとも言えます。
ガンダムの新作「ジークアクス」は、初代ガンダムのパラレルワールドがベースになっており、使い古された往年のIPを原点回帰して再構築する手法は庵野氏が得意とするもの。しかし後半は青春ストーリーとも言うべき異なる世界が繰り広げられ、監督の鶴巻氏にバトンタッチしたような展開を見せます。
東宝が世に送り出した新たなガンダム像として、相応しい世界が広がっていたように感じられます。
東宝の中期経営計画では、アニメを映画、演劇、不動産に次ぐ第4の柱にすることが掲げられています。その戦略の中で、映画製作とテレビシリーズを両輪にかけ、企画とIPで効果を最大化するとしていました。
今回公開された劇場版は先行版であり、いわばテレビ放送に向けたフック。本編は4月8日から始まります。テレビシリーズの続編が映画化されるかどうかはわかりません。しかし、すでにファンの期待感は高まっており、IPを最大化する準備を整えていると見ることができるでしょう。「ジークアクス」は中期経営計画に忠実に基づいて制作されたアニメだと言えます。
文/不破聡