グラタンに洋ナシを入れる“深い理由”
では、タマディックが今も成長を続けていることと関連する習慣はないのか?
「私は、変わることを“是”だと思っています。うまくいけば素晴らしいし、仮に失敗しても、変わった結果の失敗ならOKなんです。反省すれば貴重な経験が得られますし、『間違えたね』と元に戻せばいいじゃないですか」
例えば何をやめ、何を始めたのか?
「例えば社員によく『面白くない仕事はやめよう』と言っています。人は利益のために生きているわけじゃないから、進化が止まれば、会社が止まり、社員も止まり、社員の人生も止まってしまうんです。一方、カーボンニュートラルの実現など社会の枠組みを変えていく仕事には、今までにない技術が必要になるため、積極的に受けています」
私生活では料理が好きで、揚げ物などの茶色いものより、カラフルな野菜が好きなのだと言う。料理も一風変わっていて、先日はグラタンに洋ナシを入れたと話す。
「家にあった野菜の中から、春菊、ゴボウ、玉ねぎを選び、洋ナシも入れてみたんです。これ、適当に突っ込んだわけじゃないんですよ(笑)。味の要素として、春菊の苦みがあって、ゴボウの味と食感があって、チーズのまろやかさがあるなら何か甘みもほしいな、と入れたんです」
次第に、グラタンの洋ナシと、自社ビルのサウナはよく似ている、という話になった。森實社長が話す。
「私は、要素分解して考える習慣があるんです。例えば料理する時には、酸味と塩辛さは足りているから甘い果物を入れよう、などと考えます。それと同じように、今、会社はこういう要素で成り立ってるよね。でもこんな要素があってもいいよね、と考え、『ならサウナはどうかな』となったんです。
例えば健康と幸福って、それさえあれば人生成功でしょ、と言えるほど素晴らしい価値ですよね。当社は健康経営を進めていますからサウナはあっていいはずです。喫煙所で他部署の人と仲良くなれた、という話を聞くことがあるように、サウナならより社内のコミュニケーションが活性化し、仲間も増えるでしょう。
一方、『サウナは余暇に入るもの』『仕事に関係ない』という考え方もありますが、私は『仕事と余暇』って何だろう? と思うんです」
本当に「仕事は嫌なもの」「余暇は仕事に関係ないこと」と言い切れるだろうか? きっと世界初の何かにチャレンジしている時は、仕事だろうがテンションは上がるはずだ。一方、余暇で学んだことが仕事に活きる場面も多いし、休日にリラックスするからこそ、平日に頑張れるものでもある。なら……?
「サウナが会社にあったっていいじゃないですか(笑)」
最後、森實社長に、サウナ導入後の経営状態について聞いてみた。さすがに業務効率は下がったとか、負の面もあるんじゃないですか?
「どうでしょう? 売上も利益も過去最高で、社員の健康に関する数字も過去で最もよいので……」
サウナ、すごい!
2019年、サウナひとり旅でラップランドを訪れ、北極圏の湖に命綱を掴んで入る森實社長。
■森實社長の習慣
1. 人を動かそうとするより、どうすれば人が動くか考える。
2. サウナは『スローサウナ』と『ファストサウナ』にわける。
3. 今成り立っている要素を考え、そこに必要な要素を加える。
プロフィール
森實敏彦(もりざね・としひこ)
株式会社タマディック代表取締役社長。1973年愛知県生まれ。1996年慶應義塾大学卒業後、外資系IT企業に入社、2000年に株式会社タマディックに入社し、02年に代表取締役社長に就任。社業に邁進しつつ、業界におけるエンジニアの待遇改善と地位向上を目指す。フィンランド大使館公認のフィンランドサウナアンバサダーで、マスターオブフィンランドサウナにも認定される。
取材/文 夏目幸明