
企業公式キャラクターの中で屈指の知名度と人気を誇るのが、楽天グループの「お買いものパンダ」。2013年5月の楽天市場のオリジナルLINEスタンプ登場を皮切りに、親しまれるまでになった。
そんな「お買いものパンダ」が昨年アニメ化されたのはご存じだろうか?2024年11月から2025年3月の間、TOKYO MXで毎週水曜日の21時54分からアニメ『お買いものパンダ!』全24話(うち4話は配信限定)が放送された。
1話3分で、リピート放送も週2回(毎週日曜1 0時55 分~/毎週月曜日19時25分~)実施されている。
アニメ化でさらに広く知られるようになった「お買いものパンダ」だが、なぜテレビアニメが制作されることになったのか?その背景にあったのは、アニメ『お買いものパンダ!』のプロデューサーを務める楽天グループの吉田雄哉氏(IPコンテンツ事業部第5プロデュースグループ)のアニメ化に向けた熱意だった。
「お買いものパンダ」にはアニメ化する価値がある
「『お買いものパンダ』のことは楽天グループにジョインする前から知っていました。すでに世間一般で認知が広がっていたので、アニメ化しないのだろうか?と思っていました」
アニメ『お買いものパンダ!』プロデューサー 吉田雄哉氏。2年半前に楽天グループにジョインする前職でもアニメのプロデューサーを務めていた。
アニメ制作のプロである吉田氏から見て、認知度の高い「お買いものパンダ」はアニメ化の価値がある魅力あるキャラクターであった。楽天グループのジョイン直後から「お買いものパンダ」のアニメ化を事業部長に提案。
事業部長も元々アニメ化には強い意欲を持っていたこともあり、社内でアニメ化のプロジェクトが立ち上がった。
お買い物を軸に展開される、ぶっ飛んだストーリー
アニメ化で強くこだわったのが、スペシャリストによる制作。当初から吉田氏の頭にあった制作スタジオは、実際に制作を担当することになるシンエイ動画だった。
「私の勝手な思いではありますが、制作スタジオはシンエイ動画がベストでした。いろんなキャラクターアニメを手がけてきた実績があるからです」
シンエイ動画は『ドラえもん』をはじめ『クレヨンしんちゃん』などキャラクターものを数多く制作しており、「お買いものパンダ」のアニメ化に当たっては最高のパートナーといってもよかった。
シンエイ動画はアニメの制作を快諾。制作プロデューサーを務めたシンエイ動画の永田雄一氏(第四制作部)は、アニメ化の打診を受けた時の率直な印象を次のように振り返る。
「『お買いものパンダ』はテレビCMでも目にする機会があるほど世間に浸透しているキャラクターと認識していたので、最初は“これをとうとうアニメ化するのか”と驚きました。企業キャラクターのアニメ化はほぼ経験がなかったので、難しそうと勝手に不安がったところはあったものの、キャラクターデザインがシンプルでカワイイので、アニメ化できるチャンスがあるならしてみたいと思いました」
アニメ『お買いものパンダ!』制作を手掛けたシンエイ動画 永田雄一氏。顔出しNGにつき同社ロゴで顔を隠して登場
永田氏は最初、「お買いものパンダ」公式Xで毎週連載している漫画の雰囲気の作品をイメージしていた。しかし楽天グループとの協議を進める中で、こうした日常感のある世界とは少し違う世界観の作品のアイデアが浮かび上がってきた。アニメという、動きや音という要素が加わる媒体であることを踏まえ、これまでとは違う雰囲気やアプローチへの挑戦が提案されたのだ。
この楽天グループの意向に永田氏は驚かされたという。「最近のアニメは原作に忠実な傾向がありますが、そのままじゃないんだ!と驚きました」と振り返る。
監督には『銀魂』などを手がけた高松信司氏を起用。「お買いものパンダ」は楽天グループが10年かけて大事に育ててきたキャラクターであることを踏まえて、原作に近いのんびりとした雰囲気のシナリオ、ちょっと雰囲気を外したシナリオ、かなり雰囲気を外したシナリオの異なる方向を用意し、楽天グループの反応を確かめることにした。
ベテラン脚本家の清水東氏を起用して3タイプのシナリオつくってもらい楽天グループに見せたところ、いままでの雰囲気から外れた2本のシナリオの方が反応良く、はちゃめちゃ方向での制作が固まった。
この、ちょっと雰囲気を外したシナリオはアニメ第1話、かなり雰囲気を外したシナリオは第3話で放送されている。
第1話「おうちでテント」より。のんびりと室内でキャンプ気分を楽しむはずが・・・?
第3話「謎のタマゴ」より。あたためたタマゴから謎の生き物が登場する。
NGはほぼなし!? 会議時のジョークも作品に生かす
ストーリーの方向性は固まったが、作品づくりで意識したのが、お買い物で購入したアイテムにフォーカスを当てることだった。「ドラえもん」が、毎回ポケットからひみつ道具を取り出すのと同様、「お買いものパンダ」が毎回お買い物をするというお決まりのパターンを高松監督が考案。
「お買いものパンダ」が買ったものを軸にストーリーを展開していくことになり、次々とエピソードが誕生していくことになった。「お買いものパンダ」に買わせるものは、清水氏と、同じく脚本家の永野たかひろ氏からのアイデアを毎週開かれるシナリオ会議のメンバーにアンケートを取りながら決めていった。
シナリオ会議で話し合われたことは後日楽天グループでもチェックされたが、シナリオ原案にある面白い要素を活かすことを前提に、前向きに議論が進められたため全面的なNGをもらうことはほぼなく、むしろ、制作陣が「これはさすがにダメだろう」と思ったことにもゴーサインが出た場面もあった。その代表例がシャワーヘッドを買った第2話。
シャワーの威力が強すぎて汚れだけでなく、なくてはならない体の模様が落ちて「お買いものパンダ」が真っ白になるというエピソードは、元々シナリオ会議の席で冗談半分で言っていたこと。劇中では楽天のロゴはシャワーで落ちなかったが、これはシンエイ動画のジョークだという。
「関係者全員が、作品としての面白さを追求していたため、シナリオ会議でアイデアを自由に出すことができ、話を膨らませやすかったです。企業キャラクターだとできないと思われることの一線を超え、結構ぶっ飛んだ内容になったと思います。新たな『お買いものパンダ』のファンを獲得する上で魅力的に映ると感じています」(吉田氏)
予想以上に高かった子どもたちからの支持
放送はこの3月でいったん終了となるが、ファンからは今までとは違うアクティブな面が好評。作風をガラッと変えぶっ飛んだ内容にした狙いは当たったといえる。続編への期待は高い。
放送を開始して意外だったのが、子どもからの支持が高いことだった。元々、「お買いものパンダ」の主なファン層はネット通販を利用する30~40代女性だが、キャラクターの可愛さや親しみやすさ、アニメのオープニングで流れるダンスのわかりやすさなどから子どもの支持を集めた。
アニメを放送しているTOKYO MXによれば、リピート放送時は子供の視聴が非常に多いそうだ。子どもたちが見やすい時間帯にリピート放送を行なっていることが奏功している。
また永田氏は、子どもたちの支持が得られている理由にギャグセンスを挙げる。高松監督がつくる絶妙な間が見ていて非常に気持ちのいいコメディ作品に仕上げている。脚本担当の清水氏も子ども番組を長く手がけてきた経験があるので、ストーリーに子どもウケする要素が多分盛り込まれていた。アニメ化によって確実に認知を広げ、ファン層の拡大に繋がった好例と言えるだろう。
楽天グループの他のサービスとの横展開
アニメ化の情報解禁直後、日本最大級のファッション&音楽イベント「Rakuten GirlsAward 2024 SPRING/SUMMER」にてアニメ『お買いものパンダ!』 のスペシャルステージを実施。早くから話題づくりにも取り組んだ。「お買いものパンダ」ブースに実際に「お買いものパンダ」が登場し、スペシャルステージでは辻希美さんと共にランウェイを歩くなど大々的な露出を図り話題を提供した。来場客は10代をはじめとした若い女性が圧倒的多数のため、アニメがターゲットとしていた女性にダイレクトに訴求することもできた。
2024年5月に開催された「Rakuten GirlsAward 2024 SPRING/SUMMER」に設けられた「お買いものパンダ」のブース
2024年は楽天グループが展開する各種サービスとの横展開キャンペーンを実施。2回目に実施した11月は楽天モバイルや楽天銀行などが参加し、エントリーの上で条件を達成した人の中から抽選でアニメ『お買いものパンダ!』のオリジナルグッズをプレゼントした。アニメに対する期待が高いことから、今後も同様のキャンペーンを実施していきたい考えだ。
オリジナルグッズは、ぬいぐるみバッグチャームやTシャツ。エントリーした全員にはパソコンやスマートフォンの壁紙がプレゼントされている。
キャンペーンのプレゼントになったぬいぐるみバックチャーム。面ファスナーにより取り付け・取り外しが簡単にできる
オリジナルグッズの展開については、今年3月19日には初のシールブックが発売された。吉田氏によれば、シールブックにはアニメの世界がぎゅっと凝縮され、性別・年齢問わず喜ばれるものが網羅されているという。
スマホに貼れる特大サイズから手帳用のスケジュールシールまで、大小さまざまなシールが全 257 枚。描きおろしイラストも収録! 眺めて楽しく、使って嬉しい一冊。
企業公式から広く愛されるキャラクターへ
オリジナルグッズを展開する一方で、ライセンス使用の許可を求める問い合わせがぞくぞくと入るようになってきた。そもそも企業公式キャラクターは、その企業だけが使うことを前提にしているので、他社が使用許諾を求めること自体が珍しい。
ライセンス使用に関しては、多くの人に接してもらいたという理由から、日常生活で身近なものや親しみのあるものでの許諾やコラボレーションを戦略的に実施したい考えが基本。これまでライセンス使用が実現したものとしては、極楽湯が運営するRAKU CAFEとコラボした際に販売した缶バッジなどがある。シンエイ動画により新たに描き下ろされた多くのイラストが使用されている。
キャラクターは雑貨で使われることが多いが、生活の隅々で接する機会が多いことを反映してか、日用品での使用許諾を求める問い合わせが多い。
意外にも男性ファンも多いというお買いものパンダは、アニメ化によりさらに認知度を上げた。吉田氏はお買いものパンダが広く愛されるキャラクターになるためには、ファンとの接点を増やすことが必要だと考えている。
アニメキービジュアルをプリントしたTシャツはキャンペーンで大人気抽選アイテムとなった
「アニメ放送が始まるまでに、『お買いものパンダ』がイベントなどに登場して一般のお客様と触れ合ってきましたが、これまでは主に東京でしたので、今後は日本全国の各地でこういう機会を設け接点を拡大していきたいです。よりキャラクターを愛してもらうために、自分たちの街に『お買いものパンダ』が遊びに来たと思ってもらえるイベントを行いたいと考えているところです」
アニメ『お買いものパンダ!』はいち企業の枠組みを超えて、さまざまな協業先と手を組んだりシールブックを発売したりイベントを実施したり、とアニメ同様、はちゃめちゃに活躍中。今後の動きからも目が離せない。
■アニメ『お買いものパンダ!』
公式サイト
公式X
公式TikTok
■アニメ『お買いものパンダ!』シールブック
https://books.rakuten.co.jp/rb/18134001/
【楽天ブックス購入限定】TO DOリストやカレンダーなどのダウンロード特典あり!
取材・文/大沢裕司 撮影/藤岡雅樹