
「日本の城シリーズ」で知られるプラモデルメーカー「童友社」。ラインナップの主力はむろんプラモデルだが、工具ライン、あるいは模型ガジェットとでも表すべき「凄!」シリーズの元気がいい。弱肉強食の模型界をたくみに泳ぐ童友社に、「凄!」シリーズ好調の理由を取材した。
「凄!」シリーズのデビュー製品は韓国アカデミー社のプラモデルだった。
コロナ禍で新規ユーザーが参入
「あの頃、そうですね新型ウイルスの数年前のこと。韓国のプラモデルメーカー「アカデミー」社から商談が持ち込まれ「では、日本版パッケージと説明書を付けて童友社で売ってみましょう」と話がまとまりました。そのプラモデルは接着剤も塗装もほぼ要らないスナップキットなのに、けっこう出来がよく、これ凄いね、と驚かされたのです。そこでブランドをつける段取りとなり、社員みんなで知恵を出して決めたのが「凄!」で、これがシリーズの出発点になりました」と語るのは同社、内田宗宏社長。
童友社代表取締役社長、内田宗宏さん。「凄!」シリーズプラモデルの人気ナンバーワン「1/700 タイタニックLED」(税込6600円)を手に精一杯の笑顔。
タイタニック号やF-15といった人気機種のモデル化とあって「凄!」プラモデルは好評を博した。時を同じくして商品化を検討していた中に、トレンドの「片刃ニッパー」があった。片刃ニッパーはランナーからきれいにパーツを切り取れることから仕上げ作業を省ける、つまり組み立てが容易な「凄!」プラモデルとの相性がよかった。だから「高級薄刃ニッパー(片刃)」を「凄!」シリーズとして販売することにした。
精密ピンセット、パーツセパレーター、片刃ニッパー、きさげカッター、すじぼりカッターなどが「凄!」工具シリーズの主力選手。
「凄!」シリーズ工具の第一弾「高級薄刃ニッパー凄!」税込4620円。
工具専業の他社製片刃ニッパーが高単価だったこともあり、コスパに優れる「凄!」ニッパーの販売は地味ながら健闘。これに気を良くした内田社長は工具のシリーズ化を決め、「すじぼりカッター」「きさげカッター」「超精密ピンセット」等を加えた。
新型ウイルスが猛威を振るい始めた2020年春以降、プラモデル業界にはバブルというべきビジネスチャンスがおとずれた。おうち時間、インドアニーズを満たす手近なホビーとして、プラモデルが脚光を浴びたためだ。
「新型ウイルスでプラモデルが売れたのは事実。売れたということは固定ファンに加え、返り咲きモデラーやビギナーが乗っかったということです。そういう人たちはプラモデル本体と一緒に工具も買ってくれることが多く、「凄!」シリーズが注目を集めた背景にはそういう偶然もあります」(内田社長)。
「凄! ホビー用超音波クリーナー」税込7678円/「凄! ホビ―用 モデラーズクロス」税込1408円。
さらに「「凄!」シリーズを販売店で大きく展開したい! そのためにはもっと商品点数が必要だ」と感じた内田社長は、工具に加えて模型ガジェットに着手した。アイデアソースはパソコンショップや電子機器店、ディスカウントストアから雑誌の付録までさまざま。異業種から商品化の刺激を受けていたと言える。
「タミヤやガンダムとプラモデルそのものでガチンコ勝負もいいけれど、それに付随する周辺もの、つまり工具類や完成品の展示台、撮影ボックス、プラモ作りのお助けグッズ等であれば、模型ファンの誰しもが買ってくれる可能性があります。売れ行きのいいもの、残念なものと当たりはずれはありますが、プラモデルユーザーが「凄!」シリーズを応援してくれている手応えはあります」(内田社長)。
プラモデルが子供の玩具ではなく、大人のホビーとなって久しい。製品そのものの精密度、完成度は飛躍的に高まり、腕自慢のモデラーたちが究極の完成度を競うクリエイティブにしてマニアックな世界、それが現在のプラモデル界だ。このプラモデル界を新型ウイルスがシェイク! 多くの新規ユーザーが参入し、模型や工具の欠品が相次いだ。その中でファンのお供となったのが「凄!」シリーズと言えるだろう。
日本の城、神輿、日本最初のプラモデル「ノーチラス号」は童友社の顔的存在だ。
「模型工具と言えば高品質で高価なものが多かった。対して「凄!」シリーズは他社を凌駕するほど凄くはない(笑)けれど、適切な品質と手頃な価格で選択肢となっているようです。あ! タミヤさんの工具が欠品すると代用品として「凄!」シリーズが売れる(笑)……なんて冗談です」
なんともお茶目な内田社長。これこそが童友社の楽しさの秘密なのかも知れない。
取材・文/前田賢紀