
2024年12月、日本酒や焼酎など、日本の「伝統的酒造り」がユネスコ無形文化遺産に登録された。一方、2023年の焼酎メーカー50社の売上総額は約2263億円と、ピークである2008年の約3009億と比較すると、約25%減少している。(出典:帝国データバンク)焼酎離れが加速する中、嗜好品としての焼酎の市場を創造しようと奮闘するのが、鹿児島を拠点とするLINK SPIRITS株式会社だ。
造り手と飲み手を「つなぐ」新たな価値の創造
LINK SPIRITSは「造り手と飲み手を豊かにし、焼酎づくりが継承される未来を描く」をミッションに、2022年に鹿児島に設立された。2023年に発売された、焼酎の製法で作られたスピリッツ「NANAIRO-七色-」は国内の展示会でも評価が高く、今後は海外でも展開予定だ。
2025年2月に満を持して、950本限定で発売されたのが本格いも焼酎「音環-OTOWA-」だ。原料生産者である春成農園、酒造りを担う若潮酒造、そして木樽蒸留機職人の垣根を「越える」をコンセプトに企画された。
貴重な木樽蒸留機による希少価値の高い焼酎
原料には、焼酎用サツマイモをひとすじに手がける春成農園と栽培した「ベニハルカ」を使用し、若潮酒造の千刻蔵の伝統的な製法である「かめ壺仕込み」を用いて作られた。
「音環-OTOWA-」の特徴の一つは、日本に唯一残る木樽蒸留機職人である津留安郎氏の手がけた蒸留機を使用している点だ。九州を中心に約200の焼酎蔵がある中で、木樽蒸留機を使用しているのはわずか14蔵のみ。樹齢80年以上の杉の木を使用し、釘を一切使わず竹の帯だけで板を組み上げる伝統工法で作られた蒸留機は、重さ1トンものもろみと100度の熱にも耐える堅牢さを持つ。製作には2ヶ月半ほどかかるため、年間で最大4つ作るのが限界だという。
設計図がないため、すべて体で覚えていくしかないという。津留氏は、新しい樽を作る時は心配もあると話す。「それでも、蔵元から『いい焼酎ができた』と言われるのが唯一の楽しみです。鹿児島の芋焼酎の本当の味を皆さんに知ってほしい。特に木樽で蒸留した、まろやかな焼酎を味わってもらいたい。」(津留氏)
左から津留安郎氏、冨永咲氏(LINK SPIRITS)、上村曜介氏(若潮酒造)
この木樽での蒸留と1年間の熟成を経て完成した「音環-OTOWA-」は、ステンレス製の蒸留機では出せない芋の甘みを優しく引き出すまろやかさと上品な酒質が特徴。アルコール度数33度という鹿児島では一般的ではない度数に設定されているのだが、若潮酒造の杜氏・高吉誠氏は「原酒を1度刻みで酒質を比べ、最も良かった33度にこだわった」と説明する。
LINK SPIRITSの冨永咲代表は「初めて木樽蒸留機のことを知ったとき、その味わいの違いに驚いたのと同時に、とても貴重なものなのにあまり知られていないことに気づいた」と開発の背景を語る。「『音環-OTOWA-』を通してプロセスや造り手に思いを馳せながら味わっていただくきっかけになれば嬉しい」と期待を寄せている。
飲食業界からも高い評価を得ており、福岡市のバー「バー・オスカー、バー・パルムドール」のオーナーバーテンダーの長友修一氏は「木樽での蒸留によるソフトでスムーズな味わいと、広葉樹のような心地よい香りが特徴」と評している。
ユネスコ無形文化遺産登録で注目高まる伝統的酒造り
2024年12月、日本酒や焼酎など、日本の「伝統的酒造り」がユネスコ無形文化遺産に登録された。この技術には、本格焼酎をはじめ日本酒、泡盛、本みりん等が対象になる。日本の食文化関係では2013年の「和食」以来の登録となり、国内外をはじめ注目度も高まっている。「音環-OTOWA-」は海外バイヤーからの評価も高く、今後はタイや中国での展開を予定しているという。九州で誕生したいも焼酎が日本を飛び出し、世界にどんなインパクトを与えるのか、楽しみにしたい。
「音環-OTOWA-」720ml、アルコール度数33%、価格8,800円(税込)
https://link-spirits.jp/premium/otowa.html
文 / Kikka