
近年の自然災害の増加に伴い、迅速かつ効果的な復興住宅の提供が社会的課題となる中、株式会社LIFULL ArchiTechが開発する「インスタントハウス」が革新的な住宅ソリューションとして注目を集めている。現地で最短1時間で組み立て可能で、2024年に発生した能登半島地震でもシェルターとして提供された。
従来の応急仮設住宅の概念を覆し、住環境の質と設置スピードを両立させることで、災害復興ビジネスに新たな展開をもたらすことができるのか。
従来の常識を覆す“1時間”で設置完了
インスタントハウスは、2011年3月に発生した東日本大震災での被災地支援をきっかけに、名古屋工業大学大学院の北川啓介教授の研究をもとに、LIFULLと名古屋工業大学大学院による産学連携協定にて開発された。土地に定着していないため非建築物扱いである一方、シーンや用途にあわせて移動が可能だ。
インスタントハウスの最大の特徴は、その名が示す通り「即時性」にある。驚くことに、現地での作業時間は最短1時間で設置が完了するという。
通常、自然災害の復旧や復興の段階で提供される仮設住宅の提供には、3ヶ月から6ヶ月もかかるという。現場での有技能者が必要であり、また多くの部材をトラックで運ばなければならず、トラックが通れないと必要なものを運ぶことすらできない。
インスタントハウスは、ドーム型の生地を固定し、送風機で中に空気を入れて生地を大きく膨らませ、内側から断熱性のあるウレタン材を吹き付ける。生地と吹き付けたウレタン材が定着したハウスを分割し、パーツを施工場所へ移送することで、「施工~移設~組み立て」までの一連作業が約3日間、現地での作業時間は1〜2時間で完成する。分割パーツによる組み立て方式を採用することで、狭いスペースでも柔軟に設置や移動することが可能だという。
さらに注目すべきは、短納期でありながら住環境の質を犠牲にしていない点だ。プライベートな空間を確保でき、断熱性や耐久性に優れ、さらに耐震性(※1)、耐風性(※2)をあわせ持つことから、被災地での仮設住宅や医療救護室としてだけでなく、断熱を要する備蓄倉庫などにも活用できる。これまで、2023年に発生したトルコ・シリア大地震や2024年に発生した能登半島地震で提供され、宿泊スペースやワークスペースとして活用された。また、どんな自然環境の中でも「夏は涼しく、冬は暖かく、静かに眠れる」という特徴から、現在、国内のグランピング施設において100棟以上が建設されている。
環境に配慮した持続可能なビジネスモデル
大量の廃棄物を出さないことから、建築従来の仮設住宅が抱えていた廃棄物問題や環境コスト増大という課題にも対応している。
2025年からは、中学校において、インスタントハウスを活用した探究学習プログラムを実。能登半島地震の現場での活用・支援方法や、設計思想や社会的意義についてインスタントハウスの発明者である北川啓介教授が特別講義を行った。
気候変動による自然災害の頻発化・大規模化が予測される中、災害復興関連ビジネスは今後も成長が見込まれる分野だ。社会的課題と、ビジネスとしての持続可能性を両立させたインスタントハウスの今後の展開に期待したい。
※1:震度6強の地震に対して、崩壊しない。重要度係数1.0程度(建築に置き換えた場合)
※2:粗度区分Ⅱ程度。耐風速・風速80m/s程度。インスタントハウス周囲全てのハトメを1か所あたりの引抜体
文 / Kikka