
近年、企業を取り巻く環境は急速に変化しており、デジタルトランスフォーメーション(DX)の進展や市場競争の激化に伴い、従来のキャリア形成の在り方が見直されています。特に、終身雇用や年功序列の慣習が弱まり、個々のスキルや成果がより重視される傾向が強まっています。その一方で、多くの企業では、昇進機会の減少や業務の固定化によって社員の成長が停滞する「キャリアプラトー」の問題が深刻化しています。今回は、識学理論の観点から、キャリアプラトーを防ぐための具体的な組織改善策を考察します。
1.キャリアプラトーとは
キャリアプラトーとは、社員が昇進やスキル向上の機会を失い、成長の停滞を感じる状態を指します。この状態には大きく分けて「構造的(階層的)キャリアプラトー」と「内容的キャリアプラトー」の2種類があります。
(1)構造的キャリアプラトー:企業内のポストの数が限られているため、昇進の機会が得られない状況。特に、管理職のポジションが埋まっている場合、社員はキャリアの停滞を感じやすくなります。
(2)内容的キャリアプラトー:昇進に関係なく、現在の業務に新たな学びや挑戦がなくなり、成長の実感を得られない状態。ルーチンワークの増加や業務の固定化によって発生しやすくなります。
キャリアプラトーが長引くと、社員のモチベーションや生産性の低下につながり、最終的には離職の増加にもつながる可能性があります。そのため、企業は社員が継続的に成長を実感できる環境を整備することが求められます。
本稿では、識学理論の視点から、キャリアプラトーを防ぐための具体的な組織改善策について考察します。識学理論では、組織内の役割と責任を明確にし、認識のズレを排除することで、個人と組織の成長を高めることを目的としています。
2. 識学理論とは
識学理論は、組織の運営において「認識のズレを排除し、役割と責任を明確にする」ことで、高い成果を生み出すことを目的としています。以下のような原則を重視しています。
1. 役割の明確化 :社員が自分の役割と責任を正しく理解し、組織内での立ち位置を把握すること
2. 評価基準の透明化 :主観的な評価を排除し、明確な成果指標に基づく評価制度を導入すること
3. 成長機会の提供 :社員が新しい挑戦を通じて常に成長を実感できる環境を整えること
4. 組織構造の最適化 :昇進機会を増やすだけでなく、役職に依存しないキャリアパスを設計すること
キャリアプラトーの根本的な問題は「組織のルールが不明確であること」と「社員が成長を実感できる環境が整っていないこと」にあります。これらの課題を解決する具体的な方法を考えていきます。
3. キャリアの「ゴール」と「プロセス」を明確にする
3.1 キャリアプラトーの要因
キャリアプラトーが発生する要因の一つは、「自分がどのように成長すべきか分からない」状態に陥ることです。多くの企業では、昇進をキャリアのゴールとして設定していますが、管理職ポストには限りがあるため、昇進できる社員の数はごくわずかです。結果として、昇進のチャンスが得られない社員は成長の方向性を見失い、モチベーションを低下させてしまいます。
3.2 改善策
•「役割」によるキャリア設計
役職の枠を超えて「役割」の概念を強化し、個々のスキルや貢献度に応じた評価を行うことが重要です。例えば、「スペシャリスト」「プロジェクトリーダー」「メンター」など、多様なキャリアパスを設けることで、昇進以外の成長機会を提供できます。
• KPIを基にした成長指標の明確化
「何を達成すれば評価されるのか」が不明確なままでは、社員の成長意欲は低下します。識学では、各社員に対して達成すべきKPIを設定し、定量的に評価することが推奨されます。例えば、「年間売上〇〇円を達成」「新規プロジェクトを〇件成功させる」など、具体的な目標を提示することで、社員はキャリアの方向性を見出しやすくなります。
4. 組織構造を流動化し、新しい役割を生み出す
4.1 固定的な組織構造が生むキャリアプラトー
多くの企業では、役職が固定化し、社員の異動や新しい役割の創出が少ないため、成長の機会が制限されます。この状況が続くと、社員はマンネリを感じキャリアの停滞を意識するようになります。
4.2 改善策
• ジョブローテーションの導入
定期的に異なる業務を経験することで、新しいスキルを習得し続ける環境を作ることができます。
• プロジェクト型組織の導入
上層部のポジションが埋まると、キャリアプラトーが発生しやすくなります。これを防ぐために、特定のプロジェクトごとにチームを編成し、社員がリーダーシップを発揮する機会を増やすことが有効です。
5. 成果に基づく評価制度の導入
5.1 評価制度の問題点
キャリアプラトーが発生する原因の一つは、社員が「頑張っても評価されない」と感じることです。特に、評価基準が曖昧であったり、上司の主観に依存していたりすると、社員はどのようにすれば自分が評価を得られるのかに迷いが生じてきます。その結果自身のキャリアへの不安や閉塞感を感じやすくなります。
5.2 改善策
• 「結果評価+スキル成長」のハイブリッド評価
業績目標だけでなく、業務改善の提案やチームへの貢献なども評価対象にすることで、社員が多面的に成長できる仕組みを構築します。
• 定期的なフィードバックの実施
半年や年に一度の評価ではなく、月単位や四半期ごとにフィードバックを行うことで、日々社員が自分の成長を実感しやすくなります。上司が部下の成長を考える時には、適切なフィードバックを与え、自律的に成長していく環境を作っていくことが重要です。
6. まとめ
キャリアプラトーの防止策として、以下の施策が有効です。
1. キャリアの「ゴール」と「プロセス」を明確にする
2. 組織構造を流動化し、新しい役割を生み出す
3. 成果に基づく評価制度の導入
これらの施策を実施することで、社員が成長の停滞を感じることなく、組織全体の生産性向上につながります。社員一人一人が出す結果=組織の結果です。社員一人一人が自分の成長にどん欲になれる環境設定、また自分が目指すべきゴールに集中が出来る組織環境とマネージメントを行うことにより、中長期的に成長し続けられる組織へと成長していけるのです。
文/識学シニアコンサルタント 川添晶美