
1965年。世界初となるメモリー機能や7桁の定数記憶ダイヤルを備えた電卓「001」が誕生した。それまで一般的だった手回し式計算機に代わる計算機としてエンジニアを中心に大いに普及し、この商業的成功が現在のカシオ計算機を形作る飛躍の起点となった。
電卓の出荷台数が意外に減っていない理由
その「001」の誕生から60年目となる今年はいわば電卓の還暦イヤー。カシオ計算機でもさまざまなイベントや新製品、情報発信を通じて「本物の電卓」に近づく、その良さを知るイベントを予定している。
電卓60周年記念サイトビジュアル。過去と現在の写真、晴れやかな梅の花をあしらった祝祭感があふれる。
今回取材班が足を運んだのは3月25日~5月9日にかけ「樫尾俊雄発明記念館」(東京都世田谷区成城4-19-10。小田急線成城学園前駅より徒歩15分)で開催される、カシオ電卓特別展の説明会である。
「樫尾俊雄発明記念館」はカシオ計算機創業者である樫尾四兄弟の次男、樫尾俊雄氏の自宅を記念館として改装したもの。それぞれに財務、開発、営業、そして製造を担った四兄弟のうち「開発」に才を発揮、数々のカシオ製品を生み出した俊雄氏と製品が会する“創造の館”である。日頃よりWEBでの予約入場は可能だが、上記期間には通常展示に加え、電卓約40モデルの特別展示が行われるというわけだ。
「カシオ計算機の直近の売上高は2688億円。電卓製品が属する教育事業の売上構成比は、そのうち約23%となる618億円です」
と電卓を片手に語るのは、カシオ計算機株式会社教育関数BUの事業部長である佐藤智昭氏だ。
平成、令和世代にカシオのイメージを尋ねればこれはもう「カシオといえばG-SHOCK!」となるだろう。1983年にその歴史をスタートさせたG-SHOCKは正しく現在のカシオの大看板。そう、すでにカシオ計算機は、その企業活動の実態としては「時計屋」なのである。
記念館内にはもちろんG-SHOCKコーナーもある。特にファンには特に嬉しい空間のはず。
しかしここで「23%」という数字を見て、これはこれで意外である。取材班はこの数字を「意外に多い」と感じたからである。佐藤さんが続ける。
「2023年度の電卓出荷実績は約4200万台。展開国は約100ヵ国以上で、国内の電卓シェアは約60%を握っています。これ、意外に減ってないのだな、と思いませんか? カシオの電卓製造数で言うとピークは2010年代中頃で、それ以降右肩下がりです。特に一般電卓と呼ばれる皆さんが使う普通の電卓が下がっています。これはパソコンの普及やケータイ、スマホのアプリでの代替が主要因です」。
それは想像がつく。しかし、であるなら、もっと減っていてもいいと思うのだが。
「皆さんが計算したいと思った時に、PCわざわざ立ち上げませんよね? スマホならPCより手軽ですが、ボタンの押下感がないこともあり、正しく計算できているか不安を感じる方もおられる。もちろん、通常の買い替えや買い増しもあり、結果的に“意外に減っていない”となるのです」。
なるほど。さらに重要なのは学生向け、教育用としての関数電卓の存在である。関数電卓は四則計算に加え三角関数などの計算ができ、特に海外においては中等教育で教材として普及している。カシオではこの関数電卓の普及を目指し、学生や教員に向けた「GAKUHAN」活動を行い、毎年2200万人の新入生がカシオの関数電卓を購入し、授業や試験で使っているという。
「関数電卓が学びの支援となることで、子供たちの夢の実現と、未来への希望を支えたいと考えています」と佐藤さん。日用品である普通電卓に比べると、同じ電卓とはいえ見える景色がずいぶん違う。
1965年9月発売。カシオ初の電卓「001」。発売当時価格38万円。
「Comfy(コンフィ)JT-200T」。使用時に目に入りにくい本体上部にソーラーパネルを配し「カシオミニ」の書体、トレンドのくすみカラーを採用と、過去と現在をつなぐ一台だ。売れ色は白黒が鉄板だが、意外(?)にもグリーンが売れているとか。価格オープン(実勢3500円前後)
今年1月30日、カシオは“60年のノウハウを結集した長く愛用できる電卓”と銘打って、新製品「Comfy(コンフィ)JT-200T」を発売した。「普通電卓」「機能性電卓」「プリンター電卓」「デザイン電卓」に四分される一般電卓のうち、最後の「デザイン電卓」としての提案で、使用中にも目立ちにくい本体上部にソーラーパネルを配したことやくすみカラーはイマドキのミニマルデザインだし、キーフォントを「答え一発! カシオミニ」の書体としたのはさりげないレガシー活用であり、先達に対するオマージュと言える。
3月25日~5月9日に樫尾俊雄発明記念館での、カシオ電卓の隠れた名作約40モデル展示は必見だ。ぜひWEB予約して足をお運びいただきたい。入場無料だ。
さて最後にタイトルに記した「意外な発明品」だが、答えは喫煙具「指輪パイプ」。発売は1946年で、当時普及していたフィルターのない両切りたばこを両手を自由にしたまま根元まで吸うために考案され、大ヒットとなった。
カシオ初の大ヒット商品「指輪パイプ」。この成功で得た資金を元手にカシオは計算機開発に邁進した。
文/前田賢紀