インボイス制度は、領収書や請求書に関する実務のほか、仕入税額控除をめぐる税務処理にも大きな影響を与える。個人事業主や法人にとって、取引条件を左右する重要な変更点であるため、制度を理解しておこう。
目次
導入から2年が経った「インボイス制度」は、消費税の仕入税額控除に影響する新たなルールとして注目されている。しかし、「今もよくわかっていない」といった声や、反対の声も少なくない。
そこで本記事では、インボイス制度が始まった背景から、個人事業主や法人が知っておくべき実務対応まで、ポイントをやさしく解説する。
インボイス制度とは?基本的な仕組みをわかりやすく解説
インボイス制度をわかりやすく言うと、複数税率に対応した新たな消費税ルールを指す。正式名称は「適格請求書等保存方式」だ。
これまでは区分請求書と呼ばれる簡易的な書式でも仕入税額控除が認められていたが、今後は「適格請求書(インボイス)」をきちんと発行・保存しなければ控除を受けられなくなる。
個人事業主を含むすべての課税事業者に関わる制度であり、領収書や請求書の形式が大きく変化する点も特徴だ。ここからは、インボイス制度が何のために導入されたのか、そしてどのように仕組みが動いていくのかを解説する。
■インボイス制度は何のために導入されるのか
インボイス制度は、消費税を正確で公平に納めるために導入された。事業者が商品やサービスを販売する際に「適格請求書(インボイス)」に消費税率や消費税額を正確に記載することで、以前から問題となっていた「益税」という課題を解消できる。
また、消費税率が10%と8%の2つに分かれている現在、この制度を使えば税率ごとに正確な計算が可能だ。結果として、仕入税額控除を申請する事業者も、適切な控除を確実に受けられるようになる。
■適格請求書(インボイス)の基本要件とは
インボイス制度とは 領収書や請求書などの文書を「適格請求書」として扱うための要件を定めるもの。具体的には、次のような記載事項を満たす必要がある。
- 適格請求書発行事業者の登録番号
- 取引年月日
- 取引内容や消費税率の分類
- 税率ごとに区分した消費税額
- 交付事業者の氏名または名称
- 宛名(買い手)の氏名または名称(省略可の場合あり)
こうした要件がきちんと記載されていないと、仕入税額控除が認められない可能性があるため注意が必要だ。
例えば、領収書でもこの要件を満たしていればインボイスとしての効力を発揮する。反対に要件を満たしていない領収書は、今後仕入税額控除に使えない点が大きな違いと言える。
■仕入税額控除をわかりやすく理解するポイント
仕入税額控除をわかりやすく説明すると、事業者が支払った消費税を「支払うべき消費税額」から差し引ける仕組み。
例えば、売上時に受け取る消費税が500円、仕入れや経費に伴って支払った消費税が200円であれば、差し引いた300円を納めることになる。
インボイス制度開始後、適格請求書がない取引についてはこの「差し引けるはずの300円」が控除できないため、納税額が増える場合がある。
特に個人事業主においては、課税事業者として登録するか免税事業者のままにするかで、今後の売上や経費にどのような影響が及ぶかを慎重に考える必要がある。
インボイス制度で変わった請求書・領収書の実務対応
インボイス制度によって、今後は課税事業者どうしの取引で正しい手続きを踏まない限り、買い手は消費税を差し引いて申告できなくなる。
個人事業主や小規模法人の場合、「インボイスを発行しなければ取引先から敬遠されるのでは?」という懸念や、「そもそも課税事業者になるメリットがあるのか」といった悩みも浮上している。
ここでは、請求書や領収書がどのように変わるのか、そして免税事業者・課税事業者それぞれが選択できる対応策を紹介する。
■個人事業主や法人が押さえるべき発行・保存のポイント
まず、個人事業主を例に挙げると、売り手側が課税事業者として登録しない限り、適格請求書を発行できない。
そのため、買い手にとって仕入税額控除ができない取引となり、取引先が離れるリスクがあると指摘される。一方、登録すれば消費税の納税義務が生じるため、経費が増える可能性がある。
法人であれ個人事業主であれ、インボイスを発行する場合は次の点をチェックしておこう。
- 書式の見直し:請求書や領収書のテンプレートを更新し、登録番号や税率別の消費税額を記載
- データ保存への対応:電子帳簿保存法との関連も踏まえ、PDFや電子データでの発行・保存に備える
個人事業主は1000万円以下の売上でも課税事業者になるかを検討する必要があり、その判断材料として取引先の意向や自身の事業規模、売上・利益率などが挙げられる。
■免税事業者と課税事業者、それぞれの選択肢
個人事業主の多くは年間売上が1000万円以下で、免税事業者の方も少なくない。免税事業者が適格請求書発行事業者に登録すると、以下のような変化が起こる。
- 消費税の納税義務が発生する:いわゆる「免税」だった状態が解消され、消費税の計算・申告が必要になる
- 売り手として取引先に求められるインボイスを発行できる:取引先の課税事業者にはメリットが生まれるため、ビジネスチャンスの維持につながる
- 収益減のリスク増:特に小規模事業者は消費税を新たに負担しなければならなくなるため、収益性が下がるリスクがある
一方で、免税事業者として残ることを選ぶ場合、課税事業者との取引先にとっては仕入税額控除が受けられなくなるため、取引条件の見直しや取引自体の減少を招く可能性もある。
いずれにしても、自身の事業内容や取引先との関係を総合的に考慮し、登録するかどうかを判断することが大切だ。
■なぜ反対の声がある?懸念点と今後の動き
インボイス制度導入前から、反対する声も少なくなかった。主な理由としては「免税事業者の実質的な増税」が挙げられる。これまで消費税を納める必要がなかった小規模事業者が、新しく税負担を強いられると事業継続が難しくなるケースが出てくるためだ。
また、フリーランスや農家、医療機関など、業種によっては請求書発行の頻度が少なく、制度導入の準備コストや負担が相対的に高い場合もある。
現状では導入がすでに始まっているため、大幅な制度撤廃は見込まれないが、経過措置や補助金制度などを通じて負担を軽減する策が取られている。
今後、実際の運用を通じて問題点が浮上すれば、追加の支援措置が議論される可能性はある。
インボイス制度の導入と実務上の注意点

インボイス制度の導入によって、領収書や請求書の作成・保存方法にも影響が及ぶ。また、特定の期間に設けられた経過措置や、補助金などの支援策も存在するため、正確に把握しておかないと損をしてしまうことがある。ここでは、登録申請から経過措置、支援策などの一連の流れを整理する。
■経過措置に関して
適格請求書発行事業者としての登録後は、請求書や領収書などの書式を見直し、登録番号や税率区分を明確に記載する必要がある。
経過措置としては、免税事業者から仕入れた場合でも、当初の一定期間は部分的に仕入税額控除が認められる仕組みが導入されている。
具体的には、2023年10月から2026年9月までの3年間は仕入税額の80%、その後2029年9月までの3年間は50%が控除対象となる。免税事業者からの仕入れが多い課税事業者にとって、この制度は大きな救済策と言える。
参照:国税庁 経過措置
■インボイス制度導入のメリット・デメリット
インボイス制度を導入・登録するメリットとしては、課税事業者として取引先からの信頼を維持できる点が挙げられる。個人事業主でも、顧客が仕入税額控除を享受できるなら、取引が継続しやすい利点がある。
一方、納税義務が生じるため、事業者としては納税額が増え、経理作業も煩雑化しやすいデメリットがある。
また、事務処理が複雑になる場合もある。電子帳簿保存法などの規定も関係するため、なるべく早めに会計ソフトの導入や専門家への相談を検討することが望ましい。
■導入を乗り切るための補助金・支援策
インボイス制度による事業者の負担を軽減するため、「IT導入補助金」をはじめとする支援策が用意されている。例えば、会計ソフトやレジ、パソコンなどの導入費用に補助金が下りる場合があり、要件や申請手続きも随時見直されている。
さらに、免税事業者から課税事業者へ転換する際には「2割特例」と呼ばれる優遇が設けられている。これは、当面の間、納付する消費税額を売上税額の2割に軽減できる制度だ。特に個人事業主や小規模事業者にとっては負担を大きく下げられるため、有効活用を検討しよう。
参照:国税庁 2割特例(インボイス発行事業者となる小規模事業者に対する負担軽減措置)の概要
※情報は万全を期していますが、正確性を保証するものではありません。
文/編集部







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