
企業が成長していく上で、就業規則はしっかりと整備・運用する必要がある。労働基準法などの法令を踏まえつつ、自社の状況に合わせた就業規則を整えることが重要だ。
目次
企業の職場環境を整え、労使トラブルを防ぐために欠かせないのが「就業規則」だ。労働基準法で義務付けられるケースや、就業規則がない場合に発生しうるリスクについては意外と知られていない。本記事では、就業規則の意義や閲覧方法、作成・変更のポイントを解説する。
就業規則とは?労働基準法との関係を押さえよう
就業規則は、企業と従業員の間で生じるさまざまな問題を未然に防ぐための「職場のルールブック」といえる。
労働条件を統一的に示し、解雇や懲戒、休暇などの重要事項を明文化することで、両者の認識のずれを減らす効果がある。
特に労働基準法が定める範囲においては、就業規則の作成や届出が法律上の義務になる場合もある。以下では、就業規則とは何か、労働基準法とどのような関係にあるのかを整理しながら、そのメリットと重要性を確認する。
■就業規則とは何かを簡単に解説
就業規則とは、企業内で働く従業員が遵守すべき規律や、賃金、労働時間、懲戒処分の基準などを明確に定めた文書のこと。
例えば、勤務時間や休憩時間、休日休暇の取り扱い、服務規律などが具体的に示される。就業規則は会社と従業員の“共通ルール”となるため、企業運営において極めて重要な役割を果たす。
また、就業規則は雇用契約書と異なり、複数の労働者を一括で適用するための規定として機能する。複数の従業員を抱える企業ほど、統一された労働条件が必要になるが、就業規則を整備しておかないと、従業員ごとに契約内容に差異が出やすくなる。
結果として労務トラブルが起こる可能性が高まるため、適切な就業規則を準備し周知することが不可欠だ。
■労働基準法で定められる就業規則の役割
労働基準法第89条では、常時10人以上の労働者を使用する事業場に対し、就業規則の作成と労働基準監督署への届出を義務付けている。ここでいう「10人以上」には、パートタイムやアルバイトなども含まれる点に注意が必要だ。
就業規則は、労働条件が適正に保たれているかを判断する上で、行政機関に対しても明確な根拠を示す文書として機能する。
一方、従業員が10人未満の企業には作成義務こそないものの、労使トラブル防止や労働条件の明確化を図る上で、就業規則を作成するメリットは大きい。
法律上必要ないからといって就業規則を置いていない場合、いざ問題が生じた時に解決までの手間や時間、さらに金銭面で大きなリスクを負うことがある。労働基準法の趣旨を十分に理解し、必要に応じて就業規則を整えることが賢明だ。
■就業規則のメリットと重要性
就業規則を設けることには、以下のようなメリットと重要性がある。
- 労使トラブルの未然防止:賃金や懲戒、休日などの条件を統一的に示すことで、従業員との認識違いや不当解雇の問題が発生しにくくなる。
- 従業員モラル・モチベーション向上:「会社のルール」が明確になることで、公平性の担保と自律的な行動の喚起につながり、職場全体の士気が高まる。
- 法令遵守の明確化:労働基準法をはじめとする労働関連法規に即した規則を整備することで、行政機関からの指導や調査にも対応しやすくなる。
- 企業の社会的信頼向上:コンプライアンスへの意識を示すことで、取引先や求職者に対しても信頼度を高める効果がある。
しっかりとした就業規則は、企業防衛の基盤となる。労働条件や懲戒の事由、時間外労働の扱いなどを明文化すれば、会社と従業員の双方にとって安心して働ける環境を整えることができる。
就業規則のテンプレート活用・閲覧方法・10人未満の場合の注意点
就業規則をイチから作ろうとすると手間と時間がかかるため、厚生労働省や各種専門機関が提供するテンプレートを活用するケースも増えている。
また、就業規則は、作成しただけでは意味が半減する。従業員に周知され、いつでも閲覧できる状態を維持することが重要だ。
さらに、10人未満の企業でも就業規則を備えるメリットは大きく、費用や手順を考慮しながら早めに導入することが望ましい。ここでは、テンプレートの活用法や就業規則の閲覧方法、10人未満の場合の注意点を紹介する。
■テンプレートの活用と作成時のポイント
就業規則は労働基準法や関連する法令を踏まえた上で、自社の実情に合わせて作り上げる必要がある。しかし、まったくの白紙から始めるのはハードルが高いため、インターネット上で公開されているテンプレートを活用する企業も多い。ただし、以下の点を必ず確認しよう。
- テンプレートの更新時期:労働基準法などが改正されていないか
- 自社の業種・働き方に合致しているか:建設業やアルバイト中心の場合などは独自の規定が必要になる
- 時間外労働や休憩時間、休日の取り扱いが明確か:例示されている記載例が自社の実態と合うか
- 労働条件や懲戒規定の整合性:会社固有のルールとの矛盾はないか
最終的には、社労士や弁護士などの専門家のチェックを受けるのが望ましい。とりわけ、懲戒解雇や退職金、機密保持などのセンシティブな部分は、後々の法的トラブルを避けるために十分な検討が必要だ。
■就業規則の閲覧方法と周知義務
労働基準法では、就業規則が存在する場合、従業員に対して周知する義務を使用者に課している。
周知の方法としては、会社のイントラネットにPDFを掲載したり、冊子を備え付けたりといった方法が一般的だ。従業員が希望すれば、いつでも内容を閲覧できるようにしておくことがポイントになる。
なお、入社前や退職後などに「就業規則を閲覧できるのか」と疑問を持つ人もいる。一般的には、現役の従業員であれば就業規則を閲覧する権利があるとされるが、他社の就業規則を勝手に入手したり、退職後の閲覧を求めたりする行為には注意が必要。
■従業員10人未満の企業でも作成すべき理由
法律上の義務は「常時10人以上」の従業員を使用する事業場に限られるが、10人未満の企業でも就業規則を整えておく意義は大きい。特に小規模企業では、従業員一人ひとりの役割が大きく、トラブルが起きた際のダメージも深刻化しやすい。
また、10人未満の事業所であっても、労働基準法に反する内容でなければ就業規則に一定の効力が認められる。周知された就業規則があれば、解雇や懲戒処分などの対応もルールに基づいて実施できるため、企業側が恣意的な判断をするリスクも減らせる。
結果として、労働者との関係維持にもプラスに働くことが多い。
就業規則がない会社のリスク・変更手続きのポイント
就業規則を作らずに運営を続けている会社も少なくないが、いざ問題が生じたときには大きな代償を払う可能性がある。例えば、不当解雇や未払い残業代の請求を受けたり、就業規則違反を問われたりすると、会社は多額の金銭補償や法的責任を負うリスクが高まる。
また、就業規則は一度作成して終わりではなく、労働環境や法令の変化に合わせて定期的な変更が必要になる。
ここでは、就業規則がない場合の問題点、そして変更手続きにおける労働基準法上の要点、最後に時間外労働や休憩時間などの重要項目について解説する。
■就業規則がない場合のトラブルと違法性
常時10人以上の従業員がいるにもかかわらず就業規則を作成していない場合、労働基準法違反となる可能性が高い。さらに、就業規則がないことで次のような問題が起こりやすくなる。
- 労働条件の不透明化:賃金や勤務時間、休憩時間などが明文化されていないため、従業員との認識の食い違いが発生しやすい。
- 懲戒・解雇対応の困難:就業規則による懲戒の根拠が示されていないと、従業員の問題行動があっても適切な対応が難しくなる。
- 裁判トラブルの増大:万が一、労務問題が裁判に発展した場合、就業規則の不在が会社にとって不利に働くケースがある。
就業規則がない状態は、企業のコンプライアンス面で致命的な弱点となりかねない。従業員が10人未満の場合であっても、トラブル予防のために早めの整備が望ましい。
■変更の流れと注意すべき労働基準法のポイント
就業規則は一度作ったら終わりではない。会社の規模拡大、業態変更、法改正、社会情勢の変化などによって随時見直しが必要になる。
就業規則を変更するには、労働基準法に基づき従業員代表からの意見書を取り付けた上で、所轄の労働基準監督署へ変更届を出す流れが一般的だ。
ただし、就業規則の変更が従業員に不利益をもたらす場合には、個別の同意や合理的な理由が必要とされることがある。例えば、退職金制度の削減や休日数の減少などは、従業員にとって重大な影響を及ぼすため、十分な説明と合意形成を行わなければならない。変更手続きを安易に進めると、後々「通知なしで就業規則を変更された」などの不満が生じ、労務トラブルに発展しかねない点にも注意したい。
■時間外労働や休憩時間などの条件明示
就業規則で必ず明示しておきたいのが、時間外労働や休憩時間、休日などの労働条件だ。これらは従業員にとって生活の基盤に直結する要素であり、定めが不十分だと裁判や労働審判などで会社が不利になる場合がある。
時間外労働をさせる場合は、36協定(サブロク協定)の締結・届出が必要になるほか、就業規則内でその規定を明記することが望ましい。また、6時間を超える労働には少なくとも45分、8時間を超える労働には少なくとも1時間の休憩が必要とされる。休憩時間を細かく区切る場合は、あらかじめ就業規則に書いておかないと混乱しやすい。
とりわけ、所定休日や有給の扱いは特にトラブルになりやすい。正社員だけでなく、アルバイトやパートにも適用されるルールを整合的に記載しておくことが必要だ。
※情報は万全を期していますが、正確性を保証するものではありません。
文/編集部