「おいしさ」と「ヘルシー」の2つが追求された食は、社員も欲しがる「あったらいいもの」だった
カラフルでジャンキーさを思わせる2foods銀座ロフト店の外観
――あえてヴィーガンやエシカルさを出さずに展開されていますね。
東「これはチャレンジングでもありましたし、否定的な言葉をいただいたこともありました。でも私たちが取り組まなくてはならないのは、『より多くの方に植物由来の良さを伝えること』。ヴィーガンという言葉は、『限られた人のもの』と思われてしまうイメージがあるかと思います。だからこそ私たちはそういった言葉ではなく、プラントベースという言葉を使うことで『より多くの方々に届ける』ことを意識して取り組みました。また、店舗の内装もカラフルでジャンキーなものにすることで誰もが入店しやすい店舗を追求しました」
――「おいしさ」と「ヘルシーさ」をひとつにするために難しかった点はありますか。
東「基本的にはトレードオフ(※目的に向けて一方を立てれば他方がまずくなるという二つの仕方・在り方)の関係で、おいしさを追求していくと健康さは失われる傾向になる。逆も同じです。その中でどこを着地点とするか。最終的にはどこを目指すか。それには諦めない精神が必要でした。
そもそも過去に掲げていた『ヘルシージャンクフード』というコンセプトを挙げた時に、社内のメンバーから『それってあったらいいよね』と同意する意見が多くありました。今でも、その時の思いは根底にあるからこそ、メンバーもコミットしてくれていると思っています。
実際にメンバーの中でも、商品を開発するとなった時にも『これはヘルシーだけどジャンクフードのような病みつき感はないよね』と議論し合い、『諦めない』というムードが醸成されていきました。
これが、『なんとなく健康で美味しいものを作る』という“なんとなく”の空気や雰囲気だったら、どこかになんとなく着地点を見出す方向に行ったと思いますが、ずばり、『ヘルシージャンクフード』という標語あると、同じ指標に向かってみんなが追求し取り組めたのではないかと思っています」
植物由来の原材料を使った新感覚クロワッサン『2Breadクロワッサン』
――異業種から参入し、どのように理想の食品を作り上げたのでしょうか。
東「私も食の業界は短いですが、やっていて思うのは、『やればできるんだな』ということです。妥協できるポイントはいくつもあります。しかし、社内で『こういう要素が足りないのではないか』『もっとよりよいアイデアを考えられるのではないか』といい意味で無邪気に話をして、よりよいやり方を考える。そうして考えていくと、『これがいいかもしれない』とその時々に合ったベストなやり方が見つかるようになり、実際にその方法を試してみて、イメージしていた理想の形を作り出すことができる。例えば、試作では80点だったものが模索していくたびに、2点ずつ上がって、最後100点になる。それが実際に開発やマーケティングを行う上で、メンバー間での会話をきっかけに生まれています。『何かに対して妥協せずに追求する』というのが、結果として、プロダクトの完成度につながっていると思います」
――2foodsが初めて世に出た時の反応はいかがでしたか。
東「ロフトさんの中にあることもあり、どういったお店なのかよく分からないままに入店される方もいましたが、店舗ができて約4年の月日が経ち、今では2foodsを目的として来店してくださる方もいます。『プラントベースってどんなものだろう』と思いながら入店し、実際に食べてみると普通においしい。その時に、『これで健康面にも良いならとてもいい』『前に代替肉を食べた時は味気ない印象だったけど、プラントベースフードっておいしい』とか、ポジティブなギャップを感じられている人はかなり多かったです。おいしさに対する反応から『生活に取り入れてみました』という声はありました」
――ギャップを感じてくれたのですね。
東「そこは私たちが伝えたい植物由来食品の魅力が伝わったと感じました。先ほどもお伝えした通り、プラントベースフードに対するさまざまな印象が障壁になっていたので、『食べてみると意外とおいしい』と思ってもらえるのはうれしい。私たちとしても、日々の食生活の100%すべてをプラントベースにするのは無理があると思っているので、『週に1回でも2回でも、プラントベースを取り入れてみよう』『健康を意識してみよう』という意識になればいいなと思っています」
――プラントベースフードを“すべての人”に取り入れてもらうためには、どのようなことをしていますか。
東「食にまつわる事業をやっていて、すべての人に取り入れてもらうということは思った以上に難しい課題だと感じています。おいしさがないものを、健康であってもエシカルであっても続けるというのは、相当ストイックな人でないと続けられない。事業を続ける中で、『おいしさはマストだ』という感覚になりました。
マス層に向けることを考えると『おいしい』のは当然で、付加価値としてプラントベースがあると考えています。それくらい『おいしい』ということは食を選択する上で前提になっているので、より一層、妥協はしないという気持ちになりました」
2foodsのプロダクトを通して植物由来食品の価値観を変えたいと語る東氏
――2foodsとして目指す未来を教えてください。
東「食の世界は広いので、まずは今当たり前に食べられている食の中で、プラントベースフードそのものの価値観を変えることが重要だと考えています。価値観を変えるというのは、植物由来や、ヴィーガンを主張するのではなく、植物由来食品は『おいしさもありながら、健康という付加価値もある食だ』という意識に変えることを、啓蒙としてやらなければいけないと思っています。それが2foodsのプロダクトを通じて広がればいいなと思います。
私たちは代替肉や代替卵など『何か専門のメーカー』ではないので、植物性であればなんでもやれることが強みです。さまざまなカテゴリーの商品に挑戦できる可能性があると思っています。お客さまにとっても、食品を選ぶ時のカテゴリーの中に『おいしくて、健康なもの』があると、シェアは加速度的に増えていくと思います。
プラントベースフードは『おいしい』ということが前提にあり、そして、『体へもポジティブな影響を盛らすもの』といったイメージが根付くということになってくれば、すべてのカテゴリーの中で新しい食の提案を展開していくことができるのではと考えています。そういったイメージを啓蒙していくためにも、幅広いカテゴリーで展開していき、ブランドとしてプロダクトを増やしていくことが、近未来的にやりたいことです」
取材・文/コティマム 撮影/黒石あみ