
『定款』とは、起業や会社のルールを変更するときに聞く機会が多い言葉です。定款の概要や記載内容、認証手続きの流れについて解説します。フォーマットや変更の流れも確認しましょう。
目次
『定款』は、会社を作るときに必要となる書類です。社会人として、知らないと恥ずかしい意味をきちんと押さえておきましょう。
定款とは何か?
まずは、基本的な定義と会社に定款が必要とされる理由を解説します。概要を理解することで、全体像が見えてくるはずです。
■定款は「会社のルールブック」
定款とは、会社が守るべき基本的なルールを定めた書類です。『会社の憲法』とも呼ばれ、事業活動の根幹となる重要な文書になります。
会社がどんな目的を持ち、どのような活動を行うのかを明確に示すもので、会社設立時に必ず作成しなければなりません。
例えば、飲食店を経営する会社の定款には、『飲食店の経営』という事業目的が記載されます。これがないと、法的に飲食業を営むことができません。
会社の名前や本社の所在地、役員の任期など、会社運営に欠かせない基本ルールも全て定款に書かれています。
定款があることで、会社の意思決定や運営方法が明確になり、社内外のトラブルを防ぐ役割も果たします。起業準備を進める上で、最も基本となる重要書類です。
■なぜ会社には定款が必要なのか
定款とは、会社経営の基本ルールを定めた文書ですが、なぜそれが必要なのでしょうか。
定款が必要な理由として、会社の基本情報を明確にすることが挙げられます。会社名や本店所在地、事業内容といった基本事項を定款に記載することで、企業活動の範囲と正当性が保証されるのです。定款に記載されていない事業は、正式に行うことができません。
また、定款は株主の利益を守る役割を担います。経営者が自己利益のために会社を運営することを防ぐため、定款には株主保護の規定が設けられています。この規定は経営者を含めた全ての関係者を拘束し、変更には株主の賛同が必要です。
定款によって、組織の性質も分かります。大企業向けの機関設計や、中小企業向けの株式譲渡制限など、会社の特性に合わせた組織設計が可能です。定款がなければ、事業活動のさまざまなルールが分からなくなってしまうでしょう。
定款に書くべき3種類の重要事項とは
定款には、さまざまなルールが記載されています。書かれている内容を大まかに分類すると、絶対的記載事項・相対的記載事項・任意記載事項の3種類です。それぞれどのような記載事項なのか、内容を確認しましょう。
■必ず記載する「絶対的記載事項」
定款の『絶対的記載事項』とは、会社法で必ず記載しなければならない事項です。これが欠けると定款自体が無効になってしまうため、起業準備では特に注意する必要があります。
【絶対的記載事項となる主な事項】
- 会社の目的
- 商号(会社名)
- 本店の所在地
- 設立時の出資額
- 発起人の氏名(または名称)・住所
定款作成時に必須ではありませんが、株式会社の場合は後から必要となる『発行可能な株式総数』も決めておくとスムーズです。
なお、絶対的記載事項を後から変更する場合、変更登記の手続きが必要となり手間とコストがかかります。そのため、将来の事業展開も見据えて、十分に検討した上で記載することが重要です。
■効力を生じさせるための「相対的記載事項」
定款の『相対的記載事項』とは、記載しなければ効力が生じない特別な事項です。絶対的記載事項のように必須ではありませんが、ルールを定めなければならない場合は記載しておきましょう。
【相対的記載事項となる主な事項】
- 株式の譲渡制限に関する内容
- 役員の任期を延長するルール
- 取締役会や監査役の設置
- 株券発行に関するルール
- 公告方法
- 設立時の現物出資・財産引き渡し
例えば、会社が『株式の譲渡には取締役会の承認が必要』と定めたい場合は、定款に明記する必要があります。これにより、創業者のビジョンを共有できる投資家に、株式を譲渡できるようになるのです。
また、定款変更時には相対的記載事項であっても、変更登記が必要になるケースがあります。特に公告方法の変更などは、登記が必要なので注意しましょう。会社の成長に合わせて、適切な見直しが大切です。
■自由に決められる「任意記載事項」
『任意的記載事項』とは、定款に記載しなくても法的に問題ない事項です。しかし、あらかじめ定めておくと会社運営がスムーズになります。
【任意的記載事項となる主な事項】
- 事業年度
- 役員の員数
- 役員報酬の決め方
- 株主総会や株式に関する事項
例えば、『事業年度は毎年4月1日から翌年3月31日までとする』と定めれば、決算月が明確になります。また、『取締役は1名以上5名以内とする』と幅を持たせれば、会社の成長に合わせて柔軟に対応できるでしょう。
多くの企業では、将来の事業展開を見据えて『役員報酬は株主総会の決議によって定める』としています。これにより、会社の業績に応じて臨機応変に報酬額を調整できるようになります。
任意的記載事項は、後々の手間を省けるメリットがある一方、変更時には定款変更の手続きが必要になるため、将来の変更可能性も考慮して盛り込むことが大切です。
定款の基本的なフォーマット
会社設立において重要な書類である定款は、どのように作成すればよいのでしょうか。ここでは、定款作成時に考慮すべき要件と、実際に活用できる公開フォーマットについて解説します。
■定款のフォーマットを決める要件
定款を作成する場合は、フォーマットに従って作成するパターンが簡単です。会社の規模や形態によって、適切なフォーマットは異なります。
例えば、以下のような要件で、使用するフォーマットを決めるのが一般的です。
【定款のフォーマットを選ぶときの判断基準】
- 公開会社である(または非公開会社である)
- 取締役の人数
- 取締役会を設置するか
- 監査役の有無
公開会社は、株式の譲渡制限がありません。非公開会社は、株式の譲渡に制限があるため、定款で株式の譲渡制限について定めます。
そのほか、取締役の人数や取締役会・監査役の有無によって、どのような規模向けのフォーマットを使うべきかが見えてきます。
■公開されているフォーマットの例
日本公証人連合会では、会社の規模に合わせて使えるフォーマットを公開しています。定款に記載すべき内容も判断しやすいため、フォーマットを使って作成すると作業がスムーズです。
日本公証人連合会が公開しているフォーマットは、4種類あります。それぞれ、小規模な会社・中小規模の会社・中規模な会社・大規模な会社向けです。
小規模な会社向けのフォーマットは、取締役が1人で株式非公開の会社向けです。中小規模の会社向けのフォーマットは、取締役が1人以上の場合に使用します。
中規模な会社向けのフォーマットには、監査役に関する内容が盛り込まれています。取締役会や委員会の設置など、さまざまな項目が必要な会社の場合は、大規模な会社向けのフォーマットを使用しましょう。
定款認証の流れと必要な費用
定款認証は、会社設立で欠かせない重要なステップです。ここでは、認証を進める流れについて詳しく解説します。
会社の本店所在地を管轄する公証役場での手続きが必要となるため、これから起業する場合には必ずチェックしておきましょう。
■公証人による認証とは何か
定款認証とは、公証人が作成した定款が、正当な手続きで作られたことを証明する重要な手続きです。株式会社など多くの法人設立時には、認証が法律で義務付けられています。
公証人による認証が必要なのは、設立後のトラブル・不正を防止する必要があるからです。具体的には、定款や法人格をめぐる紛争予防、不正な会社設立の抑止、マネー・ロンダリング対策などが目的として挙げられます。
注意点として、定款認証は会社の本店所在地を管轄する法務局に所属する公証人にしか依頼できません。管轄外の公証人に認証してもらっても、無効になってしまいます。公証人認証は、会社設立の正当性を担保する重要なステップなのです。
公証役場での手続き方法と持ち物
定款を作成した後は、公証役場の予約を取ります。公証役場が分かっている場合は電話で連絡するか、日本公証人連合会の公式サイトから該当の公証役場を探してみましょう。
【公証役場に持っていく基本的な持ち物】
- 作成した定款(3通が基本)
- 発起人の印鑑登録証明書(発行後3カ月以内)
- 実質的支配者についての申告書
- 委任状と代理人の本人確認書類(代理人の場合)
- 法人の登記事項証明書・印鑑登録証明書(発起人が法人の場合)
公証役場での定款認証手続きでは、まず定款原本2通を公証人に提出します。実務では1通は公証役場保存用、1通は会社保存用、そして設立登記申請用の謄本1通が必要なため、通常は定款3通を用意するのが一般的です。
定款に訂正がある場合は、訂正する場所と字数を明記し、発起人全員が訂正印を押す必要があります。スムーズな対応のために、捨印があると便利です。
近年はWeb会議での面前審査が原則となり、電子定款の認証済みデータはメールでも受領できるようになりました。これにより、手続きの利便性が大幅に向上しています。
■定款認証にかかる費用と主な内訳
定款認証にかかる費用は、会社の資本金額によって変わります。
2022年1月からの改定では、資本金100万円未満の場合は3万円、100万円以上300万円未満の場合は4万円、それ以外は5万円となりました。さらに2024年12月1日からは、小規模な会社設立に対する費用軽減措置が導入されています。
具体的には、『発起人が自然人で3人以下』『発起人が設立時発行株式の全部を引き受ける』『取締役会を設置しない』という条件を全て満たす資本金100万円未満の会社では、手数料が1万5,000円に減額されています。
また、電子定款を利用すれば大きな節約が可能です。紙の定款では4万円の収入印紙が必要ですが、電子定款ではこれが不要になります。つまり、最小規模の会社なら電子定款で手続きすれば、認証費用は1万5,000円だけで済むわけです。
定款の変更方法と変更が必要なケース
会社経営を続ける中で、ビジネスの成長や環境変化に応じて、定款の変更が必要になることがあります。定款変更が必要になる主な場面と手続き方法、費用と期間について確認しましょう。
■定款変更が必要になる場面
会社経営において定款変更が必要になるのは、主に以下のような場面があります。
まず、『事業目的の変更』です。新規事業への参入や事業範囲の拡大を行う際には、必ず定款に記載されている事業目的を変更する必要があります。事業目的は絶対的記載事項であるため、変更登記も必須です。
次に、『本店所在地の変更』です。オフィス移転の際には、定款上の本店所在地も変更しなければなりません。新旧2カ所の法務局での手続きが必要となる点に、注意が必要です。
また、『役員に関する変更』も頻繁に発生します。役員数の増減や任期の変更には定款変更が必要となりますが、定款内の記載に沿った役員交代の場合は不要です。
このほか、決算期の変更や発行可能株式総数の変更なども定款変更が必要なケースです。変更後は2週間以内に変更登記を行わないと、最大100万円の罰金が科される可能性があります。
■定款変更の具体的な手続き方法
定款変更には、法律で定められた手続きが必要です。まず、株主総会で特別決議を行います。変更の承認を得るには、議決権の過半数を持つ株主の出席と、出席株主の議決権の2/3以上の賛成が必要です。
決議後は、株主総会の議事録を作成します。議事録には、株主総数・出席株主数・定款変更の詳細などを記載します。
変更登記の申請方法は書面だけでなく、オンラインでも可能です。書面申請では必要書類を法務局に持参または郵送しましょう。
オンライン申請では、法務省または民間提供の申請ソフトを使用します。手続き完了後は、変更した定款と議事録を一定期間保管しなければなりません。
■定款変更にかかる一般的な費用
定款変更には、一定の費用がかかります。変更内容によって登録免許税が異なり、商号変更や事業目的変更は3万円、本店所在地変更は1カ所につき3万円が必要です。
役員変更の場合は、資本金1億円以下なら1万円、それ以上なら3万円がかかります。また、収入印紙の費用に加え、司法書士に依頼する場合は別途2万〜4万円程度の手数料が必要です。
自分で手続きを行えば司法書士費用は不要ですが、慣れない手続きを個人で行うのは難易度が高いでしょう。複数の司法書士事務所で見積もりを比較すると、費用を抑えられる可能性もあります。
定款違反のリスクと解決策
定款を作成した後、事業活動中に『定款違反』が起きることがあります。定款違反とは何なのか、違反のリスクと解決策を確認しましょう。
■定款違反とはどのような状態か
定款違反とは、会社が定款に定められた範囲を超えて、事業活動を行っている状態を指します。
例えば、定款の事業目的に記載されていない事業を実施している場合が代表的です。定款に記載していない事業を行ったとしても、直接的な罰則はありません。
しかし、いくつかの重大なデメリットが発生します。許認可が必要な建設業・不動産業などでは、会社の実態が不明確になることで審査に悪影響が出る可能性があります。
新規取引の開始前には、取引先が登記内容を確認するため、事業目的が不明瞭だと取引に支障を来すかもしれません。
大きな問題が出やすいのが、資金調達への影響です。融資・出資を受ける際には、登記内容がチェックされます。内容が一致しないと「資金を違う目的に使うのでは?」という疑念を抱かれ、資金調達が困難になるケースがあります。
トラブルのリスクを避けるためにも、事業内容の変化に合わせて適切に定款変更を行うことが重要です。
■定款違反による法的リスクと罰則
定款違反が発生した場合、直接的な罰則はなくても法律的なリスクは存在します。
例えば、違法配当や利益相反取引など株主の利益を損なう行為は、株主代表訴訟の対象となる可能性があります。この場合、役員は会社に対して損害賠償責任を負うことになるのです。
また、定款で定められた決議方法を無視した重要決定は無効とされ、取引自体が覆ることもあります。さらに、継続的な定款違反は会社の信用問題にも発展します。
取引先や金融機関からの信頼を失い、新規取引や融資が困難になるだけでなく、最悪の場合、会社法824条に基づく解散命令の対象となることさえあるでしょう。
定款違反のリスクを避けるためにも、定款とは何かをしっかり理解し、事業拡大時には適切な変更手続きを行うことが重要です。
■定款違反を防ぐためのチェックポイント
定款違反を防ぐためには、定期的なチェック体制の構築が不可欠です。まず、役員会や経営会議で『コンプライアンス基本方針』を策定し、定款順守の重要性を社内に浸透させましょう。
具体的なチェックポイントとして、新規事業を始める前に、必ず定款の事業目的との整合性を確認することが重要です。
また、定款で定められた決議方法(取締役会や株主総会)を厳格に守り、議事録も適切に保管しておきましょう。取引先との契約前には、その取引が定款の範囲内かを、法務担当者が確認する体制を整えることも効果的です。
定期的な社内研修を実施し、特に役員や管理職に定款の重要性を理解してもらうことも大切です。万が一、定款違反の可能性が見つかった場合は、すぐに専門家に相談し、必要に応じて株主総会を開催して定款変更を行いましょう。
定款とは会社の基本事項をまとめた書類
定款とは、起業の際に作成するものです。会社名や事業目的など、さまざまな事項が記載されています。
定款に記載されている内容は、絶対的記載事項・相対的記載事項・任意記載事項に分かれます。特に、必須となる絶対的記載事項は、どのような会社を設立するときにも把握しておきましょう。
会社の規模に合ったフォーマットを選び、認証手続きを進めることで定款が作成できます。
構成/編集部