小学館IDをお持ちの方はこちらから
ログイン
初めてご利用の方
小学館IDにご登録いただくと限定イベントへの参加や読者プレゼントにお申し込み頂くことができます。また、定期にメールマガジンでお気に入りジャンルの最新情報をお届け致します。
新規登録
人気のタグ
おすすめのサイト
企業ニュース

大阪新世界の「串カツだるま」にみる〝中小企業の跡取りいない問題〟の深刻度

2025.03.15

「日本経済を支えているのは中小零細企業・事業者だ」ということは、かなり以前から言われている。

確かにその通りであるが、それは同時に剃刀の隣で熟睡するような危うさをも内包している。もしもその中小事業者が倒産もしくは廃業してしまった場合、その地域に根付いていた文化がそっくりそのまま失われてしまうということもあるからだ。

食文化やモノづくり文化などを下支えし続けた故に、「その店や企業がなくなると地域文化自体が消滅する」という現象を、我々現代日本人は目の当たりにしている状態である。

串カツ屋の後継者になったサラリーマン

大阪に『大阪新世界元祖串かつ だるま』という飲食店舗がある。

このだるまの運営企業、株式会社一門会の代表取締役社長兼会長は上山勝也氏。上山氏は生まれながらの串カツ屋の跡取り……というわけではまったくなく、それまで石油販売会社に勤めていた身からいきなり串カツ屋を継ぐことになってしまったことは今や有名なエピソードだ。

ここでは近畿大学のキュレーションメディア『Kindai Picks』の記事を参考にさせていただくが、サラリーマンだった上山氏にだるまの後継者になれと説得したのは元プロボクサー・俳優の赤井英和氏である。

ある日「だるま」行ったら店が閉まってて。で、翌日行っても休んでる。「あれ?」と思って、三代目のご実家まで訪ねたんです。そしたら「病気して、もうやめようと思ってんねん」と言うんですよ。えええ〜!!! って思いましたね。ずっと通ってた一番美味い「だるま」がなくなるなんて「そんなんあきまへん」言うたら、「じゃあ、赤井さんやってください」と言われて……。

赤井英和の”わがまま”で串かつ屋に!?大阪名物「だるま」の上山勝也会長に聞く商売と義理人情-Kindai Picks

そこで赤井氏は、高校ボクシング部の後輩だった上山氏に声をかけたという。

「先輩に逆らえなかった後輩のエピソード」ということで笑い話になっているが、実はこれは「中小零細事業者の存続が地域文化の存続に直結してしまう」という深刻な社会問題でもある。だるまがなくなれば大阪の食文化のひとつである串カツがなくなり、それ以降は「昔、串カツという料理があった。どのようなレシピだったのか、歴史学者が研究中」という状態になってしまう。古代ローマ時代のワインの製法を学者たちが研究して論文を作成するのと同じような光景だ。

そうした「だるまが廃業した場合の未来」を、赤井氏は即座にイメージしたのだろう。文化の存続に対してこれほど機敏に反応できるのは、やはり人並み以上の知性と感性を有している証拠である。

半数以上の中小企業経営者は「後継者は決まっていない」と回答

だるまは上山氏を始めとしたボクシング部の後輩が引き継ぐことで、現在まで存続するに至っている。

しかし、日本全国にはかつてのだるまのような店、もしくは会社がいくつも存在する。

フォーバル GDXリサーチ研究所が全国の中小企業経営者934人を対象に実施した「中小企業の次世代戦略への対応調査」によると、「貴社では事業承継に向けた次期後継者は決まっていますか」という質問に55.9%の人が「決まっておらず候補者もいない」と回答している。「決まっている」が19.0%、「決まっていないが候補者はいる」が25.2%という結果だ。

業種によってはやむを得ない場合もあるだろうが、半数以上の経営者が後継者について決定的な判断を下していない、つまり自分が引退したら会社は売却するか廃業するかを考えている点は特筆に値する。

地域おこし協力隊を活用する自治体も

地方都市の伝統工芸品を製造する企業・事業者であれば、その問題はモノづくり文化の根底を直撃する。ひとつの企業が廃業したと同時に、工芸品の作り手がいなくなるという事態が即座に発生するからだ。

地域に特徴や特色がなくなると、まず真っ先に若者がいなくなる。高齢者ばかりが残された地域は人口増加の手段すら見出せず、そのまま衰退していく……ということが日本ではまさに現在進行形で起こっている。

それを解消するにはどうすればいいのか。現在、全国の自治体では「地域おこし協力隊」を後継人材として活用する手段が模索されている。これは総務省の制度であるが、都市部から該当の地域へ移住した上で、現地での仕事に従事してもらうというプロジェクトである。

協力隊は基本的には任期制なので、任期が終わった場合の受け入れはどうするのかという課題もある。協力隊に技術を教え、それがしっかり継承されるのかという点はまだ未知数な部分も否めない。

ひとつ言えるのは、「中小事業者の後継問題」は一刻も早くメスを入れるべき重要な問題であるということだ。

【参考・画像】
〈中小企業の次世代戦略への対応調査 第2弾〉事業承継に向けた後継者の育成を行っていない中小企業が約7割 次期後継者育成のために行っていること1位は「経営者との共同作業やプロジェクトへの参加」-PR TIMES
赤井英和の”わがまま”で串かつ屋に!?大阪名物「だるま」の上山勝也会長に聞く商売と義理人情-Kindai Picks

文/澤田真一

@DIMEのSNSアカウントをフォローしよう!

DIME最新号

最新号
2025年3月14日(金) 発売

DIME最新号は、「人間ドッグの新常識」。医師が本音で語る、受けるべき検査・いらない検査とは? 鈴鹿央士ほか豪華インタビューも満載!

人気のタグ

おすすめのサイト

ページトップへ

ABJマークは、この電子書店・電子書籍配信サービスが、著作権者からコンテンツ使用許諾を得た正規版配信サービスであることを示す登録商標(登録番号 第6091713号)です。詳しくは[ABJマーク]または[電子出版制作・流通協議会]で検索してください。