
家電の企画販売を手掛けるバルミューダが、2024年12月期におよそ7000万円の純利益を出しました。20億円という巨額損失を出した2023年12月期から一転しての黒字。スマホからの撤退で事業整理損などを計上するに至り、人員の削減を進めるなどスリム化を図っていました。
今後の成長戦略の柱に米国事業を掲げました。3億円を投じる計画。バルミューダは新たなステージに入りました。
年末商戦の追い上げで見事黒字化を達成
2024年12月期は薄氷を踏むかのような綱渡りの経営が続いていました。
1Q(2024年1-3月)は2億3600万円の営業赤字でスタート。2Q(2024年4-6月)は新生活がスタートする影響で1億4500万円の営業黒字を出します。バルミューダは夏向け家電である扇風機の開発に力を入れていましたが、3Q(2024年7-9月)は1億4700万円の赤字に転落していました。
第3四半期累計期間においては、2億円を超える赤字だったのです。
しかし、年末商戦の4Q(2024年10-12月)に2億5100万円の営業利益を出して、通期で1200万円の営業利益を出すに至り、6700万円の純利益を出しました。
期初は1億5000万円の営業利益を予想しており、実績は大幅に下回る結果となっています。しかし、海外の工場に生産を委託するバルミューダのビジネスモデルは、円安の影響を真正面から受けます。円安基調が続いていたにも関わらず、利益を出したところに強い経営手腕を垣間見ることができます。
※決算短信より筆者作成
2025年12月期は売上高を前期比0.3%増の125億円、営業利益を同59.0%の2000万円と予想しています。今期も黒字計画を立てました。
バルミューダは原価率が2023年12月期の73%から、2024年12月期は69%まで下がりました。この要因として2つ挙げています。1つは価格改定によるもの。もう1つは新製品のコスト構造の改善です。バルミューダは2万円を超える高額な扇風機を販売していますが、こうした付加価値の高い製品が原価の低減に一役買っているのでしょう。
また、バルミューダの製造拠点の多くは中国にあります。しかし、製造委託工場を東南アジアなど別の地域に分散させはじめています。これはトランプ大統領が中国からの輸入品に関税をかけることが背景にあります。バルミューダは日本の会社ですが、貿易上のルールでは製造した国の輸出品となります。米国への本格進出を目論むバルミューダが、早くも製造拠点の分散に動いたのです。
強力なリーダーシップを発揮
販管費率は37%から31%まで下がりました。2022年12月末に168人いた従業員は、2024年12月末に100人まで減少しています。人員削減も奏功しており、黒字化の要因となっています。37億円を超えていた在庫高も11億円程度まで下がりました。徹底的に無駄をそぎ落とし、コストコントロールを効かせているのでしょう。
代表取締役社長の寺尾玄氏は、2023年12月期の決算発表会にて、2024年12月期の業績予想が達成可能と考えているか問われ、「原価や売上総利益率、コスト構造等を積み上げて、且つ、それを冷静に経営陣、取締役会で判断した上で出している数値ですので、現時点で達成可能と考えています。」と回答しています。
強い覚悟で挑んだ様子が伝わってきます。通期予想の数字は下回ることになりましたが、この発言の通りコスト改善が黒字化に大きな影響を与えており、強いリーダーシップを発揮したと見ることができます。
南部鉄器が電気ケトルに?
気になるのは、会社を立て直した後の米国戦略でしょう。
バルミューダの全売上高のうち、北米は1割ほどしかありません。日本がおよそ7割近くを占める主力市場です。しかし、2027年12月期をめどに、海外売上比率を5割まで高める計画。さらに米国の売上はその半分を占めるという内容です。つまり、売上全体の1/4を米国で占める青写真を描いていることになります。
これは2024年12月期の北米売上の伸長率が高かったことが背景にあります。売上は前期の2倍以上に膨らんだのです。一方、日本の売上伸長率は2%にも届いていません。
バルミューダの売上は、トレンドに左右されることがほとんどありません。従って、家電や一部カテゴリーの市場拡大ペースに影響されることがないのです。そのため、企画力で製品カテゴリーを広げ、デザイン性などでその商品が“刺さる人”を取り込み、増収を図るというのが主なビジネスモデル。主力のキッチン家電は頻繁に買い替えを行うものではなく、リピート購買もほとんど望めません。
しかも人員削減を進め、在庫も抑えているバルミューダはいたずらにカテゴリーや製品数を増やせないというジレンマも抱えています。
米国という市場であれば、マーケティングの強化などによって販売数を拡大することができると見ているのでしょう。象徴的な商品がMoonKettle。これは南部鉄器の鉄瓶のような外観をしている電気ケトルです。日本風の味わいと機能性を組み合わせた商品で、売上増を狙っています。
アメリカでは日本食がブームになりつつあり、和食レストランが増加しています。ニューヨークの全レストランのうち、日本料理店は1347件で第5位(高知県貿易協会「ニューヨーク市内の新規オープンレストラン情報」)。ジェトロの調査では、アメリカ全土で2018年に1万8600だった和食レストランは、2022年に2万3000まで拡大したといいます。
人びとの間に和の要素が浸透し始めているとすれば、鉄瓶のような電気ケトルはヒットの潜在性があるかもしれません。
バルミューダはアメリカ向けに3億円を投資する計画を立てています。マーケティング費用や代理店の開拓など、営業力の強化を図るものでしょう。
モノづくり大国と呼ばれた日本の家電は力を失いつつあります。ファブレスのバルミューダがアメリカで成功すれば、成長のタネを模索するスタートアップに良い刺激を与えることにもなるのではないでしょうか。
文/不破聡