「Z世代」という言葉を聞くと、「ティーン」や「若者」のイメージを連想する人が多いだろう。しかしZ世代の中で最も年長である1997年生まれの筆者も、今年で28歳になる。実際にはZ世代の多くが大学を卒業し、職に就いていたり仕事を探していたりする年齢なのだ。新型コロナウイルス感染症によるロックダウンの時には高校生や大学生だった人も今では社会人になっており、それに伴って「オフィスウェア」の変化も生じている。ロックダウン開始から約5年が経った今、リモートワークの終了などが議論になっているが、その働き方の変化とともに、「オフィスにおける服装」の常識も変わっているのだ。
今TikTokやInstagramを中心に、Z世代の間で注目を集めているトレンドが「オフィスサイレン」や「ゴープコア」と呼ばれるファッションスタイルである。これらは、オフィス向けのかっちりとした要素(セットアップやピンストライプ柄など)とトレンディで個性的な要素(ミニスカートやヘソ出し、オーバーサイズやワークウェア要素)を融合させたもので、その人気はZ世代がいかにして職場環境に適応しながらも自分らしさを表現することに関心を持っているかを示している。1月17日に公開されたウォール・ストリート・ジャーナルの記事では、「オフィスにふさわしい服装に関するZ世代の新しいルール」というタイトルで、この常識の変化が記述されている。SNSでは「完全私服OK」の職場において社員がどのような服装で出社するのかを記録した動画なども多くの再生数を稼いでおり、注目されている話題である。
ブーマー世代やX世代にとってはオフィスで仕事をすることが当たり前だったが、リモートワークの普及によって在宅勤務の際にはスウェット着用が当たり前になり、オフィスに行くとしてもカジュアルな服装でOKだとルールを変える会社も増加した。在宅勤務に慣れた社員は、職場復帰後も堅い服装を避ける傾向にあり、快適さを維持しながらプロフェッショナリズムを保つ方法が模索されている。アリツィアやJ.クルー、アバクロンビー&フィッチといったブランドは、こうした変化するニーズに応える多用途なアイテムを提供し、市場で成功を収めた。柔軟性や流動性を重視する時代において、日本でも似た風潮の変化が起きている。
アメリカのZ世代のオフィス服トレンドに関しては、「現実とTikTokの違い」が話題になっている。例えばTikTok動画で「オフィスに着ていきたいコーディネート3選」というタイトルでミニ丈のスカートや肩を出したワンピースを着ていても、それはあくまでも「オフィスっぽいイメージを取り入れた服」であり、実際にインフルエンサーはオフィスでそのような服を着て仕事をしているわけではない。同時に、TikTokでは「面接にショートパンツをはいていったら着替えるように命じられた」という若者の投稿が大きな議論を呼んだ。コロナ以降の環境の変化によって「大人の世界では当たり前」の常識を知らない若者が増えている中で、「ルール」の曖昧さも増している。
そして、そういった服装に対する「ルール」に納得いかないZ世代も多い。ヒールよりもスニーカーのほうが健康的であるし、必要ではないのにかっちりとしたスーツを毎日着ることも理由がはっきりと説明されない限りは理解し難いだろう。それは世代の価値観の違い、そして社会の価値観の変化を表している。社会全体が多様化するとともに、そもそも「プロフェッショナル」とは何なのか、欧米の白人男性のスーツを「普通」としている価値観なのではないかという「当たり前への疑念」が起きるのは当然だ。
文/竹田ダニエル
●竹田ダニエル|1997年生まれ、カリフォルニア出身、在住。「音楽と社会」を結びつける活動を行ない、日本と海外のアーティストをつなげるエージェントとしても活躍する。2022年11月には、文芸誌『群像』での連載をまとめた初の著書『世界と私のA to Z』(講談社)を上梓。そのほか、多くのメディアで執筆している。