予実管理の苦手意識を克服するポイント
予実管理の苦手意識を克服できれば、よりミドルマネージャーの業務負担は大きく軽減されるだろう。では、どのように克服するべきか。
予実管理のプロであり、日本パートナーCFO協会に所属する、SynStream株式会社代表取締役社長・後藤俊輔氏に話を聞いた。
【取材協力】
後藤俊輔氏
日本パートナーCFO協会
SynStream株式会社代表取締役社長
複数の大手企業で経営企画責任者、M&A責任者、生産管理責任者等に従事したのち、独立して複数企業のPMI(買収後統合)マネージャー、社外CFO、研修講師に従事。
●予算や見込みの目的を明確にして関係者間で共有する
「苦手意識を克服するには、予算や見込みは何のために策定するのか、関係者間で目線を合わせることが重要です。一般的に予算や見込みの目的は主に以下の3つに分類され、求められる精度はそれぞれ異なります。
(1) 資金繰りの管理:キャッシュフロー確保のため、短期間での精度が重要。
(2) 経営上の問題発見:実績と比較し、ズレの発生原因を特定・改善する基準線とする。
(3) 外部開示:開示ルール上の精度を確保しつつ、それ以上の微調整には過度にこだわらない。
どのような目的でどのくらいの精度が求められるのかを関係者間で合意・言語化します」
●プラン作成は短期間で、チェック&アクションを重視
「プランは必要以上に精緻化しないようにすることが肝要です。振り返りとアクションを重視し、プラン作成は短期間で済ませることを心がけましょう。
経営において重要なのは、予算と実績のズレを確認し、異常や想定外の事象に気付いて迅速に軌道修正することです。予算はそのためのツールですから過度に時間をかけずに作り、チェック&アクションを重視する仕組みを整えることが重要です。
予実管理をいわば『定期検診』のようにとらえ、異常値の発見と対応をスムーズに行える体制を整えることで、ミドルマネージャーは本質的な業務に向かえます」
●予実管理の苦手意識を克服した事例
予実管理に苦手意識を持っていたマネージャーが克服した事例があるという。
「ある製造業のマネージャーは、予算策定に苦手意識を持ち、『結局、当たらないからやる意味がない』と軽視していました。しかし、社外の人との対話をきっかけに予実管理の目的を見直し『事業上の問題発見のツール』と認識を改め、次のようにプロセスを変更しました」
・過去データの可視化と異常値発見のサイクルを構築。
・予算と実績のギャップを月次でモニタリングするルーティンを導入。
・ズレの原因を内部要因と外部要因、一時的要因と恒久的要因等に分類し、対策の要否・有効性につき議論をする。
・自社のコントロールで改善できる範囲で改善行動を定める。その際、メンバーの意識の向け先は最終数値目標(KGI)に置かず、重要成功要因(KSF)とその進捗を計測する指標(KPI)に落とし短期間で振り返る。
「以上の取り組みから、予算は当てることを目的としたものから、変化に気づき素早く対応するためのツールへと転換されました。これによってプライシング、営業施策の見直し、コスト削減の提案が増え、主体的な経営参加が促進されました。結果として、粗利益が段階的に向上し、マネージャーの意思決定の質が改善しました」
ミドルマネージャーとしては、社内における予実管理の本来の目的を知ろうとすること、そして予実管理が便利なツールであることに気づくことがポイントといえそうだ。
調査出典:カオナビ「予実管理に関する調査」
取材・文/石原亜香利