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会社のロッカーをぶっ壊して合意書を偽造!?勝手に給料アップを謀った社員による驚愕の手口

2025.03.06

こんにちは。

弁護士の林 孝匡です。

宇宙イチわかりやすい法律解説を目指しています。

社員がロッカーをブッ壊して合意書を偽造!?

事件をかいつまむと以下のとおりです。

Xさん
「合意書に書いてあるじゃないですか」
「インセンティブ129万円を払ってください」

会社
「この合意書、偽造されてます」
「Xさんが勝手に会社の印鑑を使って作成しています」

―― 裁判所さん、いかがですか?

裁判所
「たしかに……」
「Xさんがロッカーをブッ壊して印鑑を盗った疑いが濃厚ですね」
(東京地裁 R4.12.6)

事件の詳細を、わかりやすく解説します。

※ 実際の判決を基に構成
※ 判決の本質を損なわないようフランクな会話に変換
※ 争いを一部抜粋して簡略化

登場人物

▼ 会社

・不動産仲介業も営む

▼ Xさん

・営業を担当(宅建の資格あり)
・中国国籍を有する

どんな事件か

―― 入社した経緯は?

Xさん
「約3年前に社長と知り合い、食事をするようになりました」

Xさんは当時、不動産仲介の会社に勤めていましたが、社長と意気投合したのでしょう。

社長の会社に転職することになりました。

しかし……わずか6か月で退職します。そして訴訟沙汰に。

―― Xさん、言い分は?

Xさん
「インセンティブ129万円を払ってもらっていません。『売上げの50%をインセンティブとして払う 』と約束したのに払ってもらっていないのです。合意書もあります」

―― 会社さん、反論は?

会社
「そんな約束していません。この合意書はXさんが偽造したものです。会社の印鑑を勝手に使って偽造しています」

裁判所のジャッジ

Xさんの負けです。

―― 裁判所さん、会社の印鑑が押してあれば合意書は有効なのでは?民訴法にそんな条文があったような……。

裁判所
「よくご存知で。たしかに、民事訴訟法228条4項にはそう書かれていますわな」


民事訴訟法228条4項
私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する。


裁判所
しかし!『特段の事情』があるときは話は別です。今回のケースは『特段の事情』があるので合意書は有効に成立していません」

裁判所が合意書を否定した理由を見ていきましょう。

▼ 入社時の書類に記載ナシ

雇用契約書にはインセンティブに関する記載はありませんでした。さらに、社長がXさんに手渡した賞与規定にもそんな記載はありませんでした。書かれていたのは「半期の売上額が500万円を超えた場合に4%の賞与(3月・9月)」という記載くらいです。

▼ ロッカーがブッ壊される!

ある日、会社のロッカーがブッ壊されました。そのロッカーは暗証番号による鍵つきのロッカーです。左上のスペースには印鑑が保管されており【会社用・開放厳禁】と書かれていました。

破壊事件の詳細は以下のとおりです。


6/28 日曜日
 Xさんは会社に出勤。会社に出勤したのはXさんだけ。
6/29
 Xさんは他の従業員よりも早く出勤。
 ロッカーの周辺を掃除。
 その後、Cさんも出勤。掃除をスタート。
 いきなり大きな衝撃音が!
 XさんはCさんに「掃除機のコードに足を引っ掛けて転んでロッカーにぶつかった。ロッカーの鍵を壊してしまった」と説明。
 Cさんは社長にTEL。その状況を写真撮影。


ロッカーの損傷状況は以下のとおり。


・印鑑保管ロッカーの鍵のところだけが壊れていた
・ほかに傷は凹みなどナシ
・鍵のつまみ部分がなくなっていた


―― 刑事さん、失礼!裁判所さん、この事件、どう見ますか?

裁判所
「Xさんがロッカーを破壊して開け、ロッカーに保管されていた印鑑を利用するなどして本件合意書に捺印して偽造した疑いが濃いといわざるを得ない。Xさんの主張はロッカーの破壊の態様と整合しておらず、不自然かつ不合理だ」

前日にXさんだけが出勤しており、破壊事件当日、誰よりも早く出勤していたことも理由の1つになっています。

▼ インセンティブ金額に抗議せず

あと、裁判所はXさんが「インセンティブ金額に抗議してなかった」ことも理由に挙げています。売買契約を成立させた際、会社はXさんにインセンティブを払っていたのです。50%とまではいきませんが。


2月分 12万円
3月分 4万円
6月分 9万円


この時、Xさんは何の抗議もしませんでした。「インセンティブは売上額の50%だ!」という抗議をしなかったのです。

裁判所
「抗議をしないのは経験則上、不自然である」
「あと、裁判中に言い分が変わってるから信用できない」  

―― 言い分が変わってる?

裁判所
「Xさんは第1準備書面(1回目に提出した主張書面)では『口頭で抗議しました』と主張していました。しかし!その後の本人尋問では『インセンティブは半年に1回まとめて払ってもらうことになっていたので、そのときには異議を述べませんでした』と供述しました。主張が変遷しているのです。Xさんの主張をにわかに採用することはできません」

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