
医療の地域格差が深刻だ。国全体の少子高齢化、人口減少問題に加えて、過疎化もつきまとう。都心であっても治療が困難な難病ともなれば、さらに希望が薄くなる。安易な発想ではこの問題は解決できない。
この医療の地域格差を埋める対応策として、一つの有望策となるのが、デジタルやオンラインを活用する方法だ。この問題解決に挑むスタートアップ2社の取り組みを紹介する。
最寄りの医療機関まで何キロ? 広がる地域の医療サービス格差と対応策
医療格差とは、居住地域や経済的な理由から適切な医療が受けられないなど、医療サービスに差が生じることだ。
このうち、地域の医療格差をはかる一つの指標が、【最寄りの医療機関までの距離】だ。
2008年時点の、高齢者世帯と最寄りの医療機関までの距離についての統計データでは、65歳以上の世帯などは住居から最寄りの医療機関までの距離が1km以上の世帯の割合は20%前後。世帯全体の17.6%と比べ、高齢者の住んでいる住居は相対的に医療機関から遠いところにあることがわかる。
住居から最寄りの医療機関までの距離が1km以上である世帯を都道府県別にみると、夫婦とも65歳以上の世帯は、鹿児島県(47.9%)、岩手県(44.0%)、島根県(41.3%)の順に並ぶ。一方、最も少ないのは東京都(3.2%)で、次いで神奈川県(6.4%),大阪府(7.2%)となっている。このデータだけを見ても差が大きいことがわかる。
こうした地域の医療格差は、さまざまな角度から対応策が進められている。その一つのアプローチ方法が、デジタルやオンラインを活用することだ。
2024年7月からはオンライン診療アプリ「ドクターナウ」が、東京都内でWoltの法人向けサービスを利用し、処方薬の即時配送サービスを開始した。これにより、オンライン診療から医薬品処方まで自宅で完結する。
場所を選ばないオンライン診療の普及は、医療の地域格差問題に対して、有望といえる。
医師同士をつなぐ“チャット窓口”
そんな地域の医療格差を「医師目線」からデジタルとオンラインで対応する仕組みを作り上げたスタートアップがある。株式会社Mediiだ。
同社は医師向け専門医相談サービスである「Medii Eコンサル」を運営している。
同サービスは、医師が診断や治療方針などの臨床に関する疑問がわいたときに、オンラインを通じて各専門領域のエキスパートに匿名でチャット相談できる。利用は完全無料だ。
株式会社Medii 代表取締役で医師の山田裕揮氏は、自身が不治の難病患者となり、免疫難病の専門医となるも、一人で診られる患者の数や専門領域の限界に直面。より多くの難病患者を救うため、難病診療を支える仕組みを作るために、同社を創業した。
同サービスは地域医療格差にどのように貢献するか。山田氏に話を聞いた。
「大きな課題は『専門医へのアクセスのしやすさ』や『診断・治療方針を決定するための知見と経験の差』にあると考えています。特に希少疾患や難病といった進歩が著しく、7000以上ある疾患の一つひとつが高い専門性が必要な領域では、多くの医師が対応に苦慮しています。
私自身、難病患者として診断や治療に長年苦しんできた経験があり、リウマチ膠原病専門医として様々な医療現場で診療を重ねる中で、難病や希少疾患は症例数が少なく、そもそも臨床医が十分な経験を積むことが難しく、構造的な限界を痛感しました。これを解決するためには、すべての医師が必要な専門知見に迅速かつ容易にアクセスできる仕組みが必要です。Medii Eコンサルによって、主治医が全国に偏在するエキスパート専門医に相談できる環境を構築することで、対応が難しい患者の早期診断や治療の最適化に貢献しています」(山田氏)
同社は「誰も取り残さない医療を」という目標を掲げる。
「どんな病気でも住む場所に関わらず、患者さんが納得のいく医療を受けられる社会をつくりたいという強い願いがあります。Medii Eコンサルという新しい医療インフラを通じて、地域医療をより良いものにしていきたいと考えています」(山田氏)