
人事異動の拒否は可能だろうか?会社に告げられた配置転換や転勤・出向が納得できない場合の対処法と、従業員が拒否権を行使できる正当な理由についてまとめた。
目次
部署の異動や転勤・出向などを命じられる「人事異動」は、会社員生活に大きな影響を及ぼす。特に予期していなかった配置転換や私生活に支障が出る転勤・出向などを内示されると、「拒否できないか?」と悩む人も多いだろう。
そこで本記事では、望まない人事異動を告げられた場合に知っておきたい「人事異動が拒否できる正当な理由」と「人事異動に納得できない場合の対処法」を解説する。
人事異動は原則的に拒否できないが、「正当な理由」があれば可能
正社員に対する会社の人事権は強く、就業規則や雇用契約書にも人事異動に関する項目が盛り込まれているケースが多いため、原則的には人事異動拒否はできないと考えたほうが良いだろう。
ただし、社員側に正当な理由がある場合は、拒否権が認められるケースも少なくない。一つずつ見ていこう。
■正当な理由なく人事異動を断るとどうなる?
人事異動を拒否しても、すぐに解雇となるケースは少ない。ただし、正社員の就業規則には人事異動に従うことを義務付ける項目が設けられている場合が多く、正当な理由なく従わない場合は、懲戒処分(解雇や減給など)の対象となることもある。
まずは、入社時に渡された就業規則・雇用契約書の人事異動に関する項目を確認しよう。
人事異動を拒否できる正当な理由の例
人事異動は基本的に拒否することが難しいが、以下のようなケースでは拒否する正当な理由があるとみなされる場合がある。
(1)介護・看護等で部署異動や転勤が困難な場合
要介護や病気療養中の家族を看護しているなど、やむを得ない事情がある場合は、現状を会社に伝えることで人事異動を拒否できる場合がある。
(2)うつなどの病気の治療に支障が出る場合
社員本人が病気治療中で、人事異動により「病院への通院が困難」「健康状態が悪化する可能性が高い」などのやむを得ない事情がある場合も人事異動を拒否できる場合がある。
(3)特定の職種に就く契約を交わしている場合
トラックやバスの運転手、医師・看護師、大学教員など、あらかじめ特定の職務に就くことを想定して雇用契約(職種限定契約)を交わしている場合は、それ以外の業務を命じることは契約違反となり拒否が可能となる。
(4)勤務地限定の雇用で転勤を命じる場合
雇用契約書の項目で勤務地が限定されている場合、該当エリア外への転勤に異動を命じることは契約違反となるため拒否できる。
(5)退職を促すためや報復のための異動の場合
成績不振の社員を退職させる目的や、パワハラ・セクハラなどの内部告発をした社員への報復目的で異動を命じる場合も、裁判上で無効とする判例が多く見られ、拒否できる可能性が高い。
(6)賃金の減額を伴う異動の場合
人事異動では、賃金は据え置き(または増額)されることが基本となっている。賃金の変更には労使の合意が必要なため、社員の同意がなければ人事異動は無効だ。会社が従業員の同意なく一方的に賃金を減額した場合は労働契約違反となる。
正当な理由があると認められるのは、当初の契約内容と異なる異動や従業員が著しく不利益を被る異動、労働契約法に違反した異動である場合だ。
ただし、不利益の具体的な内容などは社員側が内情を説明する必要があり、場合によっては拒否するだけの理由とみなされないこともある。迷ったときは労働問題を相談できる窓口(各都道府県労働局、労働基準監督署の相談コーナー、弁護士・社会保険労務士など)に相談しよう。
人事異動に納得がいかない場合の対処法
会社の人事異動に納得できない場合は、先に述べた「人事異動を拒否する正当な理由」に該当するものがあるかをチェックしたい。だが、当てはまるものがないとしても、納得のいかない気持ちを抱えたまま働くことにモヤモヤする人も多いはず。
人事異動に納得できない場合、他にどのような対策があるか見てみよう。
■まずは人事異動の理由を会社に確認
望まない人事異動を命じられた場合に多くの人が気になるのは、やはり異動の理由だろう。人事異動は正式な辞令の前に内示があることが多いため、その時点で異動理由を求めることが可能だ。
たとえば、人事異動が必要な理由や自分を選定した理由、異動後の勤務条件(勤務地、職務内容、給与・就業時間・休日などに変更点がないか、転居が必要な場合は諸手当の有無、転居が不要でも通勤所要時間の変化など)を確認しよう。
会社は人事異動の理由について従業員に説明する法的義務はないが、労働条件の明示については労働基準法上の義務を負う(労働基準法15条1項)。よほどの事情がなければ、異動理由も含めて教えてくれるはずだ。
なお、人事異動は一般的に以下のような理由で行われるケースが多い。
・組織の成長や活性化
・従業員の育成やスキルアップ
・従業員のモチベーション維持や癒着の防止
・事業の拡大・整理
組織や経営上の方針(事業の拡大・縮小、人員整理など)から避けられない人事異動であるケースも多いため、望まない人事異動だったとしても、必ずしも悪意のある異動とは限らないことも知っておこう。
■人事異動を拒否するための退職・転職はあり?
人事異動に納得できない場合、会社を辞めることを考える場合もあるだろう。結論を言えば、人事異動を理由に退職を検討しても問題ない。
ただし、勢いや感情に任せて「辞める」と決めることは避けよう。会社から人事異動の理由を聞き、異動先で成長やスキルアップが見込めそうであれば、とりあえず辞令を受けるのも一つの方法だ。
退職する場合も就業規則に決められた規定に沿って退職手続きを進めるようにしたい。在職中に次の就職先を決めておけば、収入が途絶えることもなく安心できるだろう。
■人事異動拒否による退職は自己都合退職になるのか?
人事異動は、ほとんどの場合、就業規則や労働契約書によって社員に義務付けられている。そのため、人事異動拒否による退職は、職務規定違反による自己都合退職とされるケースがほとんどだ。
一方、就業規則や雇用契約書に人事異動に関する規定がない場合は、会社都合退職となる場合がある。また、人事異動を拒否したことでハラスメントや退職勧奨を受けた場合、人事異動を拒否する正当な理由がある場合も会社都合退職となる可能性がある。ただし、ケースバイケースの面が大きいため、こちらも労働相談窓口などで話を聞くようにしたい。
※情報は万全を期していますが、正確性を保証するものではありません。
文/編集部