在来種再生の立役者が“種を焼却処分”! 山澤氏が発表した衝撃の決断
そんな中、山澤氏は、現在希少となる在来種の種を保護し次世代に伝える取り組みを牽引する先駆的な存在である。
山澤氏は、元々農業用機械や農薬の技術指導を行っていたが、長男のアトピー性皮膚炎の発症をきっかけに、庄内地方の生態系の悪化と環境への影響を懸念し、退職。健康と食の関わりに深い関心を持つようになり、農薬や化学肥料を使用しないハーブ栽培に取り組むことを決意。山形庄内に「ハーブ研究所スパール」を設立。化学物質に汚染されていない健康的な鳩の糞を肥料に使用する方法を発案、無農薬地域循環型農業を確立した。
数多くの試行錯誤を重ねながら、国内初となる国産ローズヒップを使用した基礎化粧品の発売による六次産業化にも取り組み、絶滅の危機に瀕していた在来種である黄カラスウリの種子の再生にも成功し、黄カラスウリの基礎化粧品シリーズも発表した。天然由来の高品質なオーガニック化粧品のOEMを手がけるなど、オーガニックコスメ業界でも知る人ぞ知る著名な存在なのである。
↑山澤氏が手がける高品質でリーズナブルなオーガニックコスメ群。
山澤氏の取り組みに呼応するように、在来作物を作り伝えている人達を追ったドキュメンタリー『よみがえりのレシピ』(2011年公開)や、世界中の種の守り人、シードキーパーたちの挑戦を描いた『シード ~生命の糧~』(2016年公開)など在来種の重要性に着目した映画が公開されたり、山形県鶴岡市がユネスコの食文化創造都市に選定されるなど、在来野菜や伝統野菜の復権をうったえるムーブメントは、近年、食文化や環境への関心が高まる中で注目を集め盛り上がりを見せていた。
そんな矢先、在来種の種の保護の取り組みを牽引する先駆的な存在であり、中核を担っていたと言っても過言ではない、山澤氏が自ら、“種を破棄処分”するという驚きの発表をしたのが2024年の3月。
このままだと、今年2025年の3月10日には決行するという山澤氏。
リミットとしている3月10日までに、10万人から“種の廃棄に反対する”電話がかかってくれば処分の取り止めを考えるとのこと。
現在、一年近く経つわけだが、かかってきた電話は5万弱。
山澤氏を思いとどまらせるのに十分な数には至ってないようだ。
まぜ、これまでの尽力が水の泡になってしまうような行動を決意するに至ってしまったのか…。
“種を守ることは国防”” 山澤氏が語る在来種の重要性と農業の未来
「今食べ物さ、興味ある人いなくなっちゃったのよ。
なんぼAIなんか進んだって、食べ物なかったら死んじゃうからね。
バーチャルでは生きていけないのよ。
野菜に興味ある人がいっぱい増えれば残るよ、在来野菜は。」
山澤氏は、「これはゲームなのよ」と語る。
今こそ生きる根幹を支える農について、もっと真剣に考え、在来種の継承の大切さに気づいてほしいというのが山澤氏の本音のようだ。
例えば、飢えて病む人が多い未開の土地に医療機関が作られると注目が集まり、賞賛される。確かにそういった取り組みも大切だが、その土地に根ざした作物を育て人々のお腹を満たすことのほうがより多くの人の命を救うことになるとても大切な事業なのではないか…と語る。
「食べ物を作る農業ってのはすごいのよ!崇高な仕事なの、本当は。食は国防だかんね!」
これまでかかってきた電話の9割が女性だと言う。
やはり次の世代のために、食の大切さを実感しているのは女性のほうが多数のようだ。
「毎日、野菜買ってる人、おそらく800万人以上いるとしてさ。その800万の中で、もしか、8万人でもいいから、『固定種の野菜ってない?』、『在来種ってない』ってお店に聞いてくれるだけで3年で農業は変わる」
長期的なスパンで俯瞰して見れば、日本の将来を鑑みて、志ある企業が、山澤氏の“種”事業を買い上げてくれてもいいのに…なんて本音もポロリ。
また、日本全国の農家や種苗店から集めた伝統品種の種、その貴重さもさることながら、その種を採取する山澤氏の技術自体も相当な価値がある。
「やりたいねって言えば、私なんぼでも協力するよ。
40年の知識を30分ぐらいで教えられるもの。」
絶滅の危機に瀕していたカラスウリ種を復活させたように、山澤氏が会得されてる日本各地で代々受け継がれてきた種取りの技術を次の世代に伝えることもかなりプライスレスな価値のある取り組みではないだろうか。
世界がこぞって、種の保存に躍起になっている時代。
食文化や食材、調理技術の深い理解と創造性を重視し、食事を芸術的かつ文化的な体験として提供するガストロノミー的視点からも日本の希少な在来種の野菜の種はこれから世界のマーケットでも価値が高まる可能性もあるのでは…。
山澤氏の種処分阻止は、2025年3月10日まで、電話を受け付けているそうである。
山澤氏の携帯番号はこちら→08018478616
残すところ一ヶ月を切ってしまっているが、10万人以上の電話があれば破棄は取りやめるとのこと。
この取材中も山澤氏の携帯には日本全国の種の未来を憂う心ある人達からの電話が絶えずかかってきた。
興味を持たれた方は是非、山澤氏に種の話をじっくり聞いてみて欲しい。
幸せに、ウェルビーイングに生きていく上で、いかに食が、農が重要なことなのか、我々はもっと真剣に考えなければいけない。
撮影/本間寛 取材・構成/DIME WELLBEING編集部