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ディー・エヌ・エーが2024年4-12月において209億円もの営業利益を出しました。前年同期間は276億円の営業損失。大幅な黒字への大転換を果たしています。
業績伸長に寄与したのが2024年10月にリリースした「Pokémon Trading Card Game Pocket(ポケポケ)」のヒット。ゲーム事業のセグメント利益は前年の82倍というとてつもない数字になりました。
継続率やサブスクの利用者が高いことにも注目
「ポケポケ」はダウンロード数が6000万を突破した大人気ゲーム。ディー・エヌ・エーはこのタイトルのメガヒットを受け、2024年12月26日に「ゲーム事業の見通しについてのお知らせ」という開示を行っています。
そのなかで、2024年10-12月におけるゲーム事業の売上収益の見込みを出しており、250億円以上としていました。実際は280億円。大幅に上振れており、足元の好調ぶりがうかがえます。
ディー・エヌ・エーのゲーム事業は、2021年3月期ごろまでは四半期の売上収益が200億円を大きく超えて堅調に推移していました。しかしそれ以降は停滞気味で、2025年3月期は四半期の売上収益が110億円台まで落ち込んでいました。「ポケポケ」の成功は、正に一発逆転のホームランといったところ。盤石な収益基盤が構築されたことになります。
※決算説明資料より筆者作成
「ポケポケ」は株式会社ポケモンと株式会社クリーチャーズ、ディー・エヌ・エーが共同開発したタイトル。ポケモンカードゲームのデジタル版です。しかし、徹底的にアナログの質感にこだわり、開封時の手触り感を再現するなど、単純なデジタル版に留まらない作り込みを行いました。また、1日に2パックが無料で開封できるなど、初心者にも楽しめる配慮がなされています。
ディー・エヌ・エーは、「ポケポケ」がこれまで手掛けてきたどのタイトルよりも継続率が高く、プレミアムパスのサブスクリプションも多くのユーザーが利用していることを明らかにしています。
モバイルゲームは当たれば大きな収益に期待できる一方、浮き沈みが激しいのが難点でした。しかし、「ポケポケ」のヒットは、息の長い収益性に期待ができそうなのです。これは同社にとって極めて重要なことでした。
成長期待が高いライブストリーミング事業が失速
ディー・エヌ・エーはゲーム事業の他に、生配信を行うライブストリーミング事業、プロ野球のスポーツ事業、ヘルスケア・メディカル事業、配車アプリ「GO」などを含むその他事業を展開しています。
これは時代の先を行く新興企業らしく、ビジネス環境の変化に敏感に反応して新規事業を展開してきたため。かつて医療メディア「WELQ」が大炎上して大きな挫折を味わいましたが、それ以降も果敢にチャレンジしてきました。しかし、新規事業は必ずしも大成功しているとは言えません。
業績の伸長に期待されていたライブ配信アプリ「Pococha」を中心とするライブストリーミング事業は、2024年4-12月が5%の減収。4億円のセグメント損失(前年同期間は4億円のセグメント利益)を出しています。
この事業はコロナ禍の巣ごもり特需で力強い増収を重ねていたものの、近年は人気が一巡。2024年10-12月のPocochaの売上収益は79億円で、前年同期間比で1割近く減少しています。今期は通期減収での着地もありえるでしょう。
ヘルスケア・メディカル事業は2024年4-12月が2%の減収でした。35億円のセグメント損失(前年同期間は31億円のセグメント損失)でした。
こちらは成長ペースが鈍化しており、黒字化も果たせていません。この事業では、健康状態に合わせた健康情報を提供するアプリの運営などを行っています。健康保険組合や自治体などで導入されるもの。高齢化社会で働き方改革も進む中、将来性のある事業であることは間違いありません。しかし、足元の業績は停滞気味です。
堅調に成長しているのはスポーツ事業で、同期間における売上収益は前年同期間比12%増の265億円、セグメント利益は同15%増の50億円でした。ただし、業績を下支えするという意味において重要度の高い事業ではありますが、新興企業らしい勢いのある成長をけん引するほどの力はありません。
突如としてAIに全振りすると宣言
南場智子代表取締役会長は、2025年2月5日のAIイベント「DeNA×AI Day」にて、「AIにオールインする」と語ったことが話題になりました。まずは生成AIの業務効率化によって、展開している事業の維持や成長に必要な人員を大幅に削減。半分ほどにまで圧縮するといいます。そして、残る人員で新規事業AIエージェントサービスを立ち上げるとしたのです。
AIエージェントとは、決められたタスクを実行して業務を効率化するもの。ディー・エヌ・エーはヘルスケアやスポーツ事業をすでに展開しており、知見やノウハウのある領域への進出を想定しています。また、BtoC向けのサービスとして、ゲームなどのエンターテインメント分野も検討していることを明らかにしました。
このような大胆な方針を掲げられるのも、「ポケポケ」がヒットしたうえに、息の長い収益性が期待できることが背景にあるでしょう。なにしろ、2024年10-12月のゲーム事業におけるセグメント利益率は66.4%にも及んでいます。収益性の低いゲームタイトルのクローズや不採算事業の整理はしやすい状況ができました。AIによる業務効率化を進めると同時に、サービスや事業の見直しを図るのではないでしょうか。
「ポケポケ」のヒットはディー・エヌ・エーの収益性だけでなく、事業構造そのものを変化させる可能性があります。
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※画面は開発中のものです。
文/不破聡