
パーソル総合研究所は、九州大学・池田浩研究室と共同で実施した「上司と部下の信頼関係に関する研究」の結果を発表した。
「信頼のらせん関係」構築の源流は、「リーダーによるメンバーへの信頼」
社会的不確実性が高まるなか、組織の円滑な運営や従業員のエンゲージメントを支える「信頼」の価値がますます高まっていくことが想定される。同研究では、職場における上司と部下の信頼関係が形成・深化するには、「信頼」の相互交換のみならず、相手から信頼されていると感じる「被信頼感」も重要であり、これらが”らせん的”に循環していく新たな信頼形成モデルを実証。また、信頼関係が業務成果やメンバーのウェルビーイング(より良い状態)に与える影響についても確認した。
■新たな信頼形成メカニズム「信頼のらせん関係」とは
同調査では、リーダーとメンバー間で形成される「信頼のらせん関係」に関する新たなメカニズムが検証された。このメカニズムでは、(1)リーダーがメンバーを信頼することを起点とし、(2)その信頼をメンバーが感じ取り(被信頼感)、(3)メンバーはよりリーダーを信頼するようになって、(4)リーダーがメンバーからの信頼を感じ(被信頼感)、よりメンバーを信頼するようになる循環的な相互作用を表している。協力組織(5組織:リーダー304名、メンバー1,848名のペア)において、3か月間にわたるデータを分析した結果、この信頼関係が時間経過とともにらせん的に深化していく傾向が確認された。また、信頼関係には、より良好となる“正”のらせん関係と、逆に崩壊に向かう“負”のらせん関係が確認された。
<図解の見方とポイント>
矢印は、4つの変数間の影響関係を表しており、矢印の隣に記載された数値(相関係数、例: .60**)が影響の強さを示す。
・相関係数の意味(例: .60**, .49**):相関係数は、変数間の関係の強さと方向を示す指標である。「正の相関(数値)」は、一方の変数が増加すると、他方の変数も増加する関係を示す。一方、負の相関(数値)は、一方の変数が増加すると、他方の変数が減少する関係を示す。数値が±1に近づくほど影響が強いことを示す。
・矢印(太字)は、各要素間の関連があることを表す。
・矢印(細字)は、1回目の相関係数(左側)と2回目の係数(右側)の比較を表している。2つの数値を比較すると、2回目の数値が大きくなっている。これは、同じサンプルにおいて、時間経過とともに相関がより強まったと解釈できる。つまり、正・負の関係を問わず、各要素間の関係が深化している(より関連が強くなっている)ことが示唆される。
■メンバーへの信頼を高めるリーダーの行動
信頼関係の起点として、リーダーがメンバーを信頼するには、「拡張型の人材観」(人は努力と環境次第で成長できるという信念)や「他者基準の期待」(画一的ではなく、個々の特性や役割に応じた期待のかけ方)が鍵となることが明らかになった。特に、メンバーが早いレスポンスや能動的な行動(先取り行動、適切な報連相)を取る場合、リーダーの信頼が強化される傾向が見られた。一方で、「固定型の人材観」(能力は固定的で変化しないと考えるリーダーの価値観)はメンバーへの信頼を阻害する要因として作用することも確認された。これらの結果は、リーダーの価値観や考え方が、メンバーとの信頼関係を築くうえで重要であることを示している。
■リーダーからの被信頼感を得るための要素
職場での信頼関係構築において、リーダーとメンバーの双方が「相手から信頼されている」と感じること(被信頼感)は、重要な役割を果たす。同調査では、リーダーの「サーバントリーダーシップ」(支援的なリーダーシップスタイル)がメンバーの被信頼感形成に寄与することが確認された。サーバントリーダーシップとは、メンバーの自主性を尊重し、指示や管理に過度に依存せず、職務環境を整えることに焦点を当てたリーダーの行動を指す。また、メンバー自身の「オーセンティシティ」(自分を装わず自然体で振舞えている状態)も、リーダーからの信頼をより実感する上で重要であった。メンバーが自分らしさを発揮できるようなリーダーの支援的行動は、信頼関係の構築(深化)を促進するカギとなる。
■信頼関係の52.4%が「一方向不全関係」(片思い)のリスクと対応策
職場における上司と部下の信頼関係を類型化すると、3つのパターンが導出された。このうち、52.4%が「信頼の一方向不全関係」(部下の片思い)であることが明らかになった。これは、部下は上司を信頼しているものの、上司が部下を十分に信頼していない状態を示す。職場関係の約半数を占めるこの一方向性の不全関係を改善するには、上司が部下の能力や行動について、リスクを取ってでも期待をかけることが重要である。具体的には、人の能力や行動は、適切な環境を用意すれば伸びると信じ、その成長を支援する姿勢が求められる。
■信頼のらせん関係とチームパフォーマンスの向上
信頼のらせん関係の3類型ごとに、職務パフォーマンス(個人)、業績(個人、職場、組織)、ウェルビーイング(はたらく幸せ実感)の差異を確認した。いずれの変数もC1:「信頼の“正”のらせん関係」が最も高い平均値を示し、次いで、C3:「信頼の一方向不全関係」、最も低い傾向を示したのはC2:「信頼の“負”のらせん関係」であった。特に、「職場業績」「はたらく幸せ実感」については、その差が顕著であった。
信頼の“正”らせん関係が形成されている職場では、個人業績以上に職場としての業績が高い傾向があり、個人の心的状態も良好に保たれていることが確認された。上司と部下の良好な信頼関係は、メンバー各人のエンゲージメントやチームワークを高め、結果的に経営上の成果に寄与すると考えられる。
<職務パフォーマンス>
・課題パフォーマンス:上司の指示や与えられた仕事には、忠実かつ、ミスなく確実に取り組んでいる程度
・文脈的パフォーマンス:職場内で生じた問題状況に対し、自発的に同僚を支援し、解決しようとしている程度
・プロアクティブ・パフォーマンス:将来や先々の仕事をイメージしながら、自分なりの工夫や調整を前向きに行っている程度
<業績>
・自職場の組織的な成果(主観的職場業績)
<Well-being>
・はたらく幸せ実感:はたらく事を通じて、主観的幸福感を得られている程度(職業生活Well-being)
※はたらく幸せ実感は、ワーク・エンゲイジメント(仕事への熱意・没頭)の先行要因と考えられる
・はたらく不幸せ実感:はたらく事を通じて、主観的に不満や苦痛を感じている程度
※はたらく不幸せ実感は、ストレスや離職意向の先行要因と考えられる
■1on1ミーティングが信頼関係構築に与える効果
1on1ミーティングは、リーダーとメンバーが個別に対話し、信頼関係を深める重要な手段と考えられるが、運用面では課題も多い。同調査では、1on1のリーダーとメンバー双方の信頼関係構築への影響について分析を行った。その結果、注目すべき点として、1on1は、双方が相手を「信頼」する効果は小さいが、相手からの信頼(被信頼感)を得る効果が確認された。具体的には、「実施頻度」よりも「メンバーの発言量」や「メンバーが個人的な深い内容を語れている程度」が相対的に強く影響していた。特に、メンバーの発言を多く引き出せていることが、リーダーからの被信頼感・メンバーからの被信頼感を高めていた。
これらの結果は、1on1が本来意図している「メンバーのための対話の場」という枠組みを超え、リーダーがメンバーからの信頼を得る契機として機能している可能性を示している。また、こうしたリーダーとメンバーの信頼の双方向性が、最終的に職場全体の信頼関係構築に寄与していると考えられる。
【調査概要】
関連情報
https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/data/spiral-relationship-of-trust.html
構成/立原尚子