「期待どおりに成長した」との回答者のうち、47.6%が上司と育成担当者に加えて周囲の同僚とも連携(図表8)
職場での新入社員育成体制ごとに新入社員の成長度合いが変化するのか、その関係をクロス集計した。
結果は「上司と育成担当者に加え周囲の同僚とも連携していた人」で47.6%が、新入社員が期待通りに成長したかの問いに対して「とてもあてはまる」「ややあてはまる」を選択し、「上司と育成担当者で連携していた人」では44.1%、「育成担当者中心の人」では41.0%となった。
関係者が広がるほど新入社員が期待通り育っている傾向が見られる。また、育成担当者中心の育成体制だった場合、新入社員が期待通りに成長したかという問いに対し「全くあてはまらない」(7.2%)と回答している割合が最も高かった。
→職場全体で育てる取り組みは、育成担当者の負荷軽減は大前提にあるものの、新入社員の成長度合いにも寄与していることが見受けられる。育成スピードを上げることは、職場の業務負荷軽減や育成担当者のモチベーション維持などに繋がる重要な観点である。
周囲も巻き込む育成のメリットは「チームワークの強化」や「担当者の負担軽減」のほか、新入社員目線でも「視野」や「チームへの順応」に寄与(図表9)
職場全体が連携して育成することのメリットを質問したところ、組織・育成担当者・新入社員にまたがる幅広い回答が多数あった。
→職場全体との連携をしていた育成担当者は「育成担当者のメリット」に留まらず、「組織」や「新入社員」の視点に立って、メリットを回答している人が多数見られた。新入社員の育成は、新入社員の成長だけではなく、組織の活性化に繋がり大きなリターンを得られる可能性があることがわかる。職場ぐるみの育成を行う具体的なメリットとして、今回の回答から大きく以下3つが挙げられる。
1つ目は、「組織のチームワークや成長」である。育成担当者の回答を見ていくと、職場内の凝集性が高まったという回答が多く見られた。新入社員育成という「共通したテーマ」に皆で向き合うことで、対話の頻度や質が上がり、一致団結できるケースが考えられる。また、組織の成長につながったという意見も目立った。
2つ目は、「育成担当者の負担軽減や育成方法のアップデート」である。誰もが忙しい中で、育成を担うことは心身ともに負荷を感じる人も多い。実際に、工数負荷軽減のみならず「安心感を得られた」というような心理的側面のメリットを回答している育成担当者も多く見られた。
また、周囲の意見やアドバイスが、育成方法のアップデートに繋がったという回答も多数存在した。近い将来、育成担当者がリーダーやマネジメント職につくケースもあり、育成経験によって培った育成スキルは、新入社員育成という限定的な役割に留まらず、育成担当者の今後の活躍に生かされることになるだろう。
3つ目は、「新入社員への更なるメリット」である。まず、新入社員に多様な観点で育成を行うことで、視野・視界が狭く凝り固まってしまうリスクを避けられることへの回答が見られた。納得感を重要視する新入社員の傾向を鑑みると、選択肢から選べる状態にする効果は大きいと考える。
さらに、新入社員が自分の育成対象を離れた後のメリットも回答が多かった。新入社員が自律して仕事を進めていく中で、わからないことや悩みも出てきた時に、新入社員が1人で抱え込んでしまうことを防ぐことができる。
周囲も巻き込む育成ができた要因は「職場の風土やメンバーの理解」や「会社や上司の方針」と回答(図表10)
「上司と育成担当者だけでなく、周囲の同僚にも関わってもらいながら取り組む形で育成することができた要因は何でしたか」という質問をしたところ、「職場の風土」「連携」「会社や上司の方針」「役割分担」を成功要因とする回答が目立った。
→組織ぐるみで育成をしていく場合、メンバーと育成をする上での意識醸成や状況共有、役割認識が重要になってくることが見受けられる。いかに、適切なタイミングで必要なコミュニケーションを図れるかがキーになっていると考えられる。
組織ぐるみで育成をしていくことが風土として定着している組織もあれば、まだそこまで浸透していない組織もあるだろう。後者の場合は特に、会社や組織をまとめる経営層や上司などの方針や、育成する風土形成のための仕組みづくりなどがきっかけになることもある。
新入社員から学べたことは「価値観の違い」や「初心」、「デジタル・効率化」などの気づき(図表11)
近年、リバースメンタリングなど、新入社員から既存メンバーが学ぶという考え方が注目されているが、本当に新入社員から新たに学べることはあるのだろうか、あるとすれば具体的にどのようなことが考えられるだろうか。
リアルな声を聞くため、新入社員から学んだことを質問してみたところ、想像以上に新入社員から気づかされたこと・学んだことの回答が多く集まった。回答を分類すると、「価値観の違い」「仕事の仕方」「初心」「自己認知」「デジタル・効率化」「育成のポイント」に関する回答が特に目立った。
→育成担当者は新入社員との日々のコミュニケーションが、多様な価値観からの学びや仕事に向き合うスタンスの見直しに繋がったケースが多数あった。自分とは異なる価値観に触れることで、視野が広がったり、自己内省が深まり考えを深められたりしたのではないかと想定できる。
また、育成を通してマネジメントスキルが向上したと回答していた人も見られた。企業によっては、将来マネジメントポジションを期待するメンバーに育成担当を意図的に任せ、プレマネジメント経験とする場合もある。
さらに、新入社員から気づかされたこと・学んだことは職場全体に広がり、今までの仕事の慣習やマュアルを変えたり、効率化したりすることに繋がったという回答も多かった。この結果から、新入社員に「教える」だけではなく、新入社員から「学ぶ」という姿勢を持つことで、育成から得られる価値を向上させることができると考える。
調査担当のコメント
近年、あらゆる業界・規模の企業から、新入社員育成に対して「育成担当者(※)のみに新入社員育成を任せることに限界を感じている」という声をよく耳にします。そのような声にはどのような背景があるのか、どのような育成が上手くいくのか、などを今回調査しました。
※育成担当者:新入社員の業務遂行や成長支援をする役割。企業によっては「OJTリーダー」「OJT担当者」「メンター」などと呼称する場合もある
今回の調査の特徴として、育成担当者に育成に関わるコミュニケーション頻度を問うと「ほぼ毎日」の回答率が最も高く、新入社員に多くの時間を割いて関わろうとする育成担当者が多いことが想定できます。一方、育成の結果を問うと、新入社員が「期待通りに成長した」と回答した育成担当者は44.2%であり、新入社員の変化を感じるようになった期間を問うと、67.8%の育成担当者が「3カ月以上」と回答している現状があります。
また、新入社員の成長と職場での新入社員育成体制の関係を調査すると、「上司と育成担当者が連携した育成」「上司と育成担当者に加え周囲の同僚とも連携した育成」「育成担当者中心の育成」の順に新入社員が期待通りに成長している傾向が見られました。さらに、「職場全体が連携して育成を進めた」と回答した育成担当者にそのメリットを問うと、「育成担当者」自身のメリットに留まらず、「組織」や「新入社員」の視点に立ったメリットが多数挙げられました。
これらの結果から、新入社員育成はそう簡単なものではないことがわかります。しかしながら、やり方次第で、成功確率を上げていけるのではないかと改めて感じています。
育成の成功確率を上げる方法は、新入社員育成を一人の育成担当者だけに任せるのではなく、「職場を巻き込んで行う育成方法」です。調査結果からも職場を巻き込んだ育成をした場合、新入社員の成長度合いを高める傾向が見えていきました。
さらに、今回の調査結果で最も示唆深かったのは「調査9」(Q:上司と育成担当者だけでなく、周囲の同僚にも関わってもらいながら取り組む形で育成することのメリットを教えてください)です。回答結果を見てみると、職場を巻き込んだ育成方法は、新入社員育成の推進に留まらず、育成担当者や職場全体にとっても大きなリターンを得られる可能性を示唆するものでした。
新入社員育成で行うべき事項を仕組化し職場全体で育てることで、育成が新入社員のためだけのものではなく、組織全体の活性化に寄与する機会になり、本来の目的以上の効果が期待できるのです。育成自体の難度が上がり工夫が必要になった昨今、重要な方法だと考えています。
解説/株式会社リクルートマネジメントソリューションズ HRD サービス開発部 トレーニング開発グループ 研究員 武石 美有紀氏
<調査概要>
●調査目的:育成担当者の実態や日々の関わり、職場ぐるみの育成実態と育成成果との関係などを調査分析し、新人・若手に対してどのような育成が効果的かを明らかにする。
●調査内容:
・育成の機会の捉え方の変化やその理由
・育成に関わるコミュニケーションの在り方
・新入社員の成長への評価
・職場での新入社員育成体制やそのメリット・成功要因など
調査方法:インターネット調査
●調査時期:2024年12月
●有効回答数:1,226名
●回答者の属性:
・年齢:平均47.3歳
・部門:営業系30%、企画・事務系32%、研究開発系26%、その他12%
・業種:製造業47%、非製造業53%
・企業規模:従業員1,000名未満50%、1,000名以上50%
※図表・グラフの数値は、小数点第2位を四捨五入しているため、合計が100.0%にならない場合がある
構成/こじへい