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移民からテクノロジー界の巨人へ、NVIDIAの創業者ジェン・スン・フアンが切り拓いた未来

2025.02.20

台湾からアメリカへ、一人の少年がテクノロジー界の巨星へと駆け上がった。ジェン・スン・フアン。NVIDIAを創業し、GPU革命を牽引、AI時代の幕を開いた彼の人生は、挑戦と革新の連続だ。移民としての苦労、リスクを恐れぬ起業家精神、そして未来を見据えるビジョン。彼の物語は、私たちに勇気と刺激を与えてくれる。

幼少期からの歩み:移民としての出発点

ジェン・スン・フアンは1963年2月17日、台湾の台南で生まれました。幼少期を台湾で過ごした後、10歳の頃に家族と共にアメリカへ移住したといわれています。新天地での生活は決して平坦な道のりではなく、言語や文化の壁を感じながらも、彼はエンジニアリングへの強い関心と好奇心を育んでいきました。エンジニアリングだけにとどまらず、彼が幅広い分野に興味を持っていたのは、幼少期に玩具を分解しては仕組みを理解しようとするような、「探究心を実践に移す」タイプの子どもだったからだといわれています。

ジェン・スン・フアンが人生の方向性を定めるうえで決定的だったのは、アメリカにおける教育システムとの出会いでした。高校時代にエンジニアリング・クラブの活動やコンピュータに触れる機会を得たことがきっかけで、彼の中に眠っていた好奇心と創造性がさらに活性化されます。やがて、大学進学を決意したジェン・スン・フアンは、オレゴン州立大学で電気工学を専攻し、その後スタンフォード大学で修士号を取得。大学院での研究やネットワーク技術への関与を通じ、彼はハードウェアとソフトウェアが交錯する世界に没頭していくことになったのです。

キャリアの転機とエヌビディア創業

大学院修了後、ジェン・スン・フアンはLSI LogicやAMDといったテクノロジー企業で経験を積みました。当時のシリコンバレーはPCの普及期であり、コンピュータの性能向上に向けたハードウェアの競争が激化していました。CPU(中央演算処理装置)の性能を高めることが市場の焦点だった一方で、「画像処理を専門に担当するハードウェアがあれば、これまでにない高度な映像表現が可能になるのではないか」という発想が徐々に芽生え始めていた時期でもあります。

そんなコンピューティング市場の変革期に、ジェン・スン・フアンはクリス・マラコウスキー(Chris Malachowsky)とカーティス・プリーム(Curtis Priem)という2人のエンジニア仲間とともに、1993年にエヌビディアを共同創業しました。資金は自宅の抵当権を活用するなどリスクを背負ったもので、決して余裕があったわけではありません。しかし、3人は「当時のPCゲームやグラフィックス、さらには将来的に生まれるあらゆるビジュアルコンピューティング分野に革命を起こす」ビジョンを掲げ、GPUの開発に乗り出していったのです。

エヌビディアという社名は、ラテン語の“invidia”(羨望)に由来するとされます。ジェン・スン・フアンは、「世界中から羨ましがられるような革新的企業でありたい」という想いを込めたとも言われており、実際その名が示すようにエヌビディアはグラフィックス技術で革命を起こしていくことになります。

GPUの登場とビジュアルコンピューティングの革新

エヌビディアが世間を大きく驚かせたのは、1999年にリリースしたGeForce 256で、「世界初のGPU」を謳った点です。当時のグラフィックカードは3D表示や2D表示の演算を補助的に行うものでしたが、GeForce 256はこれらを統合し、大量の浮動小数点演算を並列的に処理するアーキテクチャを持ち合わせていました。これによって、ゲームグラフィックスのレベルは大幅に向上し、映画のようなリアルな映像表現がPC上でも可能になり始めたのです。

ジェン・スン・フアンは、このGPUの持つ並列演算能力にこそ将来性があると早い段階から確信していました。CPUが得意とするタスクとは異なり、GPUは画像処理のように同じ演算を繰り返す並列タスクに強みを発揮します。当初はゲーム分野が主な市場でしたが、やがてこの高い演算能力を利用して科学技術計算やAI(人工知能)、データ解析などより幅広い領域に活用できる可能性が見出されるようになったのです。結果として、GPUは「ビジュアルコンピューティングのためのチップ」から「並列演算を担う汎用プロセッサ」へと進化を遂げ、その後のHPC(ハイパフォーマンス・コンピューティング)やディープラーニングのブームを牽引していきます。

CUDAとAI革命:NVIDIAの飛躍

2006年、エヌビディアはCUDA(Compute Unified Device Architecture)というGPUを汎用的な計算資源として活用するためのプラットフォームを発表しました。これはGPUに特化したプログラミング環境を提供し、科学技術計算やAI研究者、さらにはデータサイエンティストらがGPUをフル活用できるようにする大きな一歩となります。GPUによる並列演算を容易に実装できる環境が整備されたことで、ディープラーニングをはじめとする機械学習アルゴリズムの研究が爆発的に進展し、AIブームの黎明期を支える原動力の一つとなりました。

とりわけ、2010年代以降にディープラーニング分野で注目を集めたAlexNetやResNetなどの画期的な成果は、GPUの並列演算能力がなければ成立しなかったともいわれています。ジェン・スン・フアンは、こうしたAI研究者とのコラボレーションに積極的であり、大学・研究機関へGPUを提供する支援プログラムを拡大するなど、エコシステム全体を育てていきました。このオープンかつ協力的な姿勢はAIコミュニティからの評価を高め、エヌビディアは「AI時代の基礎インフラを提供する企業」として揺るぎない地位を確立するに至ったのです。

自動車・ロボット・メタバース:多角的な事業展開

ゲームとAIという2つの巨大市場を制したエヌビディアですが、ジェン・スン・フアンの視線はさらに先へと向かっていました。自動車分野での自動運転プラットフォーム「NVIDIA DRIVE」をはじめ、ロボティクス向けの「Isaac」、さらに3D仮想空間やメタバース構築を支える「Omniverse」など、多角的な事業展開を加速させているのです。これらのプラットフォームは単なるGPUの提供にとどまらず、ソフトウェアスタック、開発ツール、シミュレーション環境を一体的に提供することで、開発者にとって使いやすい統合ソリューションを実現しています。

自動車業界では、従来のOEM(自動車メーカー)が内製するかたちではなかなか実現できなかった高度な自動運転アルゴリズムの開発が進みつつあります。NVIDIA DRIVEは深層学習による物体認識やレーン検出、経路計画などを強力にサポートし、国内外を問わず多くの自動車メーカーと提携を進めています。ロボット分野も同様で、GPUによる高速演算が導入されることで、リアルタイムのSLAM(自己位置推定と地図構築)や物体検知が精度・速度共に大きく向上しているのです。

さらに近年では、メタバースやデジタルツインといった3D仮想空間の活用も注目されています。Omniverseは、建築・製造・メディアなど幅広い分野の3Dデザインやシミュレーションを統合するプラットフォームです。これにより、現実の工場を仮想空間でシミュレーションし、生産ラインの最適化を実験できるなど、「バーチャルとリアルの融合」が可能になります。ジェン・スン・フアンは、こうした拡張現実(XR)やデジタルツインが今後の産業の生産性を飛躍的に高める「次の大きな波」になると見据え、積極的な投資を続けています。

量子コンピューティングへのアプローチ

ジェン・スン・フアンが次世代のイノベーションとして注目しているのが、量子コンピューティングです。量子コンピューティングは、量子ビット(量子状態を表現するビット)を利用して従来のコンピュータでは指数関数的に時間がかかる計算問題を高速に解く可能性があるとされ、金融や医薬品開発、暗号解析など多岐にわたる分野で革新をもたらすと期待されています。

もっとも、まだ商用として大規模に活用するには技術的ハードルやコスト面、量子エラー訂正の課題などが山積しています。そのため、当面はNISQ(Noisy Intermediate-Scale Quantum)デバイスと呼ばれる中規模の量子コンピュータと、クラシカルなスーパーコンピュータ(CPUやGPUなど)を組み合わせたハイブリッドな構成が主流になるとも見られています。ここでエヌビディアのGPUは、量子アルゴリズムのシミュレーションや量子コンピュータの制御系計算において強力な演算リソースを提供する役割を担い得るのです。

実際、エヌビディアは量子コンピューティングのソフトウェア開発キット「cuQuantum」をリリースし、研究者や開発者がGPUを用いて量子回路シミュレーションを高速に実行できるよう支援を始めています。ジェン・スン・フアンは量子コンピュータ自体を直接設計するわけではありませんが、GPUによるクラシカルな高性能計算との組み合わせこそが量子コンピューティングのブレイクスルーを後押しすると強調しており、将来的にエヌビディアが量子ハードウェア企業との提携を拡大することも十分に考えられます。

未来を切り拓くエコシステムとビジョン

ジェン・スン・フアンが見据える「次の10年」は、AIだけでなく、量子コンピューティングやロボット、自動運転など、データが洪水のように溢れかえり、それをリアルタイムに処理・最適化するニーズが急増する世界です。そこでは、あらゆる産業がデジタル化の波を受け、巨大なデータセンターとネットワークによって接続される一方、端末側では高性能なデバイスが必要とされます。GPUはまさに、そのコンピューティング・リソースを支える「目に見えないエンジン」としての役割を果たしていくのです。

エヌビディアのビジネスモデルは、GPUを中心としたハードウェアの販売だけに依存しているわけではありません。ソフトウェアスタック、開発者コミュニティ、研究支援プログラムなどを包括する強固なエコシステムを形成することで、企業や研究機関がGPUを活用しやすい環境を整えています。このエコシステムはクローズド(閉鎖的)ではなく、オープンソースとの連携や異業種との協業を奨励する構造になっており、多くのパートナーを巻き込みながら成長を続けているのです。

おわりに:移民サクセスストーリーの象徴とリスクテイクの精神

台湾から渡米した幼少期、言葉や習慣の違いに苦労しながらも、エンジニアリングの世界に触れることで自らの道を切り拓いてきたジェン・スン・フアン。その人生は、アメリカンドリームの体現として語られることも多いですが、同時に「リスクを取ることの重要性」を強く示唆するものでもあります。彼は大手企業の安定したポストを捨て、半ば無謀ともいえるチャレンジとしてGPU開発に賭けました。結果として、その挑戦がゲーム産業とIT業界に大きなインパクトを与え、さらにはAIや自動車産業の変革を加速させる原動力となったのです。

エヌビディアが世界的企業へと成長したいまも、ジェン・スン・フアンの「起業家精神」は色褪せていません。彼は常に次の技術革命を探求し、そのためのリスクをいとわずにリソースを投入する姿勢を維持しています。量子コンピューティングなどの新領域は投資リターンが見えにくい面もありますが、それこそが大きなイノベーションを生む前兆だという確信があるのでしょう。

今回の米国起業家列伝シリーズは「ジェン・スン・フアン」について解説させていただきました。

文/鈴木林太郎

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