
■連載/阿部純子のトレンド探検隊
回転寿司事業の創業から40周年を迎えた2023年にスタートした、スシローの新注文システム「デジタル スシロー ビジョン(以下、デジロー)」は、2023年9月にスシロー江坂店(大阪府)、スシロー新宿西口店(東京都)、スシロー天白焼山店(愛知県)の3店舗でトライアル導入。その後全国へ導入を加速し、今年2月には、日本国内のデジロー導入が50店舗を突破。今年の9月末までに全国100店舗の導入を目指している。
回転レーンをデジタルで再現し回転寿司の楽しさを伝える
デジローは席に設置された大型タッチディスプレイで、回転寿司の代名詞でもある回転レーンを再現しているのが大きな特色。いろいろな寿司を見ながら好みや気分で選ぶことができる回転寿司の醍醐味をデジタル上で再現している。
従来のタッチパネルでの注文では、ひとりずつしか注文できず人数が多いときは順番待ちが発生したが、デジローはみんなで画面を見ることができ、両側から同時に操作が可能に。
ハッシュタグでテーマ別に商品を絞り込む「すしナビ」も搭載。今まで食べたことがなかった新しいネタを見つけたり、意外なメニューを発見したりと、従来の注文スタイルではできなかった店舗体験も楽しめる。
その他、豆知識やクイズ、注文額に応じてゲームがスタートする「だっこずしゲーム」などのエンタメ要素もあり、子どもから大人まで楽しめる機能を搭載している。
デジローを推進してきた、株式会社FOOD & LIFE COMPANIES 広告宣伝部 デジロー室 室長の中岡大輔氏に、デジローやスシローにおけるDXの取り組みなどについて話を伺った。
「無人でお客様をご案内する自動案内や、支払いの際のセルフレジ、テイクアウトの商品を人を介さずにお客様にお渡しする『自動土産ロッカー』の導入など、スシローにはテクノロジーを使って業務改善、課題解決を行うという企業文化があり、デジローの開発もこの流れを引き継いでいるもののひとつです。
回転レーンに流れる商品を任意でピックアップする形ではなく、注文をいただいた商品を直接お客様にお渡しする注文専用のレーンが、回転寿司業界全体に普及してきたこともあり、2023年に入り新店やリニューアル店舗など一部店舗において、注文専用レーンのみ設置するスタイルが導入され、回転レーンでの商品提供を廃止するお店が出始めました。
2022年の夏ごろから、お客様にお食事をよりお楽しみいただくために、“次世代の回転寿司”をテーマにした議論を進めてきましたが、回転レーン廃止のタイミングを受けて、回転寿司という当社の事業のアイデンティティを今後続けていくのかという方向へ議論はシフトしました。
実際の回転レーンでは提供できなくなっても、デジタルの画面上で回転寿司を再現することで、回転寿司本来の楽しさや便利さを継続させていくのがよいのではないかということで、デジローの開発がスタートしました」(以下「」内、中岡氏)
テーブルの端から端まで囲うような大型の65インチハーフサイズの特殊なモニターの調達を確保できたことから、ボックス型のテーブル席にビジョンを設置し、原寸大のレーンを映し出すという箱庭のような空間づくりを念頭に開発をスタートした。
「デジロー開発の初期段階から、回転レーンは絶対に外せないと思っていました。従来の回転寿司はレーンに流れてくれば、食べようと思っていなかったもの、食べたことがないものでも、その時の気分で手に取りたくなる“新たなる発見”が楽しみのひとつでもありますが、
端末の注文が主体になると、よく食べるもの、好みのものに偏ってしまいます。
本来の回転寿司が持っていた醍醐味が、設備の変化で失われていくのは寂しいという想いもあり、偶然性のようなものを画面の中で再現しようという意図もありました。
私も子どもが2人いる4人家族で、スシローに食べに行くと“お父さんあるある”を実感します。タブレットでの注文の場合、子どもが先に好きなものを注文して次に妻、最後に自分という順番になることが多く、家族が一通り頼んだあとやっと自分の番になりますが、その間、手持無沙汰というか、お腹が空いている時だと口寂しい気持ちになります。
こんな時、流れてくるお寿司を自由にピックアップする従来の回転寿司なら、食べたいものが流れてきたらパッと取ればいいのですが、レーンが無くなってからは、数分間は注文ができず食べられない時間ができてしまい、それはみなさんの隠れた不満としてあるのではないかと(笑)。
デジローは画面が大きく家族が一緒に画面を見ることができ、会話をしながら同時に注文ができるような仕組みにしました。レーンだけでなくメニュー形式でも表示ができるようにして利便性も確保しています。
お子さんは自分でタッチしたがると思いますので、モニターから離れたところにいるお父さんが画面の中のレーンに流れているお寿司を見て、『ハマチ食べたいから、それ押して!』と子どもに頼むなど、家族のコミュニケーションにもなるのではないかと思っています」
デジローは広告媒体としても機能する。期間限定商品、キャンペーンなど販促に関しては、従来は静止画や紙のPOPが主体だったが、デジローは画面を通じてコミュニケーションができるため、動画を通じてイチオシ商品をアピールすることも可能だ。(注※下記画像内のフェアはすでに終了)
「今はまだ、インタラクティブの一歩手前くらいかもしれませんが、動画を使ったコミュニケーションは、デジローの強みでもあると思います。
お客さまへのコミュニケーションの手段としてはコミュニケーションエリアといわれる、画面の中央にバナーが降ってくる仕組みがあります。今までPOPなどで訴求していた期間限定の商品やおすすめの商品をアピールする役割や、『だっこずし』のアニメを流すなど、いろいろな形で自由にできる強みもあります。
また、当社は様々なキャラクターやゲーム、人気コンテンツとのコラボキャンペーンを定期的に行っていますので、推しとのコラボを通じて、お客さまやファンの方が喜んでいただけるような仕組みを、デジローの中で作っていきたいと考えています」
【AJの読み】行くたびに新しい発見が!進化し続ける回転寿司
デジローは幅広い年代の顧客から好評を博しているとのことで、現在導入されている58店舗(※2025年2月時点)の多くが、既存店舗のリニューアルだという。
また、トライアル導入した3店舗を除くデジロー導入店では、カウンター席にも小型サイズのデジローを導入、“おひとりさま”でもデジローでコミュニケーションを楽しめる。
今年4月~10月まで開催される大阪・関西万博では、『まわるすしは、つづくすしへ。―すし屋の未来2050―』をコンセプトに、デジローを設置した「スシロー未来型万博店」を出店。水産資源の未来に向けた取り組みを学べるゲーム機能などを万博仕様で開発し、スシロー未来型万博店で先行公開するとのこと。
回転寿司業界自体、他の飲食業と比較しても早くからIT技術を使った業務効率化を進めているが、スシローのIT技術の導入は20年以上前からと先駆けて進めてきた実績がある。回転寿司の代名詞でもある“回る寿司”が減りつつある中、デジタルで回る寿司を再現したアイデアは面白く、回転寿司本来の楽しみ方ができる。今後もさらに進化を続けるであろう回転寿司は、行くたびに新しい発見がありそうだ。
取材・文/阿部純子