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近年、日本のリユース市場規模は著しい成長を遂げており、中古品に対する消費者の抵抗感が薄れ、実店舗やオンラインを問わず中古品を売買する光景が当たり前のものとなりました。その背景には、経済的なメリットだけでなく、持続可能な社会を目指すSDGsの広がりや循環型経済を重視する動きがあるといわれています。
この市場をリードする存在が、実店舗を軸に急速に勢力を拡大している「ゲオ(セカンドストリート)」と、CtoCのフリマアプリで月間2300万人以上(2024年12月時点)のユーザー数を誇る「メルカリ」です。両社とも中古品の流通をビジネスの中核としつつも、ビジネスモデルや現状の課題は大きく異なります。
そこで今回は、ファクトチェックで得られた最新の情報をもとに、両社の特徴や業績、株価、競合環境、今後の展開などを改めて整理していきます。
日本企業VSシリーズ「リユース市場の2大巨頭 ゲオvsメルカリ」
【ゲオホールディングス】
■レンタルからリユースの雄へ
ゲオはもともとビデオレンタル・ゲームソフトレンタルの大手チェーンとして誕生しました。TSUTAYAと並ぶレンタルショップの代表格として知名度を確立した後、時代の変化やネット配信サービスの台頭を受けて中古品事業へ注力。現在は総合リユースショップ「2nd STREET(セカンドストリート)」を中核に、衣料、家電、スマホ、ブランド品、ホビーなど幅広い中古商品を取り扱っています。
■実店舗ネットワークの強み
ゲオグループの店舗網は全国に約1,900店舗に達し、地方や郊外まで幅広くカバー。近年は海外への出店にも乗り出しており、北米やアジアに計100店舗以上展開しているとされます。中古品の買い取り・販売をワンストップで行い、実店舗ならではの「手に取って試せる安心感」が強みです。
【メルカリ】
■スマホフリマアプリの先駆者
メルカリは2013年創業と比較的新しい企業ながら、スマホ一つで誰でも簡単に不要品を売買できるフリマアプリを世に広め、一気に国内トップのCtoCプラットフォームへと成長し、「スマホフリマ=メルカリ」と呼ばれるほど圧倒的な存在感を放っています。
■周辺サービス拡大と海外展開
メルカリはCtoCの手数料収入をベースに、キャッシュレス決済サービス「メルペイ」や小規模事業者向けネットショップ機能「メルカリShops」、リアル出品をサポートする実店舗「メルカリステーション(現在は閉鎖)」など、周辺サービスを拡充してきました。しかし海外展開(特に米国)では想定以上の投資コストや競合の存在により苦戦しており、今もなお収益化が課題となっています。
ビジネスモデルの違い
【ゲオ(セカンドストリート)の実店舗モデル】
■幅広い商品ジャンル
衣料、ゲーム、家電、楽器、ブランド品などあらゆるジャンルの中古品をまとめて扱う。多様なニーズを一本化し、来店客の「ついで買い」や「宝探し感」を生む。
■在庫管理と査定ノウハウ
買取から販売までを一貫して行うため、買い取り価格や販売価格を適切に管理する独自システムを構築。店舗スタッフが商品知識を生かして査定し、さらに大量の取引データを参照して価格を決める。
■実店舗での体験価値
中古品の質や状態は実物を手に取らなければ分かりづらい面があり、店舗での「現物確認」や「試着・動作確認」が支持される要因。高額品やデリケートな商品でも安心して購入しやすい。
【メルカリのCtoCオンラインプラットフォーム】
■手数料モデルで在庫リスクなし
ユーザー同士の売買から発生する「販売手数料」が主な収益源。運営会社としては在庫を持たないため、大量の商品が取引されてもコストが膨張しにくいスケーラブルなビジネス形態。
■利便性とユーザー規模
スマホアプリで簡単に出品・購入できる利便性が爆発的人気を呼び、国内フリマ市場を実質的に牽引。数千万人規模のユーザーデータと取引データを活用し、AI活用の余地も大きい。
■海外事業と周辺サービス
キャッシュレス決済「メルペイ」や「メルカリShops」など周辺サービスを拡大。さらに米国での事業展開を模索し続けているが、現地では競合が強く、広告費やオペレーションコストがかさむなど課題が目立つ。
最新の業績動向と株価
【ゲオホールディングスの業績と株価】
ゲオの2024年3月期(FY2023)連結売上高は4,338億円と前年から約15%増加し、営業利益は約168億円、最終利益は109億円と大幅な増益を達成しました。特にスマートフォンやゲーム、ブランド品などの中古売買が好調で、レンタル部門の縮小分を十分に補う形です。
一方、2024年4-9月期(2025年3月期上期)は、前年に盛り上がった家庭用ゲーム機需要の反動減や積極投資の負担により減収減益となり、純利益は前年同期比で約半減しました。これが警戒され、株価は2023年前半に一時2,700円台まで上昇したものの、現在は1,800円台前後へ落ち着いています。PER(株価収益率)も9倍程度と低水準で、市場は成長期待よりも投資コストや在庫リスクを懸念する声がやや強い状況です。ただし配当は増配傾向にあり、株主還元姿勢は評価され始めています。
【メルカリの業績と株価】
メルカリの2024年6月期(FY2024)連結売上高は1,874億円(前年比+9.0%)、営業利益は174億円(+6.7%)、最終利益は134億円(+2.7%)と堅調に推移。国内フリマ事業は依然として高水準の売上を確保し、ブランド品の真贋鑑定や広告投資にコストをかけながらも黒字を維持しています。
株価は上場直後からコロナ禍にかけて大きく上昇しましたが、その後は米国事業の苦戦と成長ペースの鈍化が嫌気されて下落基調となりました。それでもメルカリの時価総額は約3,770億円と0ゲオHDの時価総額約717億円と比べれば依然として高く、市場はメルカリの将来性に一定のプレミアムを織り込んでいるとも言えます。
両社の強みと課題
【ゲオの強みと課題】
豊富な全国店舗網:地方や郊外にも店舗を展開し、買い取り・販売をワンストップで提供できる。
買い取り・査定ノウハウ:独自の在庫管理・価格算出システムにより高回転率を実現。多業態による分散効果:ゲーム、家電、ファッション、ブランド品など幅広いジャンルを扱うため景気変動にも強い。
【ゲオの課題】
オンライン展開の課題:実店舗は強いが、CtoCアプリのような使いやすいデジタルサービスで後手に回っている。
在庫リスクとコスト:買い取った商品の売れ残りリスクや、店舗維持費、人件費といった固定費が重くのしかかる。
急拡大に伴うオペレーション負荷:海外出店を含め拡大ペースが速い分、品質管理・接客レベルの維持に課題。
【メルカリの強み】
国内トップクラスのユーザー規模:フリマといえばメルカリ、というブランドと浸透度。
在庫リスクのないプラットフォームモデル:手数料ビジネスで高い収益性を保ちやすく、スケーラブル。
データ活用の可能性:莫大な取引データを活用し、不正防止やレコメンド最適化など新サービス開発への応用余地が大きい。
【メルカリの課題】
海外事業の苦戦:米国展開は広告費をかけても利用者拡大が鈍く、赤字が続く。最近はリストラやコスト削減で赤字幅は縮小するも、依然大きな負担。
国内競合の台頭:ヤフオク!、PayPayフリマ、楽天ラクマなど大手プラットフォーマーとの競争が激化。ユーザーの奪い合いにより広告・キャンペーン費が増加しやすい。
周辺事業のマネタイズ:メルペイやメルカリShopsなどを収益の柱に育てられるかがカギ。金融分野は競合が多く、投資回収に時間がかかる懸念もある。
両社の今後の展望
【ゲオ:実店舗を基盤とする総合リユースカンパニーへ】
ゲオは従来のレンタルノウハウを活かし、今後も国内外で2nd STREETの店舗を増やしていく方針です。同時にオンラインストアの拡充により、OMO型(オンライン・オフライン)のサービスでユーザーとの接点を広げると考えられます。積極投資によって在庫・固定費が増大し利益率が圧迫される懸念もありますが、ブランド品やスマホなど高付加価値商材の取り扱い比率を高めることで収益の底上げを狙うことが予想されます。
【メルカリ:国内フリマを基盤に海外と金融に挑戦】
メルカリは国内フリマアプリ市場でトップシェアを維持する一方、メルペイなどの金融サービスや越境EC、米国実店舗など新たなビジネス領域を開拓し続けます。海外事業の赤字は少しずつ縮小しているものの、十分な利益を生み出すところまで到達していないのが現状。成長のピークに達したと見る向きもありますが、膨大なユーザーデータを活かした新サービスやMAU拡大策次第では再加速の余地も大いに残されています。
おわりに:リユース市場の未来と両社の行方
日本のリユース市場は、物価高や環境意識の高まりを追い風に拡大を続けており、2023年の3兆円から、2030年には市場規模4兆円に達するとの予測もあります。ゲオとメルカリはそれぞれ「実店舗」と「オンラインCtoC」という異なる武器を持ちながら、市場で存在感を発揮してきました。
ゲオは実店舗ならではの在庫管理や査定ノウハウで強みを発揮しながら、オンライン強化を進めながら出店攻勢と収益バランスをどう取るかが課題です。
メルカリは国内フリマの圧倒的ユーザーベースを活かし、海外と金融・周辺サービスで成長余地を探るものの、海外赤字や競合との消耗戦が続く可能性があります。
最終的に両社とも、ユーザーとのタッチポイントのデザインをどのように進めるかが大きなテーマとなるかもしれません。
中古品への需要が右肩上がりで増える中、競合他社も急速に力をつけています。こうした環境下でゲオとメルカリがどう差別化し、市場をリードしていくのか。
両社の動向は今後もリユース市場を占う上で見逃せません。日本社会の消費スタイルが大きく変わりつつある今こそ、「使わないものを価値ある場所へ流す」仕組みづくりの先頭に立つ両社の動きが、次の10年を形作る鍵となるでしょう。
文/鈴木林太郎