LVMHの主力ブランドと多角展開
LVMHが展開する数多くのブランドの中でも、特に有名な主力ブランドをいくつかピックアップし、それぞれがどのようにグループ全体を支えているかを見てみましょう。
【ルイ・ヴィトン(Louis Vuitton)】
ファッション・レザーグッズ部門の象徴的存在であり、LVMHの中核ブランドです。旅行用トランクから始まった歴史と伝統、モノグラム柄などの強いアイデンティティを持ち、その高い認知度と人気は群を抜きます。アルノー氏は、ルイ・ヴィトンの拡張戦略として新しいデザイナーを積極的に登用し、ストリートファッションとのコラボなども手がけることで、若い層にもアピールに成功。高級バッグや革小物だけでなく、プレタポルテ(既製服)やシューズ、アクセサリー分野でも存在感を強めています。
【ディオール(Dior)】
アルノー氏がビジネス人生の中で大きく関わったブランドとして知られるのがクリスチャン・ディオールです。1950年代に「ニュールック」を打ち出し、世界のファッションシーンを一変させた伝統を持ちます。モダンなフェミニニティを体現するブランドとして、オートクチュールからプレタポルテ、コスメやフレグランス、アクセサリーまで幅広く展開。LVMHグループ内でも特別な地位を占めており、パリの本店や世界各国の旗艦店から発信されるブランドイメージは強く、その収益貢献度も大きいです。
【ティファニー(Tiffany & Co)】
2021年に完了した買収案件として大きな話題を呼んだのがティファニーです。アメリカを代表する高級ジュエリーブランドで、その象徴的な「ティファニーブルー」は世界中に浸透しています。LVMHにとっては宝飾品セクターをさらに強化するうえで欠かせないピースとなりました。買収後は旗艦店のリニューアルや、新デザイナーとのコラボレーション、SNSを活用した新マーケティング戦略などを展開し、売上拡大を実現しています。
【ブルガリ(Bulgari)】
ティファニー買収以前からLVMHが力を入れてきた宝飾ブランドがブルガリです。イタリアのローマを拠点に、ジュエリーやウォッチ、アクセサリーなど幅広く展開。デザイン性が高く、洗練されたイタリアンスタイルが特徴です。LVMH傘下となった後は、店舗の刷新やホテル事業への進出など、ブランドのライフスタイル全般へと拡張が進んでいます。
【モエ・エ・シャンドン(Moët & Chandon)とヘネシー(Hennessy)】
ワイン&スピリッツ部門の主力ブランドであり、シャンパンとコニャックの世界的リーダーです。ルイ・ヴィトンとの合併前から存在感を放ち、LVMHを語るうえで欠かせない礎となっています。高級酒市場は、中国など新興国での需要拡大を背景に成長しており、ワイン&スピリッツ部門もLVMHの重要な収益源となっています。
今後の展望:グローバル拡大と新しいラグジュアリーの形
【アジア市場のさらなる拡大】
LVMHに限らず、ラグジュアリー市場の成長ドライバーはアジア、とりわけ中国を中心とする新興国にあります。近年は中国国内の富裕層と中間層が急拡大し、高級ブランドへの需要も高まっています。さらに、東南アジア諸国などでも新たな富裕層が育ちつつあり、アルノー氏はこの市場機会を逃すことなく積極的に出店やプロモーションを展開しています。
【体験型サービスとブランドコミュニティ】
単に高級製品を販売するだけではなく、ブランドの世界観を体験できる場や機会を提供する流れは今後ますます強まるでしょう。たとえば、各ブランドが持つホテル事業やカフェ・レストラン事業は、顧客との接点を増やし、より深いブランド体験を提供する手段として注目されています。ブルガリやルイ・ヴィトンが手掛けるホテル、ティファニーのカフェなどはその一例です。
こうした体験型サービスによって形成される「ブランドコミュニティ」は、SNS時代の口コミ効果とも相まって、より強固なファン層の獲得につながります。アルノー氏はブランドの多角的な世界観を構築することで、顧客の生涯価値(顧客がそのブランドに投資する総額や時間)を最大化する戦略を継続的に実行しています。
【新技術とコラボレーション】
NFT(非代替性トークン)やブロックチェーン技術を活用した新たなブランド価値の提供は、ラグジュアリー業界でも注目を集めています。商品の真贋証明や限定品のデジタル資産化など、新技術を使った顧客体験の拡張が可能になっています。LVMHも一部ブランドで実験的な取り組みを進めており、今後さらに拡大する余地があります。また、有名アーティストや他業界とのコラボレーションによって、新しい形のラグジュアリー体験を生み出し、若い世代の興味関心を引きつける動きも加速しそうです。
おわりに ポスト・アルノー体制への期待と課題
ベルナール・アルノー氏は現在もグループを牽引していますが、彼の年齢を考慮すると、LVMHの次世代リーダーシップにも注目が集まっています。実際、アルノー氏の子息・子女たちもLVMHグループの要職を担い始めており、「ポスト・アルノー」時代への準備が着々と進んでいます。誰がどのブランドや部門を引き継ぎ、どのようにイノベーションを推進していくのかは、投資家や業界関係者にとっての大きな関心事でしょう。
もっとも、アルノー氏の下で蓄積されてきたノウハウやブランドポートフォリオの強みは揺るぎないものと考えられます。新たなリーダーがその遺産をいかに活用し、次なる成長戦略を描くかが、LVMHの将来を左右すると言っても過言ではありません。
少なからず乗り越えるべきハードルはあるものの、堅固なブランドポートフォリオと経営ノウハウがあれば、さらなる飛躍を実現する可能性が高いと考えられます。
「ラグジュアリーの帝王」として業界をリードするLVMHが、次なるステージでどのようなイノベーションを生み出すのか、今後も目が離せません。
文/鈴木林太郎
【参考文献】
https://www.lvmh.com/jp
https://www.neweconomy.jp/posts/318248