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■連載/ヒット商品開発秘話
食材を細かく刻む時などに便利な家電がフードプロセッサー。中でも使い勝手が秀逸なのがコードレスタイプだ。
そんなコードレスタイプのフードプロセッサーでいま高い人気を得ているのが、キッチン家電ブランド『レコルト』の『コードレス カプセルカッター ボンヌ』(以下、コードレス ボンヌ)である。
2024年7月に発売された『コードレス ボンヌ』は、食材を刻む、混ぜる、砕く、練る、つぶす、泡立てることのほか、おろしと鬼おろしがつくれ、1台で8役をこなす。食材を刻む際の細かさはボタンのプッシュ回数で調整できる。発売から約半年で累計5万台超を出荷した。
2024年7月に発売されたフードプロセッサー『コードレス カプセルカッター ボンヌ』。コードレスのため場所を問わず使えるほか、1台8役と多機能さも特徴としている。10分の充電で約1分使用可能。カラーはクリームホワイトとナチュラルブラックの2色で、価格は9900円(レコルト公式オンラインショップ)
ハードルが高く開発はいったんストップ
レコルトでは2012年からカプセルカッターを発売しており、これまでに累計約108万台を販売。『コードレス ボンヌ』で4代目になる。
「カプセルカッターはお客様の声に応えるためリニューアルを繰り返してきました」
このように話すのは、レコルトブランドを手がけるウィナーズの猿渡進悟氏(商品本部 ダイレクター)。『コードレス ボンヌ』は2019年6月に発売された3代目の『カプセルカッター ボンヌ』(以下、ボンヌ)を元にコードレス化。2020年から開発に着手した。
2019年6月に発売された『カプセルカッター ボンヌ』。見た目は『コードレス カプセルカッター ボンヌ』とほぼ違いはなく、機能面も鬼おろし以外は共通。カラーはカーマインレッドとクリームホワイトの2色で、価格は7150円(レコルト公式オンラインショップ)
コードレスタイプのニーズは2012年のカプセルカッター発売当初から問い合わせがあったほど根強い。しかし、2020年当時でもコードレス化のハードルは高かった。
その理由はカプセルカッターの性能の高さにあった。これまで、市販の氷が砕けるほどのハイパワーであること、液体の撹拌もできること、4枚刃で食材を均一に刻めることといった性能を受け継いできた。
歴代のカプセルカッターが受け継いできた氷を砕くほどのハイパワー。1個が大きめの市販の氷を細かく砕くことができる
フードプロセッサーでありながら液体の撹拌もできるので、『コードレス カプセルカッター ボンヌ』ではグリーンスムージーもつくることができる
「コードレス化によってパワー不足になったり『ボンヌ』でできたことができなかったりすることは、できるだけ避けたかったです」
当時をこのように振り返る猿渡氏。これまで受け継いできた性能を維持するためにはバッテリーとモーターの大型化が避けられなかった。
ユーザーの満足度が高かったコンパクトさが損なわれることもあり、開発は一時中断。小型高出力/高トルクのモーターと小型大容量で早く充電できるバッテリーという課題がクリアされるまで、ストップすることにした。
入りきらず図面からはみ出たバッテリー
開発を再始動したのは2022年頃のこと。しかし、限られた『ボンヌ』の本体に新たにバッテリーを収めるのは簡単ではなかった。ウィナーズの代表取締役である岡野真二氏は次のよう話す。
「当初、バッテリーは2本使う予定でしたが、これではパワーが足りずよれよれでした。氷をしっかり砕くには強力なパワーを瞬間的に発揮できなければならなかったことから、バッテリーを3本使うことにしました。最初はバッテリーが入りきらず、図面からはみ出てしまったほどです」
ウィナーズ
代表取締役 岡野真二氏(左)
商品本部 ダイレクター 猿渡進悟氏
機能面で『ボンヌ』から向上したところは、鬼おろしができるようになったことだ。
カプセルカッターでは『ボンヌ』から付属のおろしプレートを使うことで大根おろしができるようになった。『コードレス ボンヌ』では、おろしプレートの裏に鬼おろしができる歯を並べた両面おろしプレートをつくることにした。鬼おろしがつくれるプレートの開発は、歯が外れるサンプルで検証を重ね完成までに半年以上を要した。
鬼おろし面でおろした大根。食感のある鬼おろしらしい粗い仕上がりになる
また、『ボンヌ』とは異なりガラス製カップを採用。『ボンヌ』ではカップに割れにくい特性を持つ合成樹脂のトライタンを採用していたが、使い勝手の面から変更した。猿渡氏は次のように話す。
「クチコミから幅広いユーザーのさまざまな声を聞くのですが、におい移り、油汚れ、ぬめりといったお手入れに関する要望がよく聞かれたことから、これらが気にならないガラスにカップの素材を変更することにしました」
ただ、ガラスは樹脂と異なり加工精度が安定しない。カバーがうまくはまらないといった事態が起きるなど、安定した精度で加工できるようになるまで時間を要した。加えて、ガラスだと氷が滑ってしまい砕きにくくなることから、一時はこれまで通りのトライタンにすることも検討されたほどだった。
本体の設計だけではなくこうした細かい点の対応にも時間を要したことから、当初2024年1月に発売する予定だったのが半年遅れることになった。
操作マニュアルの要素もプラスしたレシピブック
レコルトの商品は大半に専用レシピが付属している。『コードレス ボンヌ』『ボンヌ』にも専用レシピブックがついているが、両者のレシピブックの違いは鬼おろしを使ったものがあるか否かだけなのだろうか?
猿渡氏によれば、『コードレス ボンヌ』のレシピブックは『ボンヌ』のそれより調理が極力複雑にならず手軽にできるものを紹介するようにした。加工し終えたらそれで完成してしまうようなものを中心に構成している。
表紙に使ったサラダの画像も、材料をカプセルに入れて粗く刻んだら完成する。ジェラートのように準備から出来上がるまで時間を要さず簡単にできるものも意識的に紹介するようにした。
また、ボタンを何回パルスプッシュ(ほんの一瞬押して離すこと)すると食材がどのような状態になるのかといったことを見せることにした。
レシピブックは料理のレシピだけではなく、パルスプッシュの回数に応じた食材の状態を見せるなどしている
レシピブックに操作マニュアルのような要素をプラスしたのはパルスプッシュの押し方や押し加減といった活用の周知徹底を図るためだった。岡野氏は次のように話す。
「カプセルカッターは発売当初から、パルスプッシュで操作するようにしています。これまでもパルスプッシュという言葉を使って操作を説明してきましたが、意味がユーザーに正しく伝わっていない印象があったので、プッシュ回数に応じた食材の変化をわかりやすく示すことにしました」
『コードレス ボンヌ』のレシピブックはパルスプッシュする回数を明確に表記。一般的なフードプロセッサーとは異なり、押し方や押す回数を変えることで仕上がりを調節でき、使用シーンの幅が広がることをイメージできるようにした。
レシピで良く見られているのがジェラート。下ごしらえが簡単にできることなどがその理由だ。人気は季節を問わず、秋冬でも反応が多い。
レシピで紹介されているピスタチオとフランボワーズのバナナジェラート
1300以上保存された「ふるふるいちご」のレシピ動画
当初設定していた販売目標は半年で2万台。コードレスタイプを求める声があった一方で『ボンヌ』とカニバリを起こさないか、売れ行きが伸び悩まないか、といったように売れ行きが懸念されていた。
「お客様が売場でどちらを選んでいいか迷われることになりかねません。どちらも選ばれず足の引っ張り合いになってしまうことも心配されました」と猿渡氏。しかし、発売してみると売れ行きは非常に好調で、『ボンヌ』もカニバリの影響がほぼ見られなかった。『コードレス ボンヌ』はしばしば品薄状態になった。
発売開始直後から『コードレス ボンヌ』が売れていった要因として猿渡氏が挙げたのが動画の活用。販促で本格的に動画を使い始めた。
動画は主に、商品の特設サイトや店頭で公開。細かくみじん切りするところ、大根おろしや鬼おろしをつくるところ、氷を砕いたり液体と混ぜ合わせたりするところなどを見せることにした。店頭では陳列用の専用什器に設けた液晶モニターに映し出すようにした。動画は伝わりにくいパルスプッシュ時の押し加減や食材が変化する様子を伝えやすかった。
店頭ディスプレー用の専用什器。動画を流すためのタテ型液晶モニターも置いている
いっぽう、レコルト公式Instagramではオリジナルレシピの一部を動画で紹介。冷凍フルーツとゼラチンを混ぜてつくる「ふるふるいちふご」のレシピ動画を公開したところ、これまでに1300以上保存されたほど。泡立てと混ぜ合わせができることを「フローズンヨーグルト」のレシピ動画では泡立てと混ぜ合わせができるという機能面の優秀さを披露しており、1800以上保存されている。
取材からわかった『コードレス カプセルカッター ボンヌ』のヒット要因3
1.基本性能の高さ
コードレスは利便性が高いが、電源コードをコンセントに差し込んで使うものと比べるとパワーが物足りないなどといったイメージもある。ややネガティブなイメージがあるが、氷を砕くことができるパワーを持つなど基本性能が高いことが評価を上げた。
2.付加価値を高める進化
これまでの販売実績からカプセルカッターには一定の信用度があり、基本性能の高さからその信用を棄損しなかった。加えて鬼おろしができることといった機能向上やガラス製カップ採用によるグレードアップも図り、付加価値を高めることができた。
3.効果的な動画の活用
販促では動画を積極的に活用。操作によって食材がどう変化するのかを伝えるのに効果を発揮し、ユーザーの理解を深めることができた。
『ボンヌ』の頃からユーザーは料理家が多いという。レシピブックで基本的な操作や食材の刻み具合といった基礎的な情報も盛り込んだのは、使い方の周知徹底だけのほか料理家をはじめとした料理をつくる人たちが幅広く応用展開できるようにするための意味もあった。
ユーザーの中には『ボンヌ』のユーザーが買い足してくれた人もいるほど。新機能の鬼おろしは大根おろしとの食感の違いが楽しめることなどから喜ばれているという。
商品特設サイト
https://recolte-jp.com/cordless-capsule-cutter-bonne_lp/
取材・文/大沢裕司