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「CSR」は「企業の社会的責任」という意味で用いられ、法令遵守や透明性が求められる近年では企業活動に加えて行うべき取り組みの一つとして浸透している。しかし、耳慣れた言葉だからこそCSRの正しい意味や具体的な取り組みについて知らないまま用いるケースもある。
そこで本記事では、CSRの意味や活動内容、実践事例について解説していく。
CSR(企業の社会的責任)とは

まずはCSR(企業の社会的責任)の概要について解説していこう。
■CSRの意味
CSRとは、「Corporate Social Responsibility(企業の社会的責任)」の略で、企業が社会的責任を果たすために慈善事業や環境活動などを行うことを意味する。主にステークホルダーである株主や従業員、地域などに対して行われる活動である。例えば、企業が行う清掃活動や植樹活動などはCSRの分かりやすい事例といえるだろう。
CSRは国際標準化機構によって「ISO26000」が定められており、一定の基準と原則に沿って行われるのが一般的である。
■CSRの普及の流れと拡大する背景
CSRが普及した背景には、企業の不祥事に対する社会からの批判が挙げられる。高度経済成長期の企業による環境破壊や健康被害、1990年代〜2000年代前半に相次いだ企業の不祥事で利益至上主義の考え方に批判が集まるようになった。
社会全体が豊かになり、消費者は単に製品を購入するだけでなく、提供元である企業のイメージも購入の要素として考えられるようになった。消費者の価値観の変化を受け、まずは小売業を中心にCSRが進み、現在では大手企業を中心に多くの企業がCSRに取り組んでいる。
続いて、CSRの主な活動事項を紹介していく。
■組織統治
企業が社会的責任を果たすためには、まず自社が社会的責任を果たすことができる組織体制を構築することが必要である。
組織統治とは、「コーポレートガバナンス(Corporate Governance)」とも呼ばれ、CSRの原則である「説明責任」や「透明性」「倫理的な行動」を行うための組織体制を整えることを意味している。
■人権
CSRの原則である「人権の尊重」は、普遍的に人権を尊重することを求めており、ステークホルダーだけでなく、社会のあらゆる人々に対する人権の尊重が必要である。CSRに取り組む際には、まず従業員の人権を尊重することが求められ、差別の禁止や非人道的な扱いの禁止、安全で衛生的かつ健康的な労働環境の提供などから始めるケースが多い。
■環境
CSRの目的の一つに「持続可能な社会の実現」が挙げられる。CSRにおける環境活動は、次世代により良い環境を残すための重要な取り組みとして認識されており、特に製造業を中心に多くの企業が重点的に取り組んでいる項目でもある。
■消費者課題
消費者課題は、自社が提供した商品やサービスに責任を持ち、消費者に危害を及ぼさないようにすることや、製品・サービスの使用で環境被害が出ることを防ぐことを意味する。また、顧客の個人情報の適正な管理や、トラブルが発生した際の処理も含まれる。
■法や国際規範の尊重
CSRの重要な活動のひとつに法や国際規範の尊重が挙げられる。CSRが普及した背景に企業の不祥事が挙げられるからこそ、CSRに取り組む際にはルールを遵守することが求められる。
日本企業におけるCSRの具体例

CSRを実践している企業は多くあり、特に上場企業はCSRレポートなどの報告書も公開している。その一例を紹介しよう。
■住友林業株式会社
大手住宅メーカーの住友林業は、旧住友財閥の所有する別子銅山で公害対策として植林事業を行っていたことが祖業の一つである。このため非常にCSRに力を入れている企業である。住友林業だけでなく、住友林業グループ全体でサステナビリティ経営を推進しており、経営理念や行動指針にもCSRを果たすための要素が取り入れられている。
住友林業ではあらゆる企業活動において組織統治が徹底しており、資材の調達方針や安全衛生方針、倫理規範や情報セキュリティなどの指針を定めることで企業活動そのものがCSRに繋がるように設計されている。
こういった企業体制の構築だけでなく、森林で立木を伐採する際に出る林地残材や林地未利用材を利用したり、住宅解体時に排出される廃木材を利用してバイオマス発電を行うなど、事業レベルでのCSR活動も着実に実施している。
■株式会社ヤクルト本社
大手飲料メーカーであるヤクルト本社は、「サステナビリティを高めるための6つのマテリアリティ(重要課題)」を掲げて様々なCSR活動に取り組んでいる。
その中の1つに「地域社会との共生」が挙げられており、昭和47年から行われている「愛の訪問活動」が代表的な活動の一つとして挙げられている。
「愛の訪問活動」は、福島県のヤクルトレディが、自分の担当地域で独居高齢者が誰にも看取られずに亡くなったことに心を痛め、自費で独居高齢者にヤクルトを配り、見守り活動を始めたことに端を発している。一人の現場社員の自発的な取り組みが全社に波及し、現在では全国の自治体や社会福祉協議会との連携にまで発展している。
ヤクルト本社では、この取り組みの発展形として「地域の見守り・防犯協力活動」に積極的に取り組んでおり、現在では国内だけでなく海外にもその活動領域を広げ、社会的弱者への支援に取り組んでいる。
出典:株式会社ヤクルト本社「ヤクルトグループのマテリアリティ」
■ミズノ株式会社
大手スポーツ用品メーカーのミズノでは、「健康増進」をテーマにしたCSR活動を行っている。近年は子どもの体力低下や運動能力低下が指摘されているが、子ども達に運動の機会を提供するために「ヘキサスロン」を開発した。「ヘキサスロン」は運動が苦手な子どもでも楽しく基本的な動作を習得できる運動遊びプログラムで、小学校などで提供している。
また、高齢者の体力低下は寿命に直結するため、ミズノが培ってきた知見を活かし、介護予防に必要と言われる抗重力筋や腰周り、膝周りへアプローチする運動プログラムを開発。出張教室などで高齢者に対しての健康増進を提供している。
ビジネスパーソンはCSRとどう向き合うべき?
近年の企業コンプライアンス意識の向上により、CSRに対する意識もこれまで以上に高くなるだろう。今後ますますCSRが求められるようになる中でビジネスパーソンが意識すべきなのは「CSRの実施者は一人ひとりの社員である」という点である。
CSRの実施には企業が指針を定め、行動計画を策定することが求められているが、それらを実施するのは組織そのものではなく、組織の中にいる人間である。
日常業務におけるコンプライアンス遵守や顧客・取引先との良好な関係構築、地域社会への貢献活動などに積極的に関わることで、企業や社会全体の持続可能性向上に貢献するという意識を持って業務にあたると良いだろう。
まとめ
今回はCSRの概要や活動内容、CSRに取り組んでいる企業の具体例について解説してきた。CSRは企業が利益追求だけでなく、環境、社会、人権など幅広い分野で責任を果たすことを意味しており、ISO26000などの基準に沿って実施するのが一般的である。
CSRをどう実施するかは企業によって様々であるが、自社の活動領域に関連する分野で実施されることが多い。
CSRは企業にとって重要な経営課題であり、ビジネスパーソン一人ひとりが積極的に関わることで、企業と社会全体の持続可能な発展に貢献することができる。CSRの意味を正しく理解し、今後のビジネスに活かして頂ければ幸いである。
文/太田 佳祐(おおた けいすけ)
人材系企業にて求人広告の営業や人材紹介部署の立ち上げやマネジメントを経験。転職し、新規事業部門にて新事業の立ち上げや採用業務に従事したのちに独立(ライター・カウンセラー・セミナー講師)。







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