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ビジネスの場面では、予期せぬ出来事が起こってしまう場面が多々ある。リスクに備えておかないと、状況の変化に対して脆弱になってしまい、ビジネスの継続が難しくなる可能性が考えられる。
そのため、ビジネスにおいてはリスクヘッジを意識することが大切だ。今回は、リスクヘッジの意味や場面ごとの具体的な対策について解説する。
リスクヘッジとは

リスクヘッジとは、その名の通りリスク(不確実なこと)が起こったときの影響をヘッジ(軽減する)ことを指す。
まずは、リスクヘッジの基本的な意味から確認しよう。
■リスクヘッジの意味
リスクヘッジとは、将来発生する可能性のあるリスクを予測し、被害を回避または最小限に抑えるための対策を講じることだ。身近な例でいうと、自分が死亡したとき家族が困らないように、死亡保険へ加入することがリスクヘッジにあたる。
起こり得るリスクに対して、事前に具体的な対策を講じることで、損失を防ぐことが可能だ。先ほどの例だと、死亡保険に加入していれば、家族が経済的に困るリスクを軽減できる。
■企業・ビジネスにおける「リスクヘッジ」
リスクヘッジとは、そもそも金融取引に由来しているが、現在ではビジネスや様々な分野でも広く使われている。企業・ビジネスにおいて不確定要素は多くあるが、リスクヘッジをすれば事業の安定性を高められる。
たとえば、「新規事業への参入をリスクヘッジとして検討している」「海外市場の急激な変化に備え、国内事業の強化でリスクヘッジを行う」のように用いるケースが考えられるだろう。
昨今はさまざまなモノが値上がりしているため、「原材料の調達先を複数確保し、サプライチェーンのリスクヘッジを実施する」「仕入れ価格の変動に対するリスクヘッジとして、長期契約を締結する」という方法も考えられるだろう。
■リスクマネジメントとの違い
リスクマネジメントとは、企業や組織が直面するリスクを体系的に管理し、損失を回避または軽減するための対策を指す。事業活動に関連するリスクを洗い出し、特定したリスクの発生頻度と影響度を評価し、リスクの大きさを分析する。
リスクを軽減するための具体的な対策を策定し、どのような効果をもたらしたのかを評価する。これら一連の流れを「リスクマネジメント」という。
リスクヘッジは、リスクマネジメントの中の対応策の一つである。「損失回避・軽減のための行動」を指し、主にマイナスの影響を減らすための予防的な措置といえる。
一方で、リスクマネジメントはリスクの特定・分析やリスクに対する対応策の検討、対策の実施・モニタリングという一連のプロセス全体を指す。
■リスクアセスメントとの違い
リスクアセスメントとは、リスクを特定・分析・評価するプロセスを指す。作業環境や業務プロセスにおける危険性や有害性を洗い出し、適切な対策を講じるための手法だ。
たとえば、労災事故が発生して従業員がケガを負うと、安心して働けない印象を与えてしまう。そのため従業員が直面する危険を事前に把握し、安全な作業環境を提供することが、リスクアセスメントの目的だ。
リスクヘッジは「リスクに備える」という点にフォーカスされるが、リスクアセスメントとはリスクを「評価・分析する」という意味合いだ。リスクの特定、リスクの影響度や発生確率分析、優先的に対処すべきリスク」を判断する一連の流れがリスクアセスメントとなる。
■金融取引における「リスクヘッジ」
金融取引において、リスクヘッジという言葉を使う場面は多い。投資にはリスクが伴う以上、挽回不可能な損失を防ぐためにはリスクヘッジが欠かせない。
金融取引での代表的なリスクヘッジとして、「将来の価格変動や為替変動などによる損失を防ぐために、あらかじめ取引を行っておくこと」を指す。
例えば、3ヶ月後に100万ドルの支払いがある日本企業の場合で考えてみよう。現在のレートは「1ドル=150円」だが、3ヶ月後に「1ドル=160円」になると、現在のレートよりも支払い額が増える。
そこで、為替予約をして3ヶ月後のレートを150円に固定し、為替変動のリスクをヘッジする方法がある。為替予約には手数料が発生するものの、大きな損失を防ぐうえでは効果的な対策となり得るだろう。
ビジネスにおけるリスクヘッジの重要性

ビジネスの場面では、さまざまな場面でリスクヘッジを行う必要がある。以下で、場面ごとに考えられる具体的なリスクヘッジの対策を紹介する。
■セキュリティに関するリスクヘッジ
セキュリティ関連のリスクヘッジの方法について、具体的に見ていこう。
- 予期せぬ事態が発生しても、事業を継続できる体制を整備する
- 知的財産や機密情報を保護する
- 個人情報・企業情報を保護するためにデータの暗号化と多要素認証を導入する
- 入退室管理システムや監視カメラを設置する
- アクセス権限を適切に管理する
昨今はサイバー攻撃や情報詐取の手口が巧妙化しているため、適切なリスクヘッジは欠かせない。情報漏洩が発生すると企業の信頼性が失われてしまうため、注意が必要だ。
■経営資源に対するリスクヘッジ
経営資源に対するリスクヘッジの方法について、具体的に見ていこう。経営資源とは、企業が経営を行う上で必要なリソースを指し、「ヒト(人材)」「モノ(物資)」「カネ(資金)」「情報」の4つだ。
- 組織内で働く従業員の離職を防ぐためにメンター制度の導入や福利厚生制度を充実化させる
- 採用チャネルを多様化させる
- 生産設備の定期的なメンテナンスを行う
- 重要設備の予備機確保を行う
- 金融機関と良好な関係を築いておく
経営資源は企業活動の基盤であり、業務の遂行に不可欠だ。経営戦略に基づいて、総合的に実施することが重要といえるだろう。
■インシデントに対するリスクヘッジ
インシデントとは、予期しない出来事や状況を指す。一般的には「出来事」や「事件」という意味合いがあるが、「重大な事故が発生しかねない一歩手前の状況」というニュアンスで使われることもある。
例えば、ITシステム運用における「インシデント」は、システムの正常な運用を妨げる出来事が挙げられる。具体的にはアクセスエラーやサービス中断などが考えられるだろう。
インシデントに関するリスクヘッジの具体例は、以下のとおりだ。
- インシデント対応チーム(CSIRT)の設置
- バックアップデータの定期取得
- インシデント対応マニュアルの整備
- BCP(事業継続計画)の策定
- 緊急時の通信手段確保
- コンプライアンス研修の実施
インシデントは、企業や組織にとって発生を避けたい問題だ。しかし、実際にインシデントに見舞われたら、適切な管理と対応が求められる。
予防的な措置と事後対応の両面から検討し、実施することで適切なインシデント対応が可能となる。定期的や見直しを行い、実効性を確保することも欠かせない。
■BCPに関連するリスクヘッジ
BCP(事業継続計画)とは、企業が自然災害やテロ攻撃などの緊急事態に直面した際に、資本の損害を最小限に抑える計画を指す。企業のリスク管理の一環として、重要な計画といえるだろう。
なお、BCPに関するリスクヘッジの具体例として以下が挙げられる。
- 重要業務の特定と優先順位付け
- 必要最低限の業務継続体制の構築
- テレワーク環境の整備
- クラウドサービスの活用
- データバックアップ体制の確立
- 緊急時の指揮命令系統の確立
- 従業員の安否確認システム導入
- バックアップオフィスの確保
事業活動が完全に停止してしまう事態を防ぐためにも、業務継続体制の構築や代替手段の策定が欠かせない。BCPは、企業が緊急事態においても損害を最小限に防ぎ、競争力を保つために不可欠といえる。
ビジネスパーソンとしてのリスクヘッジも重要

ビジネスパーソンとしても、自分のキャリアを考えたときにリスクヘッジを意識する必要がある。
例えば、特定の企業に新卒から定年まで勤め続けることのリスクについて考えてみよう。一つの企業にしか勤務しないことで、特定企業の業務やシステムにのみ精通することになり、知識やスキルに偏りが生じてしまう。
転職しづらい人材となってしまい、自分のキャリアと収入を勤務先に依存することになる。その結果、会社の業績悪化による給与・賞与の減少が起こったときに経済的に打撃を受けたり、キャリアがマンネリ化して向上心を失ったりする事態になりかねない。
そこで、ビジネスパーソンのリスクヘッジとして以下のような対策が考えられるだろう。
- 資格の取得
- 外部セミナーや研修への参加
- 副業・兼業での経験蓄積
- 転職市場での自身の価値の定期的な確認
- 異業種交流会への参加
- 勉強会やコミュニティへの参加
- 競合他社の動向把握
- テクノロジーの進化への対応
これらの対策は、現在の仕事に支障が出ない範囲で、計画的に実施することが重要だ。また、定期的に自身のキャリアを見直し、必要に応じて軌道修正を行うことも意識したい。
まとめ
事業の安定性を高め、持続的に成長するためにはリスクヘッジが欠かせない。また、顧客や取引先へ与える悪影響を抑えるためにも、想定されるリスクの把握や、適切な対策を行うのは効果的だ。
社会状況が変化する中で、企業としても個人としても、リスクヘッジする重要性は高まっている。
文/柴田充輝(しばたみつき)
厚生労働省や保険業界・不動産業界での勤務を通じて、社会保険や保険、不動産投資の実務を担当。FP1級と社会保険労務士資格を活かして、多くの家庭の家計見直しや資産運用に関するアドバイスを行っている







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