2024年大晦日も、日本中にけん玉の音が響き渡った。
もはや年末の恒例行事となったNHK紅白歌合戦のけん玉ギネスチャレンジ。
2017年からスタートし、昨年で8度目となった国民的けん玉イベントは、人気演歌歌手・三山ひろしさんが「恋…情念」を歌う中、128人が挑戦。見事、“連続してけん玉をキャッチした人の最も長い列”のギネス世界記録を達成し、歓喜に沸いた。
毎年、約120人が挑戦しているため、単純計算でこれまで1000本近くのけん玉が使われているわけだが、このけん玉を製造しているのが、木地玩具や民芸品を手がけている山形県長井市の山形工房だ。
競技用けん玉の生産量日本一、全国の生産量の7割
けん玉を造り続けて50年。山形工房は競技用けん玉の生産量日本一で、全国の生産量の7割を占めている。熟練職人の目と手と技を駆使して造られた本格派仕様の逸品が山形から生まれているのだ。
山形工房は、いかにしてけん玉造り日本一の座を手にしたのか?伝統にこだわり、けん玉に愛を注ぎ込んできた東北企業の生き様と真髄に迫るべく、有限会社山形工房の梅津さんに話を聞いた。
――競技用けん玉を造り始めたきっかけを教えてください
「弊社創業者は、朝日連峰の山守や木流しをしてきた家系でありまして、先祖代々、山と関りがありました。山の管理と同時に農業も行っており、農閑期の仕事としてできるものということで木工品製造を始めたんです」
「その木工品の一つとして1974年からけん玉製造を始めたのですが、翌1975年に日本けん玉協会が立ち上がり、競技用けん玉の開発依頼を頂きました。それに応える形で本格的な競技用けん玉作りが始まったんです」
ちなみに、競技用けん玉とはけん玉協会が精度や耐久性などを試験し、十分に品質を認めたもので技のやり易さ等を追求した規格となっている。
けん玉の正面に「日本けん玉協会 認定品」のシールが貼られているのが目印だ。
そんな、協会認定のけん玉はいかにして造られているのか?こだわりを聞くと、
「職人たちの長年の経験と知識による目利き力で最適な木材を選び、0.1mm単位で寸法通りに仕上げています。また、1万回の打撃に耐えうる塗装も施されているのも大きな特徴です。詳しい製造方法は非公開ですが」
これだけ聞くと、子どものおもちゃや民芸品とは違い、アスリートやプロ仕様のアイテムのように思えてくる。
しかし、「生産日本一」は容易ではないはず。日本一になれた理由はなんなのか?
「製品を作る上での精度と品質が良く、リピート率が高かったことかと思います。また、東北地方は材料に使うブナやヤマザクラ等の広葉樹の一大産地であり、良質な材料を手に入れやすかったことも大きな要因です」
紅白歌合戦けん玉ギネスチャレンジのけん玉に選ばれたワケ
誰もが一度は遊んだことのある「けん玉」だが、今や世界でもその名は知られている。
以前、海外のアスリートがけん玉動画をYouTubeにアップしたことを機に世界中で『KENDAMA』が話題となった。
近年は世界大会も開催され、けん玉発祥の地と言われる広島県廿日市市では35の国と地域から挑戦者が集う「ウッドワンけん玉ワールドカップ廿日市」が2014年から毎年開催されている。
参考:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000008.000046428.html
また、『CATCH&FLOW』というフリースタイルのけん玉世界選手権もあり、こちらは国内外の選手がラップバトルのように1対1で高難易度のトリックを披露する大会だ。
そんな「けん玉」において、毎年末の一大イベントと言えるのが紅白歌合戦でのギネス挑戦。
全国からけん玉愛好家、通称「けん玉ヒーローズ」がNHKホールに集い、テレビカメラや多くの芸能人、約3000人の観覧客を前に生放送で日本一緊張するけん玉挑戦を行っている。
その大舞台で使用されているのが山形工房の競技用けん玉。
きっかけは、けん玉歴10年以上で四段の腕前を持つ人気演歌歌手、三山ひろしさんのオリジナルけん玉を手掛けていたことだったとか。
以来、長年にわたり紅白の舞台で山形工房のけん玉が大晦日に光り輝いている。
「特に思い出に残っているのは2018年。初めて紅白の舞台でギネス記録挑戦に成功した時が嬉しかったです。三山さんの関係者の皆さんや企画段取りをしているグローバルけん玉ネットワーク代表の窪田さんをはじめ出演者と喜びを分かち合いました」
紅白の舞台でも使われた山形工房の人気の逸品は、競技用けん玉の頂点に君臨する「大空」。カラバリも豊富で、ノーマルタイプを始め、塗装が強く投げ技にも長く対応できる上級者向けの「大空Premium」も販売されている。
そして最新作は、新形状のけん玉「大空REShape」。
「大空」の各皿サイズを大きくし、全体のバランスを一新。玉の回転が分かりやすく、グリップ力のあるペイントを施すとともに穴の開口部を大きくすることで技の成功度向上を追求した。けん玉職人がこだわり抜いた国産けん玉の最高峰と言えよう。
また、健康増進や健康長寿を謳った「福祉けん玉」もある。
競技用けん玉の皿のサイズを約25%大きくし、軽量化を図ったモデル。初心者や高齢者にやさしい設計なので、扱いやすくプレゼントにも最適な商品だ。
――けん玉を造り続けてきて良かったこととは?
「けん玉ファンが日本だけにとどまらず、世界中で増えてきて、けん玉が仲間づくりや自己実現に繋がっていること、プレイヤーがけん玉の技を決めて喜んでいる姿を見ると嬉しく思います」
――今後の目標を教えてください
「けん玉の魅力をこれからも世界中に広げていき、「けん玉で人々に幸せを」提供できるように社員一丸となって努力していくことです」
「また、競技用けん玉の元祖としてトッププレイヤーに「本気でけん玉をするなら大空だ。」と言われるように常にけん玉ファンのニーズに応えられる品質と技術を詰め込んだけん玉を提供していきたいです」
取材協力
有限会社 山形工房
https://www.kendama.co.jp/index.html
文/太田ポーシャ