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「飲みたい自分」と「飲みたくない自分」アルコール依存者が抱く心の葛藤

2025.02.07

この国には、とてつもないテーマパークが横たわっている。お酒の森――。この森は、計り知れない巨大な遊園地だ。この森で日々繰り広げられる物語もまた、アミューズメントパークの比ではない。出会い、ロマン、ときめき、冒険、スリル、サスペンス、感動のあらしが吹きまくっている。ひとたびこの液体が喉を通過すれば、人は目くるめく世界にいざなわれる。高額な入場料はいらない。数個の百円玉を握りしめ、コンビニに飛び込めばいろんなお酒が手に入る。

店の外でシュパッとお酒の缶を開け、ゴボゴボゴボと喉に流し込めば、もうあなたはお酒の森の中にいる。手軽で簡単、しかも入場料金は安価。貧富の差もなく、実に都合よくできている。

わかっちゃいるけどやめられない。自分の意思では止められないアルコール依存症。その底なし沼から生還を果たすには、何が必要なのか。アルコール依存症の人々の悲哀を描いた『だから、お酒をやめました。―「死に至る病」5つの家族の物語』より、一部抜粋してアルコールが壊した人々の日常、そこから生還することの難しさを紹介する。

これは他人事ではない。

「飲みたい自分」と「飲みたくない自分」──〝群れ〟の中で軸足を踏み固める

NPO法人「横浜マック」スタッフ 内村晋さん

全国にはアルコール依存者の社会復帰を支援する組織が存在する。横浜マックもそんな認定NPO法人だ。話を聞いたのは横浜マックのスタッフ、内村晋さんである。内村さんもアルコール依存症の過去があり、16年間断酒を続けている。内村さんは言う。

「病院では主に心と体の治療をします。解毒剤や精神安定剤を投与して、断酒についての教育をする。マックでは次のステップに進む支援をする。アルコール依存者の社会復帰のお手伝いをする施設です」。全国で十数か所あるマックの施設は、アメリカ人神父が50年ほど前、日本に紹介したAA(アルコホーリクス・アノニマス)という飲酒を止めたい人のためのプログラムが基になっている。40年ほど前に開設された横浜マックは、障害者福祉サービスの制度に基づき運営されている。

NPO法人横浜マックへの通所と入所は、区役所の障害福祉を担当する窓口での手続きが必要だ。公的な助成金が支給され、生活保護および非課税世帯の人は無料、通常は一割負担。収入のある人は追加の費用を負担する。通所は最長で2年間、月曜日から土曜日まで施設に通うことができ、午前9時半から午後2時30分まで、卓球等のレクリエーションも織り交ぜながら、通所者はスタッフとともにミーティングを中心としたプログラムに取り組む。

ミーティングは断酒会やAAの例会と同じで、自分の飲酒体験を話し、相手の飲酒の体験を聞く、これを徹底的に行う。内村さんは言う。

「僕もアルコール依存症で、久里浜医療センターに2回入院した経験があるんですが、『退院した人がボロボロになって戻ってくる。回転ドアのようでむなしい気持ちになるときがある』という、アルコール依存症病棟の看護師さんの言葉が忘れられません。アルコール依存症の人は、メリーゴーラウンドに乗っているようなものです。断酒を決意しても何か嫌なことがあると、またお酒を飲んでしまう。同じところをぐるぐる回ってるだけで、他の術を知らない。そういう脳になってしまっている。

ウソをついて会社を休み、ウソをついてお金を借りお酒を飲んだり。ウソが雪だるま式に膨らんで周りの人は遠ざかり、中には家族も失い、一人ぼっちの人も多い。現実を見たくないからまたお酒を飲む」

横浜マックには、そんな状態に置かれたアルコール依存者が目立つ。だが、自分なりに〝底つき〟を意識して、何とかしたいと断酒を決意し、社会復帰を目指す人たちである。

ちなみに内村さんもだが、数名いるスタッフのほとんどは、元アルコール依存者で、10年以上断酒を続けている。自分と同じ境遇だったスタッフの言葉は、医療関係者の声掛けとは違い重みがあるし、共感が持てる。

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