技術革新による販路の拡大、“創業当時の味”を守り続ける努力
売上拡大の理由のひとつが、コンビニエンスストアなどへの販路拡大だが、その背景にあるのが5年ほど前に、ビスケット生地にチョコレートをしみ込ませる技術革新に成功したことだという。
「ビスケット生地にチョコレートをしみ込ませる技術は、簡単なようで難しいことだらけ。なかなかしみ込まなかったり、しみ込んでも生地が割れやすくなったり、チョコレートがしみ込むと文字の刻印が見えなくなったりと、難題が多すぎてなかなか製品化できなかったんです。それが成功して斬新で面白い商品が生まれ、キャラクターの人気の高まりとの相乗効果でコンビニエンスストアへの販路がより広がり、今の成長があります」(宮本社長)
新商品開発に注力する一方で、一番大事にしているのが「創業からの味と品質を絶対に変えないこと」。「たべっ子どうぶつ」は発売から45年以上たっているので、発売当時とは小麦の品質も変わっているし、工場の機械はもちろん、従業員も代替わりする。「同じ味を守り続けるのは新商品開発よりもさらに難しい。というよりも実は一番難しいんです」と語る宮本社長は毎朝、前日工場で製造した自社商品を食べて味と品質の確認を行っているという。
「近年でいうと、原材料価格の高騰が激しいため、設備や原材料、作り方を変えて価格を保とうとするメーカーも多くあります。でも弊社は、採算が合うように原料のグレードを落とすようなことはせず、『いつ食べても「懐かしい」『この味だ』と思っていただけるように同じ味と品質を徹底的に守り続けています。ヘビーユーザーの方ほど、わずかな味の変化にも敏感に気付かれますので…」(宮本社長)
お菓子は平和産業
ギンビスがさまざまなイベントを実施し、多彩なメディア展開をしているのには、需要喚起のほかに二つの大きな理由がある。
一つは、「令和に売れる食品は、味がよく品質が高いことが大前提だが、そこにプラスアルファでエンターテイメント性や芸術性、教育性、そして文化との結びつきなど、付加価値が必要」と考えているからだ。そうした付加価値があると、商品への“推し活”がより活発になるし、熱心なファン層が自然に形成される。
「現在のたべっ子どうぶつのキャラクター人気も、ファンの方々同士の交流から自然に高まっています。我々が何かして人気を押し仕上げているというよりも、ファンの方々に支えていただいているというのが実感です」(宮本社長)
もうひとつは、「お菓子に夢を!」「お菓子を通して世界平和に貢献する」という企業理念の実現のため。「我々は創業以来、お菓子を通して本物の価値と感動や夢を提供していきたいという想いを貫いてきました。ギンビスのお菓子を食べて元気になったり、ワクワクする幸せを感じたりして欲しい。『たべっ子どうぶつ』のポップアップショップを直近3年間で約250店舗展開したり、体験型ポップアップショップ『たべっ子どうぶつ祭り』を各地のショッピングモール20か所以上で開催したりしているのも、親子3代にわたり愛され続けるお菓子である『たべっ子どうぶつ』が、家族の楽しい思い出のひとつになって欲しいという想いがあるからです」(宮本社長)
2024年5月に「神戸ハーバーランドumie」(兵庫県)で開催された「ギンビス たべっ子どうぶつ祭り」。屋外で見るような本格的なやぐらがショッピングモール内に設置され、「たべっ子どうぶつ祭り」のネオンサインも
「ギンビス たべっ子どうぶつ祭り」でもらえる限定ノベルティのひとつ、オリジナルサンバイザー
「たべっ子どうぶつLAND」は、フォトスポットやフード・ドリンク、グッズなど「たべっ子どうぶつ」の世界観を楽しめる体験型屋内イベント。2023年3月から3度にわたって開催し累計来場者は25万人を突破した
映画への進出も、企業理念実現のための施策のひとつ。もともと、映画作りは宮本社長の長年にわたる夢で2020年頃から具体化していたが、映画に携わるチーム全員で納得のいくものにするべく、時間をかけて試行錯誤を繰り返した。2025年5月に公開予定の「たべっ子どうぶつ THE MOVIE」は大人も子供も楽しめる内容で、宮本社長も公開を楽しみにしているとのこと。
「お菓子業界というのは、平和産業の象徴だと思います。終戦当時は政府の管理のもとで原料が統制されていて、1950年くらいから小麦や砂糖が自由に供給されるようになったので、やはり平和があって初めてお菓子産業も大きく成長したのです。これだけたくさんの種類のお菓子があるのは日本が平和だから。そういう社会を作ってくれたお菓子業界の先人たちに深く感謝しながらお菓子を作り続けたいですし、人々を楽しませるお菓子の持つ力を、業界全体でもっと伝えていければと思います」(宮本社長)
こだわりのスイーツを洗練されたシックな店内で楽しめる大人向けの「たべっ子どうぶつMEETS」カフェを2025年2月14日までの期間限定でオープン(東京都渋谷区神宮前5-3-13 TWIN PLANET North BLDG. 1F)
フレンチの巨匠ジョエル・ロブション氏の子息ルイ・ロブション氏監修のラグジュアリーな「たべっ子どうぶつ」のオリジナルスイーツ
「たべっ子どうぶつMEETS」では、高級感あふれる上質な限定アイテムも展開
取材・文/桑原恵美子
取材協力/株式会社ギンビス、株式会社ジーユー、日本マクドナルド株式会社、株式会社TWIN PLANET、株式会社ヴィレッジヴァンガードコーポレーション