部下に期待しない理由と他人に期待しない思考法について考察しています。ピグマリオン効果やゴーレム効果、レジリエンスの概念を紹介し、部下の自主的な変化を促す重要性を強調しています。
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「部下に期待することは是か非か」の二択で質問された場合、あなたならどちらを選択するでしょうか。おそらく現代は、「期待しない」と答える方が多くなっているのではないでしょうか。
実際、2023年7月にR&C株式会社が組織に属する20~50代の社会人男女に飲み会に対する意識調査を行った結果によると、職場の飲み会が「嫌い」もしくは「どちらかといえば嫌い」と答えた年代は50代が一番多かったそうです。
上司にとっては、部下に気楽に指導ができる場であるはずの飲み会を嫌がるのが、上司世代の50代が最多という結果は、部下とのコミュニケーションの時間が好ましいものではない、と感じている人が多いと推測できます。
「期待をしなければ落胆することもない」ことは事実ですが、では部下には期待をしない方がよいのでしょうか? 今回はいくつか心理用語をご紹介しつつ、考察してみたいと思います。
ピグマリオン効果とは
アメリカの教育心理学者であるロバート・ローゼンタールらが行った実験で、ピグマリオン効果と呼ばれるものがあります。
ピグマリオン効果とは、相手に対して何らかの期待や予測をすると、相手がその期待や予測通りに動いてしまうという現象をいいます。
ローゼンタールらは、小学生の生徒たちに「学力の伸びを予測するテスト」と称して知能検査を実施し、その中からランダムに何人かの生徒を抽出して、教師に「今後この生徒(ランダムに抽出した生徒)たちは学力が伸びると予想されます」と告げました。
8か月後に再度知能検査をした結果、ランダムに抽出した子供たちの学力が実際に向上していました。
またこの実験では、教師が「学力が伸びる」と言われた生徒に対して発言の機会やヒントを多く与えたり、質問を言い換えたりといった行動をとっていることが観察されています。
この実験から、教師側は「学力が伸びる」と伝えられた生徒たちに期待を持ってそれなりの対応を取ったことと、生徒側が先生からの期待を感じ取りモチベーションが高くなったことの相乗効果が、生徒の学力向上につながったと考察されています。
ゴーレム効果とは
一方、ピグマリオン効果の対義となる心理学の用語に「ゴーレム効果」というものがあります。これもローゼンタールによって提唱された心理効果ですが、他者からの期待や評価が低いと実際のパフォーマンスが低下するという心理効果のことをいいます。
自分自身が部下だったときや、現在の生活を振り返ってみてください。自分に余裕があり、やる気がある状態のときの上司からの期待や励ましは、さらなるやる気を出してくれ、それが結果に結びついていたことも多いと思います。
しかし体調が悪かったり、仕事やプライベートで自分に余裕がないときに期待をかけられるとプレッシャーを感じ、逆にパフォーマンスが低下してしまった経験はないでしょうか。
また、社会人になった段階で、ストレスへの耐性がどの程度ついているのか、といった個別の差もあります。次に、最近ビジネスや心理学において重要視されている「レジリエンス」という概念についてご説明したいと思います。
レジリエンスとは
レジリエンスとは、もともと「回復力」「復元力」という意味ですが、ビジネスにおいては、新しい環境や状況にしなやかに対応できる力や、想定外の出来事に対して冷静に対処できる力のことをいい、そうした力を持っている人を「あの人はレジリエンス力が高い」といった使い方をします。
レジリエンス力が高い人は、自分の感情を管理する能力がたけている、失敗などで凹んでも回復力が早い、といった心理面での強さがあります。
レジリエンスは生まれつきの器質や、成育歴において社会人になるまでにある程度形成されますが、後天的にレジリエンス力をつけることも可能です。
したがって、上司は部下の現状のレジリエンス力を見極め、レジリエンスが低い部下のレジリエンスを高めていくという働きかけが大切だと考えられます。
「部下に期待する」と聞くと、ポジティブな言葉をかけたり、根気強く指導をしたりといったテクニック的なことを考えがちですが、もっと本質の部分で、部下の自主的な変化を促すということが正しい意味での「部下への期待」ということになるということなのです。