インターネットやSNS、生成AIなどのデジタル技術は、今や私たちの生活に深く浸透。これらの普及によって暮らしが豊かになった一方で、偽・誤情報や詐欺広告、誹謗中傷などの違法有害情報が短時間で広範囲に拡散され、国民生活や社会経済活動に影響を及ぼすことが深刻な課題となっている。
そんな背景から、2024年1月22日に総務省が「ICTリテラシー向上に関する新プロジェクト発表会」を開催。国民一人一人が安心して利用できる情報社会を実現するための取り組みについて説明した。
一人一人のICTリテラシー向上が大切
総務省大臣政務官の川崎ひでと氏は冒頭に、2024年の災害や選挙の時に偽・誤情報などが拡散され、大きな影響を及ぼしたことを語った。そして「人々の関心や注目の獲得が経済的価値となるアテンション・エコノミーのもと、過激なタイトルや憶測だけで作成されたコンテンツが流通し、拡散されることが社会問題化している」と指摘。
総務省で有識者による「デジタル空間における情報流通の健全性確保の在り方に関する検討会」を実施し、昨年秋にまとめられた提言により、制度的な対応、技術の研究開発と合わせて、普及啓発やICT(Information and Communication Technology)リテラシーの向上が重要であることを説明した。
国民のICTリテラシーを向上し、安心して利用できる情報社会の実現を目指すため、総務省は関連する団体、企業と官民連携した取り組みを推進するための新プロジェクトを発足。ロゴやスローガン、ステートメントを発表すると共に、先行サイトを公開した。
この新プロジェクト「DIGITAL POSITIVE ACTION」の会長を務めるのが、前述の検討会の座長でもある慶應義塾大学大学院の山本龍彦教授だ。
19の関連団体や事業者が参画
山本氏は昨年の災害や選挙時の有害情報の流通や拡散は、「私たちの生命、身体、財産、さらには民主主義そのものにもリアルな影響を与えることが深く認識されたのではないか」と問いかけ、今こそ行動しなければならないと言う。
とはいえ、表現を削除させるような規制的な政策は、憲法が保障する表現の自由を侵害するおそれがあり、仮に具体的な対応を義務付けたとしてもイタチごっこになってしまう。「一定の制度の検討は必要だとしても、現在の課題を根本的に解決していくためには、私たちの意識自体が大きく変わる必要がある」と訴える。
現在、新プロジェクトに参画する関連団体やプラットフォーム事業者、通信業者、IT・インターネット関連事業者は19あり、今後も拡大を目指していく。
新プロジェクトの具体的なアクションプランは次の3つだ。
・取り組みを集約した総合的なWebサイトの開設
・関係者によるセミナーやシンポジウムの開催
・多種広報媒体を活用した広報活動
折しも2月11日は「セーファーインターネットデー」で、EUで開始した安心、安全なインターネット環境整備のための取り組みが、180か国以上の国と地域で開催される。この日に合わせて先行サイトを、官民の取り組み等を紹介する総合サイトとして本格的に立ち上げる予定だ。
推進パートナーにおいても様々な取り組みを行なう予定で、例えば通信事業者はケータイショップ等でリテラシー向上に関する講習会を実施したり、Xはコミュニティノートワークショップの実施、LINEヤフーでは詐欺に関する注意喚起動画の公開、Metaはティーンアカウントに関する啓発キャンペーン、TikTokではクリエイターに向けて偽・偽情報対策ワークショップなどを開催する予定だ。
発表会には利用者側の立場として学生ゲストが登場。高校生が自ら適切なネット環境について議論・発表する「高校生 ICT Conference」や、子どもたちのネットの関わり方を学生という立場で考える「ソーシャルメディア研究会」の学生たちが、新プロジェクト発足の感想を述べた。いずれも「リテラシーの向上はとても重要」、「一人一人が自分ごととして捉え、解決策を見出していくことは大切」、「利用者の一人としてこのプロジェクトに積極的に関わっていきたい」など、ポジティブなコメントを語った。
(左から)学生ゲストとして登壇した、高校生 ICT Conferenceの橋田さん、ソーシャルメディア研究会の永濱さん、島方さん、永峰さん。
学生ゲストのこれらのコメントを受けて山本氏は、「デジタル時代のカルチャーを作っていく若い世代の皆さんに関心を持っていただき、心強く感じました。今後は様々な世代の方々にも関心を持ってもらいたいので、お友達やご家族の方とコミュニケーションを取って、アクションの場を広げてもらえればと思います」と語った。
2月以降、総務省を始め、様々な推進パートナーが活動を開始する。「DIGITAL POSITIVE ACTION」のWebサイトなども参照して、一人一人がICTリテラシー向上に務めたい。
登壇者や学生ゲスト、プロジェクト推進パートナー各社のメンバー。
取材・文/綿谷禎子