本人に代わって退職の意思を伝える退職代行が存在感を強めている。使われると会社はショックだが、使う理由や正しい対応は心得ておきたい。退職代行の概要と会社としての対応をまとめた。
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ある日、知らない業者から電話がかかってきて、昨日まで働いていた従業員が挨拶もなく辞めていく。多くの会社にとってはショックな出来事だろう。
従業員本人に代わって会社に退職の意思を伝える退職代行サービスは、2018年頃から注目されるようになり、若年世代を中心に認知度と利用者数が増加傾向にある。
退職代行を使われると会社側には痛手だが、使う側にも理由があり、労使双方で考えていくべき問題と言えるだろう。
本記事では、「退職代行」のサービス概要と、なぜ使うか、使われた場合の会社としての対応について解説する。
退職代行サービスとは?なぜ使う人がいるの?
退職代行サービスとは、名前の通り、退職の意思を本人に代わって会社に伝えるサービスだ。
20代・30代のビジネスパーソンのあいだで利用率・認知度ともに高く、コンサルティング会社・タバネルが実施した意識調査によると、退職代行サービスの利用経験者は、ビジネスパーソン全体の平均3.7%に対し、20代は6.5%、30代は9.8%と平均よりも多い。
一方、退職代行サービスの利用そのものについては、世代を問わず約5割が否定的な見方をしている。肯定的な意見は2割ほどで、こちらも世代を問わず同程度の割合だ。
賛否両論の退職代行だが、使う側の理由にはどのようなものがあるのだろうか。
参考)・退職代行サービスの利用経験は3.7%、年代により大きな差 「退職代行サービスについての意識調査」結果発表 | OKRのタバネル
■退職代行を使う理由1:辞めることを言い出しにくい
退職代行を使う最大の理由は、「会社に辞めることを言いにくい」というもの。入社したばかりであったり、退職する理由を聞かれたくなかったりと事情は人それぞれだが、退職に関するプレッシャーを避けたい意識が働いていると言えるだろう。
■退職代行を使う理由2:パワハラに遭っている
直属の上司や先輩などからパワハラに遭っており、退職を伝えることでさらにハラスメントが悪化するのを恐れている場合も、退職代行を利用する強い動機となる。
退職代行を利用すると、本人は出社せずに退職手続きに入るため、社内で顔を合わせたくない相手がいる場合に利用されるケースが多い。
■退職代行を使う理由3:退職を引き止められる
退職を伝えると強い引き止めに遭うことがわかっている場合も、煩わしさを避ける目的で退職代行に依頼するケースがある。過去に退職届の受け取りを拒否したり、会社の受ける損害を話して退職者本人を責めたりといった事例があると、退職代行を使われる可能性が高まる。
退職代行を使われた時はどうする?会社としての対応
退職代行から連絡を受けた場合、抵抗を覚える人も少なくないだろう。ただし、退職は労働者の権利であり、代行業者からの伝達であっても原則として拒否はできない。
退職代行から連絡が入った場合は、会社として必要な事項を確認し、法的に問題のない対応を心がけたい。
■退職代行を使われた時の対処法1:代行業者の資格を確認する
退職代行サービスには、会社との交渉資格を持つ業者と持たない業者がいる。
民間企業が運営する退職代行の場合は、退職の意志を伝えること以上の対応ができない。
その一方で、労働組合が運営する退職代行は団体交渉権を持ち、退職日の相談や未払い給与の支払い・退職日の調整なども可能となる。
また、弁護士が対応する退職代行では、会社との交渉に加えて損害賠償請求への法的対応なども可能となっている。三種類の退職代行の中ではもっとも交渉力があり、利用料金も高額なため、会社と何らかのトラブルがある場合に選ばれやすい。
まずは退職代行業者の連絡事項をよく聞き、業者の持つ資格を確認した上で対応しよう。
■退職代行を使われた時の対処法2:本人からの依頼かどうかと雇用契約の確認
万一のなりすましなどを防ぐため、必ず本人からの依頼であることを業者に確認しよう。委任状や身分証のコピーなどがあれば安心だ。
その際、従業員の雇用形態も合わせて確認したい。無期雇用契約の場合は、本人からの退職意思により労働契約を解約できるが、有期雇用の場合は労働契約に定められた期間があるため、本人の一存では退職できない。(ただし、有期雇用であってもハラスメントがあった場合などは例外措置が設けられている。)
■退職代行を使われた時の対処法3:退職手続きの依頼
退職代行サービスを通じて従業員本人に連絡が付く場合は、退職届の提出を依頼しよう。退職届の受理後は、IDカードや社用パソコン、制服などの貸与品があれば返却を依頼する。未消化の有給休暇があれば消化の手続きが必要となる。また、退職証明書の受け渡しも郵送などで対応したい。
なお、従業員本人に直接連絡を取ることは、無用なトラブルに発展する可能性があるため、避けたほうが無難だろう。
退職代行を使われた場合の影響とは
退職代行サービスを使われた場合、周囲への影響が気になる人も多いだろう。業者や退職者本人以外への対応も心がけたい。
■退職代行を使われた時の上司への影響
退職代行を使われた影響をもっとも大きく受けるのは退職者の直属の上司だ。これまで見てきた通り、退職代行を使う理由は一つではなく、原因も過重労働やハラスメントといった会社側の問題以外に、退職者と職場との相性、退職者本人の問題など一括りにはできない。
過度なレッテル貼りは避けるべきだが、退職代行を使われた原因を検証し、再発を防ぐ意味でも、上司を始めとした現場へのヒアリングは行うようにしよう。
■退職代行を使われた時の社内への影響
退職代行サービスを使われると、通常は退職前に行われる引き継ぎが不十分となるケースが多い。退職者が在職中に手がけていた仕事を確認し、必要があれば後任者を決めて業務がスムーズに行われるようにしよう。退職代行による退職は突然起きるため、現場も混乱しがちだ。後任者一人に負担が集中しないようフォローを心がけたい。
■退職代行を使われた時の社外への影響
退職代行サービスが使われたことが社外に知られた場合、企業イメージの低下を招く可能性がある。退職代行を使われた側としては、「無責任だ」「迷惑を被った」など周囲に愚痴を言いたくなる場合もあるだろう。しかし、第三者の立場から見ると、「ブラック企業なのでは」「ハラスメントがあったのでは」と、退職代行を使われた側に対しての見方が厳しくなる可能性もある。
退職代行を使われた理由について、社内で原因を究明することは重要だが、社外に対しては安易に吹聴しないよう心がけたい。
※情報は万全を期していますが、正確性を保証するものではありません。
文/編集部