暗黙知は形式知への転換が必要
暗黙知の形式知化は、企業の知識管理における重要な課題です。形式知は、誰もが理解し共有できる客観的な知識であり、業務の効率化・標準化に大きく貢献します。形式知の意味や暗黙知との違い、形式知化のメリットについて解説します。
■形式知の意味
形式知とは、文章・図表・数式などで表現できる客観的な知識を指します。理解しやすく共有しやすい形で示されているため、業務の標準化・効率化に役立つのがメリットです。
マイケル・ポランニー氏が提唱した概念であり、経営学者の野中郁次郎氏は『言語化・視覚化・数式化・マニュアル化された知識』と定義しています。
具体的な形式知の例としては、以下が挙げられます。
- 料理のレシピ
- 操作マニュアル
- 業務フロー
- 解説書
- 報告書
- 法律
- 交通ルール
■暗黙知と形式知の比較
自動車の運転では、『アクセルを踏めば車が動く』『ブレーキを踏めば止まる』といった基本的な操作方法が、形式知に該当します。これらは、誰でも理解できる明確な指示です。
一方、暗黙知は個人の経験・勘に基づいているのが特徴です。同じ運転の例でいえば、『交差点では速度を落とす』『細い道では飛び出しを意識しながら運転する』といった経験則が、暗黙知に当たるでしょう。
両者の違いの一つに、知識の伝達方法が挙げられます。形式知は文書・データベースを通じて容易に共有できるのに対し、暗黙知は直接的な指導や実践を繰り返すか、形式知化して伝える必要があります。
■形式知化するメリット
暗黙知を形式知化することで、企業にどのようなメリットがもたらされるのでしょうか?
まず、熟練職人の技術や、ベテラン営業職が持つ交渉術などが後継者に継承され、業務の属人化が減ります。誰もが同じ品質で業務を遂行できるようになり、組織全体の生産性が向上するでしょう。
形式知化された暗黙知は、新人教育にも活用が可能です。教育コストを抑えながら、スピーディーに人材育成ができるため、人事担当者・教育担当者の業務負荷が軽減します。
また、複数の知識を組み合わせることで、新たなアイデアが生まれやすくなるのも大きなメリットです。イノベーションは組織の競争力を高め、より多くの利益をもたらします。
組織におけるナレッジマネジメントの重要性
暗黙知を形式化する方法として有効なのが、『ナレッジマネジメント』です。個人の経験やノウハウを、効果的に管理・活用するマネジメント手法で、多くの企業で注目されています。
■ナレッジマネジメントの定義
ナレッジマネジメント(knowledge management)は、組織内の知識の共有を通じて、新たな価値を創造していく経営手法です。
『知識経営』とも呼ばれ、野中郁次郎氏が『組織的知識創造理論』と『SECI(セキ)モデル』を発表したことで発展したといわれています。以下は、ナレッジマネジメントを構成する要素です。
- SECI(セキ):暗黙知と形式知の相互変換
- 場(Ba):知識共有を促す環境
- 知的資産:企業の無形の財産
- ナレッジリーダーシップ:知識創造プロセスを導くリーダーの存在
これらの要素を効果的に活用すれば、業務効率の向上やイノベーションの促進、競争優位性の確立が実現します。
■暗黙知と形式知にする「SECIモデル」とは?
SECIモデルは、暗黙知を形式知に変換し、組織全体で共有・活用するための枠組みです。以下の四つのプロセスを繰り返すことで、個人の知識が組織の知識へと発展します。
- Socialization(共同化):共同作業で暗黙知を共有する
- Externalization(表出化):暗黙知を言語化して形式知に変換する
- Combination(連結化):形式知同士を連結して新たな知識を創造する
- Internalization(内面化):形式知を実践して個人の暗黙知とする
企業は、それぞれのプロセスを実践するのに適切な『場(Ba)』を提供する必要があります。例えば、共同化プロセスではオープンなコミュニケーションが鍵となるため、ランチ会の開催や社内SNSでの情報交換などが有効です。
暗黙知は企業成長の鍵
暗黙知は、経験や勘に基づく知識です。職場やビジネスシーンに多く存在し、その放置はリスクを伴います。日本では、1990年代初頭にナレッジマネジメントが提唱され、多くの企業が重要性を認識しています。
企業を取り巻くビジネス環境が急速に変化する今日、暗黙知の形式知化を進め、組織の知的資産を最大限に活用することが、企業の生き残りには欠かせません。イノベーションにつながる知識・ナレッジを生み出す企業が増えれば、日本経済の成長にもつながるでしょう。
構成/編集部