
一部の組織には『参与』というポジションが設けられています。経営幹部の下に配置されることが多く、専門的な知見から助言を行います。参与の役割や重要性、他の役職との違いを確認しましょう。
目次
『参与(さんよ)』は、組織において重要な役割を果たす職位です。基本的な役割を深く掘り下げ、仕事をスムーズに進めるための知識を身につけていきましょう。
参与とは?基本的な役割について
まずは参与の特徴や求められるスキルを具体的に解説します。
■参与の意味
参与(さんよ)とは、事業・計画などに関わったり、その相談を受けたりすることです。『新規事業の立ち上げに参与する』『会合に参与する』など、参加と同じような意味で使われます。
企業においては、豊富な経験と専門知識を生かし、経営陣に助言を行うポジションを指すのが一般的です。
参与は、明治時代初期に設置された高官の職名でもあります。1867年の王政復古の際に、総裁・議定に次ぐ三職の一つとして設けられましたが、1869年に廃止されました。
■企業における参与の位置付け
企業では、参与は経営幹部の下に位置し、特定の業務や課題に対して専門的な知見を提供する役割を担います。定年退職後に、能力を認められた人材が就くケースも少なくありません。
多くの場合、本部長や部長クラスと見なされますが、一般的な役職序列とは異なる立場にあります。組織図上では特定の部署に属さず、横断的な立場で活動するのが一般的です。
参与は、直接的な指揮命令権や人事権を持たない代わりに、その専門性と経験を生かし、プロジェクトの推進や戦略立案において重要な役割を果たします。全社的な視点で課題を捉え、客観的な助言を提供できる点が強みといえるでしょう。
■参与に求められる能力と待遇
参与には、経営層と円滑に意思疎通を図り、複雑な課題を整理して適切な助言を行う能力が求められます。豊富な業界知識と経験はもとより、高度な分析力や戦略的思考力、コミュニケーション能力などが欠かせません。
また、組織の未来を見据えた提言を期待されるため、最新の業界動向や技術トレンドにも精通し、変化に対応できる柔軟性を持ち合わせている必要があります。参与は、これらのスキルを総合的に活用し、組織の持続的成長に貢献していくのです。
待遇は、部長クラスと同等かそれ以上の処遇を受けるのが一般的です。直前に就任していた役職が取締役であれば、取締役時代と同等の給与が支払われます。
企業における参与の効果的な活用方法
参与は、その豊富な経験と専門知識を生かし、企業の成長と発展に大きく貢献できる存在です。経営戦略の立案・外部ネットワークの構築・社内人材の育成など、企業における活用範囲は多岐にわたります。
■豊富な知見を生かした経営戦略立案
参与は、経営層の意思決定をサポートし、企業全体の戦略推進を助ける重要な役割を担っています。豊富な経験や知見を経営戦略立案に生かすことは、企業の成長と持続可能な発展に大きく寄与するでしょう。
例えば、新製品開発プロジェクトに参与が加わり、市場調査と競合分析を行うことで、製品の差別化が可能となります。
参与が役割を果たすには、マネジメント能力の向上や専門的な業界知識の習得が欠かせません。外部専門家による講演やリーダーシップ研修プログラムなど、参与の教育体制を整える企業もあります。
■ネットワークの構築や人材育成
参与の人脈や外部ネットワークを企業成長に活用することは、組織の競争力強化につながります。参与の中には、長年の職務経験を通じて築いた幅広い人脈を持っている人がいます。
例えば、新規事業展開の際に、参与の人脈を通じて業界のキーパーソンを紹介してもらうことで、スムーズな事業立ち上げが可能になるでしょう。専門的なネットワークを活用し、最新の技術動向や市場情報を迅速に入手できれば、的確な経営判断につなげられます。
参与は部下を持たないのが一般的ですが、豊富な経験を生かして若手社員のメンターとなれば、実践的なスキルと知識の伝承が可能になります。
参与を取り巻く課題とは?
参与の設置は、企業に多くのメリットがありますが、デメリットや課題もあります。参与が必要かどうかを社内でよく検討し、適切な人材を起用することが大切です。ここでは、参与をうまく活用できない場合に起こる二つの課題を解説します。
■ポジションの形骸化が生じやすい
部長や課長といった他の役職と違い、参与は企業によって役割や位置付け、業務内容などが異なります。
能力がある人が任命されれば、経営層をしっかりとバックアップする体制が築かれますが、そうでない場合はポジションの形骸化が生じる可能性があるでしょう。企業の中には、出世コースから外れた人を参与に就かせるところもあるようです。
部下を持たない点において、モチベーションが保ちにくいのも難点です。企業には、能力のある人材を最大限に活用し、業績につなげる施策が求められています。
■指揮系統の混乱を招くこともある
ポジションの形骸化が生じやすい一方で、参与の影響力が大きすぎて社内の指揮系統が混乱するケースもあります。
例えば、元取締役が参与に就いた場合、部長や課長といった現職の管理職よりも発言権が強くなるかもしれません。管理職のモチベーションが下がったり、指揮系統が乱れてトラブルが発生したりと、組織全体にマイナスの影響が及びます。
こうした問題を解決するには、参与の役割や業務内容を明確にすることが重要です。参与の存在意義を見直し、適切な人材を起用する必要があります。
参与と他の役職との違い
参与と混同されやすいポジションには、『顧問』『理事』『参事』が挙げられます。それぞれの特徴や責任範囲を比較することで、参与の位置付けがより明確になるでしょう。
■顧問
参与と顧問は、企業組織において経営者を支援する重要な役割を担っていますが、その立場や権限には明確な違いがあります。
顧問とは、専門知識や経験に基づいた助言・サポートを提供する者です。企業から依頼を受けて活動し、多くの場合『準委任契約』を締結します。
顧問の種類は、社内経験者から選ばれる『内部顧問』と、外部の専門家と契約する『外部顧問』に大別されます。外部顧問には、弁護士や税理士、コンサルタントが任命されるケースが多いでしょう。
参与は、経営上の意思決定に直接関与する権限を持つのに対し、顧問は経営上の意思決定に関与しないのが特徴です。
■理事
理事とは、法人を代表して権利を行使する機関、または団体を代表して担当事務を処理する役職です。取締役と同等であり、参与よりも上のポジションに位置付けられます。
参与はアドバイザーやスペシャリストとして活躍することが多いですが、理事は組織全体の戦略策定・政策決定・組織監督を担う立場です。
定款や社員総会の決議に従って法人を運営する役割があり、一般社団法人・一般財団法人・NPO法人を設立する際は、理事の配置が法律で義務付けられています。
■参事
参事とは、特定の事務や業務に当たる役職です。企業によって位置付けは異なりますが、管理職と同等と見なされるケースが多いようです。具体的には、豊富な専門知識を持つアドバイザーとして、部長や課長にサポートを提供します。
参与と参事は、どちらも企業に貢献する重要なポジションですが、参与の方がより経営に近い立場で活動し、参事は特定の専門分野で組織をサポートする傾向にあります。
もともと、参事は公務員の役職の一つでした。地方公共団体においては、部長や課長クラスで働いている人を参事といいます。
■会計参与
一般的な参与は役員ではありませんが、『会計参与』は会社法に定められた役員です。会社法においては、取締役・会計参与・監査役の三つが役員に該当します。
会計参与の役割は、取締役や執行役と共同し、株式会社の計算書類(賃貸対照表や事業報告書など)を作成することです。株主・債権者からの開示請求に対応したり、取締役の不正行為を監査役に報告したりする義務もあります。
なお、会計参与になれるのは、公認会計士(監査法人)や税理士(税理士法人)のいずれかのみです。
国家公務員における参与
民間企業だけでなく、国に勤務する国家公務員にも参与というポジションがあります。代表的な参与として、『内閣官房参与』と『人事院の参与』を取り上げます。
■内閣官房参与
内閣官房参与は、内閣総理大臣に対して有益な情報を提供したり、専門家の知見から助言を行ったりするポジションです。非常勤の一般職国家公務員であり、人数規定や任期はありません。
内閣官房とは、行政機関の最高責任機関である『内閣』の補助機関です。内閣の首長である内閣総理大臣を直接的に補佐・支援するのが役割で、内閣の重要政策の企画立案・総合調整・情報収集などを幅広く行っています。
2024年10月1日に発足した石破内閣では、拓殖大学元教授の川上高司氏をはじめとする10人が内閣官房参与を務めています。
■人事院の参与
人事院とは、内閣の所轄の下に置かれる第三者・専門機関です。時代の要請に応えながら、国家公務員の人事管理や人事政策などを中立的な立場で行っています。
構成員は、3人の人事官(うち1人は総裁)です。人事院規則二―八(人事院の顧問及び参与)では、『人事院に、参与12人以内を置くことができる』とされています。
人事院の参与の主な役割は、重要な事項について人事院に意見を述べることです。任期は2年、学識経験のある者から総裁が委嘱します。
出典:人事院規則二―八(人事院の顧問及び参与)|e-Gov 法令検索
参与と他の役職との違いを区別しよう
参与は、企業や官公庁において、特定の分野で高度な専門知識・経験を持つ人材が就くポジションです。彼らの知見は、新規事業の立ち上げや複雑な経営課題の解決に大きく貢献し、組織の成長と発展を支えています。
一方、適切な活用がなされない場合、ポジションの形骸化や指揮系統の混乱を招きかねません。企業では、参与の効果的な活用方法を検討し、組織の成長に寄与することが期待されています。他の役職との違いを理解することで、参与の位置付けがより明確になるでしょう。
構成/編集部