2025年1月12日、日本政策金融公庫は、第12回「創造力、無限大∞ 高校生ビジネスプラン・グランプリ」の最終審査会を東京大学において開催。当日は、過去最多の参加校数536校・プラン数5,151件の中から選ばれたファイナリスト10組がプレゼンテーションを行い、宮城県農業高等学校の「チーム温故知新」が最優秀賞となるグランプリを獲得した。
肥料を入れ忘れたのに、なぜか収穫量が変わらず?
グランプリを受賞したビジネスプランは、宮城県農業高等学校の「チーム温故知新」の「Re:温故知新」と名付けられたプロジェクトで、稲作農家の肥料費高勝問題を解決するため、新しい栽培方法と新肥料を開発し、全国の農家に販売するというものだ。
プロジェクトのきっかけは一つの失敗だった。
ある日、生育の悪い水田を発見。調べてて見ると肥料を入れ忘れが発覚。
周囲の大人たちは「諦めろ」と言うが、そのまま栽培を続けると、成長を続け最終的には通常栽培に追いつき、肥料は通常の3分の1程度にも関わらず、収穫量や味の変化はなかった。
この失敗が新肥料の開発に繋がった。
1936年の栽培理論と繋がる
「何故、肥料が少なくてもお米が獲れたのか」
稲を調べてみると、肥料を入れ忘れた稲は通常の稲に比べて根の大きさや量が増えていた。
通常は稲の近くに肥料を投入するので根は伸びない。しかし、肥料を入れ忘れた稲は養分を求めて根が成長したいることが分かったのだ。これは肥料会社も知らない大発見だったと言う。
彼女たちは根が一生懸命伸びる様子から「ど根性効果」と名付けた。
さらに調べていくと、88年前のブドウの栄養周期理論を発見。
大正〜昭和初期に活躍した農学者・大井上康(おおいのうえ・やすし)が発見した作物の栽培理論だ。
同理論は、作物の生育状態や発育段階に応じて、それにふさわしい栄養状態に誘導するために施肥を調整するというもの。最小の肥料で育てると、根が伸びるという考えが含まれている。まさに「ど根性効果」と通ずる考え方だった。
この理論を応用すれば、肥料を3分の1にまで減らせると仮説を構築した。
仮説を立証、結果で大人たちを納得させる
肥料を減らせば収量も減るーー。
業界の常識を打ち破るため、試行錯誤を重ね肥料開発を続けた。
たどり着いた新肥料は、稲の発根と生育が良く、収量は変わらず、味は美味しいという信じられないものだった。
「ど根性効果」の仮説が立証され、ビジネス展開に目を向ける。
ターゲットは全国1万6000社ある農業法人。
農業法人に新肥料を販売すると言うシンプルなビジネスモデル。農業法人のメリットは、肥料費が78%削減、労務費は62%削減できると試算され、農業法人は年間300万円の利益向上が見込める(※30haの農業法人の場合)。
農業法人から「味は?」と疑問が出ると、食味の大会に出展。なんと最優秀賞を受賞する。これを機に、メディアにも取り上げられ、農業法人にも興味を持ってもらうことが成功。
「Re:温故知新」という新肥料が完成。現在、商品化を目指している。
ビジネス化する大きな価値
肥料の価格高騰で悩む農家は多い。
肥料削減の答えは88年前に先人が見つけていだたが、彼女たちは自らの失敗がなければこの事実に気づけなかったと語る。
失敗に疑問を持ったことも素晴らしいが、それ以上にビジネスへの一歩を踏み出したことに意味があるのではないだろうか。
農作物の収穫量の課題は有史以来、人類の課題と言っていい。彼女たちが自分達だけでノウハウを完結させるのではなく、外へ発信することで、この課題の解決に繋がるかもしれないのだ。
柔軟な発想と行動力、そして一歩を踏み出す勇気。
私たち大人も見習わなければならない。
文/峯亮佑