伝説となった2024年シーズンがスタートしたばかりの4月、伊藤園は大谷翔平選手とグローバルアンバサダー契約を締結した。その当時はもちろん、史上初となる「50-50」や悲願のワールドシリーズ制覇、MVP受賞といった出来事が起こることなど誰も予想できるはずはない。それどころか元通訳による違法賭博問題に巻き込まれてしまったタイミングで伊藤園が打ち出した広告は、かなり個性的なものだった。当時のことと、2025年シーズンに向けての広告戦略について、伊藤園マーケティング本部の安田哲也さんに伺った。
プロフィール
伊藤園 マーケティング本部 副本部長兼 緑茶ブランドグループ ブランドマネジャー
安田哲也さん
1994年に入社。営業部署を経て、2005年からマーケティング本部へ。2015年から「お~いお茶」ブランドのブランドマネジャーを努める。毎日『お~いお茶』」を飲むのがルーティン。
新聞全面広告や和服姿の大谷選手など斬新な手法で認知を広げる
――まずは今シーズン、大谷選手をグローバルアンバサダーに起用された経緯について教えて下さい。
『お~いお茶』は2024年に35周年を迎えました。現在の購買メイン層は40代~50代が中心となっており、この先はもっと若い世代や女性の方にも手に取っていただきたいという想いがまずあります。この世代への訴求力を高めるには、どういった人を起用するのがいいのか? そのときにまず思い浮かんだのは、性別や世代を問わず愛されている大谷選手でした。あとは35周年を迎え、日本だけではなく世界に向けて日本の緑茶の魅力を発信していきたいという狙いもあります。そういった面でも、グローバルに活躍されている大谷選手以上に適任者はいないと考えました。
――大谷選手はもともと学生時代から『お~いお茶』を愛飲していたそうですね。
はい。それが決め手となりました。オファーを快諾していただいたのも、それが大きな理由だったと思います。やはり当社としては日本の緑茶が好きで、おいしく飲んでいただいているというのはとてもうれしいことです。
――グローバルアンバサダー契約締結に伴い、伊藤園では4月30日に大谷翔平選手へエールを込めた〝手紙〟という形でビジュアルを制作しています。そこには大谷選手の姿もありませんが、なぜこのような広告になったのでしょうか?
大谷選手に『お~いお茶』が寄り添って応援をする。そんな描き方を意識しました。このスタンスはずっと一貫しています。
第1弾広告は、大谷選手自身は登場せず、エールを込めたお手紙スタイルのデザインに。
――こちらの手紙は新聞の全面広告という形で国内外60紙以上に掲載されたそうですが、新聞というアプローチにしたのはどんな狙いがあったのでしょうか?
家庭や会社などに配達される新聞は、手元にしばらく残るものだと思います。時代に合わせるならSNS戦略に重きを置くのもアリですが、我々が重視しているのは拡散力よりも〝深さ〟。やはりSNSよりも新聞の方がより深く多くの人々に浸透するツールだと思っています。
新聞広告は、国内発行の主要新聞に加え、大谷選手が活躍するLAの『LA Times』、全世界62か国で配信される『Financial Times』、大谷選手人気の高い韓国は主要5紙に掲載。
――そして5月20日には茶畑にいる大谷選手のビジュアルの新聞広告が公開されています。こちらは伊藤園さんの茶畑ですか?
そうです。撮影をしたのは、まさに『お~いお茶』の原料が栽培されている茶畑です。我々はもともとお茶屋からスタートした会社で、まずはお茶の美味しさを世界の人に伝えたい。そんな想いがあります。そこでまず茶畑を背景にして、大谷選手の爽やかさとともに伝わればいいなと。
――こちらも海外の新聞に掲載されたそうですが、海外の反響はいかがでしたか?
海外で日本の緑茶が浸透しているかというと、残念ながらそうではありません。日本のようにいつでもどこでも手に入る環境ではないので、大谷選手を起用した広告を掲載したからといって、急に売り上げが倍増するわけではない。ですからまずは、この日本で緑茶のトップシェアである『お~いお茶』が一体何者なのか? それを海外の方に落とし込むことを意識しました。そのためにはまず大谷選手が起用されていることで興味を持っていただく。そういったきっかけには十分なったのかなと感じています。
海外でのシェア拡大を目指してさらにアクティブな広告展開を
――海外で流通している日本の緑茶において、現在、伊藤園のシェアはどのくらいなのでしょうか?
国内の緑茶飲料市場におけるシェアは36%ですが、海外の茶系飲料市場においては数%です。ただ海外では無糖の緑茶を飲用する習慣がまだまだ根付いていないため、無糖の緑茶飲料市場としては競合がほぼいません。そこで当社としてはぜひ緑茶を飲用する習慣をつけてほしいという目標がありました。2024年6月の決算の発表タイミングで中長期経営計画を見直していますが、そこでのキーワードはもう「世界」なんですよ。とにかく世界シェアを毎年拡張することを5年スパンで考えています。
――国内での売り上げに数字的な変化はありましたか?
7月の中旬から8月にかけて、大谷選手のバストアップ画像をプリントした『お~いお茶』を期間限定で発売しました。狙い通り、若い世代や女性層の反響もあり、その影響もあって8月の単月売り上げは2桁の伸びを記録しています。ただ全体の売り上げ面の数字に関しては価格改定の影響もあって、正直インパクトのある数字の変化はないというのが実際のところです。やはり値上げをすると、どうしても売り上げの数量は減ってしまう。数字だけをみると物足りないないかもしれませんが、大谷選手を起用していなければ、もっと売り上げが落ちていたかもしれません。
数量限定販売の『大谷翔平ボトル』(現在は完売)。このボトルはグローバル社会プロジェクト「Green Tea for Good」の対象商品でもある。
―やはり緑茶においても物価高や原料費高騰などの影響は大きいのでしょうか?
茶葉に関しましては自社の契約茶園を確保しているので、他社と比べればある程度の優位性はあります。しかし深刻なのは包装資材のコスト。キャップ、ラベルはもちろん、配送の際の段ボールも価格が高騰している。さらに輸送費や人件費も同様ですね。
――大谷選手のアンバサダー契約は2025年も継続していますが、今年はどのような広告戦略を考えていますか?
野球を全面に出したビジュアルなど、いろいろな可能性を検討中です。あとは個人的には動く大谷選手も見たいですよね。これまでテレビCMを含めた動画戦略は一切やっていないので、そういった可能性も模索していきたいと考えていますので、ぜひ今後も期待してください!
取材・文/高山 惠 撮影/深山徳幸
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