裁判所のジャッジ
残念ながら、裁判でもXさんの父親は敗訴しました。「送別会の参加に業務遂行性は認められない」と判断されたのです。理由はザックリ以下のとおりです。
・有志の企画(従業員が幹事となって実施)
・自由参加であった
・参加費は自腹。会社持ちではないし補助もなかった
・閉会の挨拶もなく流れ解散
最近の判決で使われている言葉を使うと「この飲み会は、会社の支配下になかった」との判断だと思います。
ほかの裁判例
ほかの裁判例を3つ紹介します。
× 業務遂行性が否定されたケース
これはかなり昔の事件です(昭和50年代)。
・福井労基署長事件:名古屋高金沢支昭和58年9月21日判決
会社主催の忘年会(費用も会社が全額負担) に出席し、その後、頭などを負傷し意識不明の状態になったケース。裁判所は「懇親会等の社外行事に参加することは、通常労働契約の内容となっていないから、右社外行事を行うことが事業運営上緊要なものと客観的に認められ、かつ労働者に対しこれへの参加が強制されているときに限り、労働者の右社外行事への参加が業務行為になる」との判断基準を定立し、これを満たさないとして業務遂行性を否定。
これはカナリ厳しい基準ですね。「緊急」の宴会など想定しがたく、ほぼ労災が下りないことになってしまうので。下記のとおり、現在ではもう少し緩やかに認定されています。
○ 業務遂行性が肯定されたケース
以下の2つは、比較的最近の事件です。
・品川労基署長事件:東京地裁平成27年1月21日判決
会社が毎年主催している納会(社内)で飲酒し急性アルコール中毒となり死亡したケース。裁判所は「納会への参加は勤務扱いを受けることとされており,被災者は会社の本来の業務やこれに付随する一定の行為に従事したもの とはいえないが、なお、その延長線上において、労働関係上、~会社の支配下にあった」として業務遂行性を肯定。
参加が強制されていたケースと言えます。ただし、こちらのケース、業務遂行性は肯定されたのですが、ご自身で多量の飲酒をしたことが死亡の原因と認定されたため労災は下りていません(むずかしい言葉で言えば業務起因性ナシ)。
・国・行橋労基署長(テイクロ九州)事件:最高裁平成28年7月8日判決
宴会お開き後に車で同僚を送り届ける際、交通事故で死亡したケース(もちろんノンアルコールで運転)。ザックリ理由を挙げると裁判所は、上司が強引に誘った、参加せざるを得ない状況に追い込まれた、参加費用は会社もち、会社の車を運転していたことなどを理由に業務遂行性を肯定しました。
以上の2つの裁判では、宴会の緊急性を考慮することなく業務遂行性の有無が検討されています。
ポイント
「この宴会は業務かな?」を判断するときに、労働基準監督署や裁判所が注目するポイントは概ね以下の通りです。
・参加が強制されているのか
・強制されてないにしても事実上参加せざるを得ない状況だったのか
・会費は会社がもつのか、社員が出すのか
このあたりを総合考慮して業務遂行性の有無を認定していると思います。難しい言葉でいえば「会社の支配下」にあるかどうかです。
「建前は自由参加なんだけど、この飲み会ほぼ強制だよな」と思っている方は多いと思います。そんな方は【参加せざるを得なかった】ことを立証するために色々な証拠を集めておきましょう(録音・メールなど)。宴会中や宴会後に事故が起きた際に使える可能性があるので、保険として証拠を確保しておくことをオススメします。
今回は以上です。これからも働く人に向けてお届けします。
取材・文/林 孝匡(弁護士)
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