ラウンドワンのアメリカ事業が好調をキープしています。2025年3月期上半期におけるアメリカ事業の売上高は前年同期間比5.2%増の176.5億円。期初予想を3.2%上回って、上半期を折り返しました。
アメリカのゲームセンターにおけるリーディングカンパニーといえば、Dave & Buster’s Entertainment(以下デイブ&バスターズ)。ラウンドワンはクレーンゲームでその市場を奪おうとしています。
1店舗当たりの収益性が大幅に拡大
ラウンドワンのアメリカ事業は、コロナ禍の2021年3月期に売上高が前期の4割以下にまで縮小したものの、翌期には321億円まで回復。コロナ前の売上を110億円も上回りました。さらに2023年3月期、2024年3月期は2桁の増収。2025年3月期の売上高は前期比17.1%増の697億円を計画しています。
※決算説明資料より筆者作成
2020年3月期の店舗数は41。2025年3月期は57店舗へと拡大する見込み。
増店によって増収を成し遂げているのはもちろんですが、店舗当たりの売上高が増加しているのも見逃せないポイント。売上高を店舗数で割り、単純計算で1店舗当たりの売上高を算出すると、2020年3月期は5億円。2024年3月期は11.9億円。1店舗当たりの売上高は倍以上に高まった計算です。
利益率は2020年3月期のゼロから2024年3月期は18.8%まで上昇。コロナ前と後とで、稼ぐ力が大きく変化しました。
※店舗当たりの売上高は以下の資料から売上高÷店舗数で単純計算しています。
アメリカの王者も今期は減収営業減益で苦戦中
デイブ&バスターズはアメリカでゲームセンターやレストランを展開する会社。2024年9月末時点で220店舗を展開しています。大型店で4万5000平方フィート、小型店でも2万5000平方フィートと巨大なエンタメ施設を運営しています。アクション性の高いアーケードゲームなどを数多く取り揃えているのが特徴です。
広大な敷地に店を構えるレストラン併設型のゲームセンターといったところです。
デイブ&バスターズもコロナ禍で業績は低迷したものの、急回復しました。
2023年度の売上高は前年度比12.3%増の22億ドル。2019年度は13億ドルほどであり、コロナ前と比べて10億ドル近くを積み増したことになります。
※Dave & Buster’s Reportsより筆者作成
ただし、デイブ&バスターズは店舗数も大幅に拡大中。2019年10月末時点では134でしたが、2024年10月末時点では227。コロナ禍をはさんで93店舗増加しています。
一方、同社が公開している2019年度の決算資料から1店舗当たりの1週間の売上高を割り出すと172,000ドル、2024年度に記載されている金額は196,000ドル。上昇幅は1.15倍。1店舗当たりの売上高が2倍以上に拡大したラウンドワンと比較すると限定的だと言えます。
つまり、デイブ&バスターズの業績が拡大しているのは出店への依存度が高く、集客に苦戦し始めるとたちどころに停滞する危険性をはらんでいるのです。
そして、足元ではやや暗雲がたちこめてきました。
2024年度3Q単体の売上高は、前年同期間比2.8%減の4億5300万ドル、営業利益は同66.1%減の600万ドルでした。3Qまでの累計期間においても0.5%の減収、18.9%の営業減益と振るいません。1週間の1店舗当たりの売上高も196,000ドルから181,000ドルへと7.7%減少。苦戦している様子が伝わります。
インフレがクレーンゲーム人気に拍車をかけたか
ラウンドワンの好調の背景にあるのが、クレーンゲームの人気。2024年9月末時点で500台を導入していますが、これを2024年末までに1200~1300台、2025年7月末までに4000台にまで拡大する計画を立てています。
アメリカでクレーンゲーム熱が高まっていることは、日本でもしきりに報道されるようになりました。その際、日本のアニメやキャラクターが人気であるとの文脈で語られているのをよく見かけます。しかし、今の好調を支えているのは、クレーンゲームそのものの魅力のようです。
ラウンドワンの代表取締役社長・杉野公彦氏は2024年11月の決算説明会にてこう語っています。
「アメリカ単独でも、向こうでそういう日本のキャラクター、アイドル、そういったものも含めてですけれども、持っていけるような体制づくりを整えることによって、まだまだクレーンも伸びてくる可能性があるのかなと見ております。」
つまり、アニメやキャラクターグッズをクレーンゲームに本格展開することにより、売上を伸ばすポテンシャルを持っているだろうということです。今、それが繁盛しているわけではありません。
ラウンドワンは、郊外のショッピングモールの空きテナントを中心に出店しています。コロナ禍でECへとシフトしたため、アパレルショップなどの撤退が相次いでいるのです。
アメリカでは急速なインフレも進行しました。郊外で暮らす若者は、ショッピングモールのような娯楽施設を失いつつあり、買い物や気軽に外食をすることもしづらくなっています。そこに、ラウンドワンが出店して安く楽しめるクレーンゲームに注目が集まったということでしょう。
日本では一時斜陽産業と見られていたゲームセンターが、意外な形で世界を席巻しようとしています。
文/不破聡